連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記
本当に頭が良い人は全国模試で1位を取ろうとしない【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第31話】
私のバイト先にはやたら東大卒の人がいる。かつて、地元福岡の小さな世界から東京に出てきたばかりの頃は、“東大卒”なんて経歴の持ち主と出会えばそれだけで地面にひざまずいて靴を舐めなければいけないような気持ちになっていたものだが、いつしか東京にも慣れ、東大卒にも慣れた。所詮我々は同じ人間だし、東大差別などはせずフラットに受け入れていけるようになった。
ところが、最近になって、やっぱり奴らは只者ではないのだと思わされる一件があった。
女子の御三家の一つとして知られる有名女子私立中・高から、東大法学部に進んだ才女に、「やっぱり塾の模試では当たり前にいい成績とってたの?」と何気なく訪ねたときのこと。なんと彼女は小学生時代、大手進学塾日能研で全国1位の常連だったというのだ。
私は東大を受けたことはないけれど、小学校時代に塾の模試なら受けたことがあるので、この1位がどれほどの偉業かということはわかる。受験者に配られる成績上位者の順位表、その一番先頭に載っていた人が目の前にいるのだ。
めったにお目にかかれない芸能人にでも出会ったような感動を覚え、気を良くした私はその日、別の東大卒男子(公立中→開成高→東大教養学部卒)に同じ質問をした。するとその彼もやっぱり中学時代、栄光ゼミナールの全国1位だったという。
全国1位ビンゴがあればもう少しで上がれそう、と勢いづいた私はこれまた別の東大卒男子(開成中高→東大教養学部)にも同じ質問を投げたところ、案の定その彼は、小学校時代、四谷大塚の全国1位だったという。
「朝ごはん食べました」と言うのと同じくらいこともなげに「全国1位でした」と言う彼ら。やっぱ東大ってすごいところだな……と思った。
そして、すごいところだな……という凡庸な感想しか出てこない高卒の私はやはり凡庸に「めちゃくちゃ勉強したの?」と聞いたわけだが、意外にも彼らの答えは一様にノーなのである。誰からも“勉強し過ぎて死にかけた”というような苦労話が出てこない。
やはり全国1位ともなると天賦の才がものを言うのか、勉強せずとも勉強ができるのかと思ったものの、よくよく話を聞いてみると、実はここに、彼らが秀才たる秘密が隠されているらしいことがわかった。
というのも彼らは、そんなに勉強していない、と言ったあとで決まって「自分の集中力は◯分しかもたないので」と、自分の集中力の限界値について話し出すのだ。例えばある子はこんなことを教えてくれた。
「自分の集中力は15分しかもたないので、好きな30分アニメも最後まで集中して観られない。だから受験前は、15分勉強したらご褒美として5分間アニメを観る、というサイクルを作りました。これで勉強もできるしアニメも最後まで観ることができる。それでも最大6時間が限界ですけどね」
かなり特殊な勉強法だけど、おそらく全国模試で1位を取るような人達というのは皆、大なり小なりこんな風に、他人には適用できないが、自分にとってベストな勉強法を早いうちから発見して、いたずらに時間をかけたりせず、効率的に勉強するのだろう。
その証拠に、全国模試1位という華々しい過去について、ある子は「完全に時間の無駄だった」と語る。「98点を100点にして1位をとらなくても、きっと受験の合否は変わらなかった。
本当に頭のいい人は、模試で1位を取ろうなんて無駄な努力はしませんよ」とのこと。秀才が勉強における効率を突き詰めると、全国模試1位はもはや非効率なのだ!
彼は続けてこんな風にも言った。
「1位を取るためにたった2点を上げる努力をしていた当時は、自分の価値判断を他人任せにしていた。今はそのことを後悔している」
私たち、学業における天才というとつい、理解力や暗記力が突出して秀でている人をイメージするけれど、天才が天才たる真の所以は、自分の特性を正確に把握し、目的に添ってコントロールする能力が突出しているから、なのかもしれない。
まあどっちにしても、すごいよ(凡庸)。
イラスト:片岡泉
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