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幼い子どもの夜泣きがひどくて困った経験をもつママは多いのではないでしょうか。今回は、普通の夜泣きとは明らかに違う、「夜驚症(やきょうしょう)」について考えていきましょう。
「夜驚症」は聞きなれない病名ですが、3歳から6歳ごろの子どもにみられる、睡眠障害の一つです。
【監修】
赤坂ファミリークリニック院長 伊藤明子 先生
小児科医師、公衆衛生専門医、同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業、東京大学医学部附属病院小児科入局。東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。同大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。2017年より赤坂ファミリークリニック院長、NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。
著書・共著に『小児科医がすすめる最高の子育て食』など。テレビ番組「林修の今でしょ!講座」などに出演中。
二児の母。
■夜驚症って何?
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▼夜驚症とは
夜驚症とは、眠りに入ってから1~3時間の間に多く起こる子どもの睡眠障害です。夜中に急に起きたかと思うとパニック状態になり、室内を暴れまわったり、意味不明なことを言い始めたりします。
本人も戸惑ったように泣くことから「睡眠時驚愕症」とも呼ばれ、英語だと「Night terror」「Sleep terrors」といいます。レム睡眠・ノンレム睡眠・覚醒、いずれの睡眠ステージでも起きえます。
泣き叫んだり、起き上がって動き回ったりしても、本人は覚えていないことが多く、ママがそばにいてもほとんど気づきません。
▼夜泣きとの違い
赤ちゃんは夜泣きをよくします。ひどい夜泣きだと思ったら夜驚症だった、というケースもなかにはあるかもしれません。
ただ、夜泣きと夜驚症は異なります。
夜泣きは生後3カ月ごろからはじまり、2歳から3歳くらいまでで落ち着きます。夜驚症は3歳以降から多くみられます。
また、夜泣きは覚醒ステージで起きることが多く、一方、夜驚症はレム・ノンレム・覚醒、と睡眠のどのステージでも起きえます。
▼悪夢障害との違い
悪夢障害と夜驚症は、どちらも睡眠障害ですが症状は異なります。悪夢障害は、眠りの浅いレム睡眠中に怖い夢を見て、その内容も覚えており、目覚めがはっきりしていることが多いです。一方、夜驚症の場合、本人は覚えていません。
悪夢障害の発症年齢は3歳から6歳ころで、大人になっても続くことがあります。夜驚症は同じく3歳から6歳がピークなのですが、10代前半くらいで落ち着く傾向にあります。
また、悪夢障害は目覚めがハッキリしており、眠りの浅いレム睡眠中に夢をみるため、内容も覚えているのが特徴です。対して夜驚症は、眠りのノンレム睡眠のときに泣き叫ぶため、起きても本人は覚えていないのです。
▼夢中遊行症との違い
夢中遊行症は別名で「睡眠時遊行症」または「夢遊病」ともいい、眠っていたのに突然起き上がったり、歩き回ったりします。うつろな表情で異常行動を数分から30分ほど行い、目が覚めても本人には記憶がありません。
夢中遊行症の原因としては、遺伝性(家族歴)、睡眠不足や疲労、睡眠時無呼吸など睡眠の妨げになること、体調不良や発熱、一部の薬物、ストレスや不安、膀胱が満杯、騒音など、いつもとは異なる睡眠環境などが含まれます。
夜驚症の原因とかぶる部分も多く、最近は、夜驚症と夢中遊行症は同じ疾患分類と考えられてきています。
発症年齢として、夜驚症は3歳から6歳がピークですが、夢中遊行症は小児期後期から青年期まで続きます。
▼大人にも夜驚症はある?
大人も夜驚症になることはありますが、まれです。大人の場合は、アルコール依存症など何かの病気に関連していることがあります。
参考サイト:
東邦大学医療センター佐倉病院小児科「夜驚症・夢中遊行症」
National Center for Biotechnology Information「Night Terrors」
Cleveland Clinic「Sleepwalking」
■夜驚症の原因
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▼パニックが起こる原因
夜驚症のようにパニックが起こる原因は、まだはっきり解明されていません。体調不良や発熱、過剰な活動、睡眠不足や疲労、ストレスなどが考えられています。大人にとっては日常の活動でも、子どもにとっては恐怖や強い不安、ストレスを抱える出来事となることもあるでしょう。
例えば、何かの発表会など緊張するイベントが近日中にあったり、ホラーもののテレビや映画を見たり、など。また遊園地や旅行など楽しいことも強い興奮に繋がれば、夜驚症を発症することがあります。
どうして子どもの夜驚症が多いのか、原因はハッキリとは分かっていません。しかし、脳の睡眠機能の発達が中途段階なので起こると考えられています。機能が成熟する思春期には夜驚症の症状がみられなくなる場合が多いのも、そのように考えられている理由のひとつです。
▼睡眠メカニズムとの関係
睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠とがあります。ノンレム睡眠は深く眠っている状態で体も脳も休んでいます。レム睡眠は浅めの眠りで、体は休んでいますが、脳は活動しています。
夜驚症の症状が出やすい3歳から6歳くらいまでは、この睡眠機能が形成されている最中です。この睡眠と目覚めの切り替えの調節がまだまだ未発達だといえます。そのため、睡眠のどのステージであっても、ストレスや不安などにより興奮状態となるようです。
通常目覚める場合は、浅い眠りのレム睡眠を通ってから起きますが、子どもの場合はその機能が完成されていないので、脳が深い眠りの状態から一気に目覚めに向かって覚醒することも。
すると、寝ているときに一部の脳だけが起きてしまい、興奮やパニックを引き起こすのです。寝ているときなので、本人は記憶にありません。
参考サイト:
Cleveland Clinic「Sleep Basics」
■夜驚症は発達障害なの?
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▼夜驚症と発達障害
発達障害に、夜驚症や夢中遊行症などの症状がみられることがあります。夜驚症など睡眠障害が発達障害を引き起こすわけではありません。「発達障害のある子は、そうではない子に比べ夜に覚醒することが多い」という観察はされています。
■夜驚症とてんかん
夜驚症とてんかんは全く関連性がなく、別の症状・疾患となります。また、日中のパニック障害と夜驚症も直接関連づけることはありません。
■夜驚症の対処法と治療法
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▼夜驚症の対処法1:けがをしないように見守る
ママやパパがやっておきたいのは、子どもがけがをしないように配慮することです。子どもがパニックになっても無理に抑え込んではいけません。危険がないように配慮し、けがに繋がるような物をどかし、様子をみていきましょう。
▼夜驚症の対処法2:原因を取り除けないか考えてみる
ママやパパが夜驚症を理解し、落ち着いて子どもに接することが大切です。子どもにストレスや不安感がありそうならば、その気持ちを軽減できないか考えてあげます。また、寝室環境を整えて、快適に寝られるようにしてあげましょう。
▼病院へ行くタイミング
夜驚症は子どもが成長し、脳が発達すれば治まっていくものです。ほとんどが治療などは必要なく、経過観察をしていくことになります。
しかし、症状があまりに激しく、家族の睡眠などに支障をきたしてしまう場合は、小児科や睡眠外来のある精神科などを受診するのもいいでしょう。相談してみることで、よい治療法や方策が見つかるかもしれません。
▼夜驚症治療法
夜驚症の症状が頻繁に出ると、ママは心配になって治療を検討するかもしれません。しかし、多くの場合は成長していくと改善するものなので、医師には「様子をみましょう」と言われるケースが多いそうです。
・子どもの場合
10代半ばを過ぎ、夜驚症がそろそろ落ち着く年齢になっても睡眠障害が続く場合は医師に相談してみましょう。
受診すると漢方や睡眠導入剤、抗不安薬が処方されることもあります。ただし投薬が必要とは限らないので、医師とよく相談されるといいでしょう。・大人の場合
大人になっても夜驚症が続くのはごくごくまれです。その場合、「桂枝加竜骨牡蠣湯エキス」などの漢方薬が治療に使われることもあります。泣き叫ぶような発作が、一晩で1回10分以上かつ複数回ある場合は病院で相談をしてみるのがいいでしょう。
■まとめ
夜驚症は3歳から6歳の子どもに起こりやすい睡眠障害です。寝た後に突然暴れたり、泣き叫んだりと、最初はママやパパのほうが参ってしまうかもしれません。
しかし、年齢が上がるにつれ、脳も発達し、自然と落ち着いてくる場合が多いようです。
ママとパパの役目は、けがのないように見守ってあげること。寝室を整え、周囲にある危ない物はどかし、大らかな気持ちでみてあげましょう。
ストレスや不安がないかどうかも観察し、子どもの心にいつも寄り添ってあげることが大切です。
参考資料:
・東邦大学医療センター佐倉病院小児科
・National Center for Biotechnology Information
・Cleveland Clinic
・厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
・日本睡眠学会
<樋屋奇応丸>代表取締役社長および代表取締役会長 就任のお知らせ