5.5組に1組の夫婦が不妊(厚生労働省より)といわれていますが、妊活や不妊について気軽に相談できずに悩んでいる人は少なくありません。
そこで今回は、桜十字渋谷バースクリニック院長の井上治先生に、多くの方が抱える不妊治療の疑問や悩みについてうかがいました。
対談相手は、10年前に不妊治療中であることを公表し、その後3人のお子さんのママになった
東尾理子さん。お2人のお話を通して、不妊治療の「今」が見えてきました。
東尾理子さんプロフィール1975年11月18日、福岡県生まれ。8歳でゴルフを始め、プロゴルファーとして活躍。2009年に俳優の石田純一氏と結婚。不妊治療を経て1男2女を授かる。父は元プロ野球選手・監督の東尾修氏。
桜十字渋谷バースクリニック院長 井上治先生医学博士。2005年、福岡大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院産婦人科医局入局。東京歯科大学市川総合病院をへて、2018年、桜十字渋谷バースクリニック院長に就任。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本生殖医学会認定生殖医療専門医、母体保護法指定医。
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不妊治療で2回転院した東尾理子さんの「病院選び」
・病院選びは「夫の居心地の良さ」も大事
−−−東尾さん、不妊治療の最初の病院選びはどうされたんですか?
東尾さん:「何の予備知識もなく右も左もわからないまま、主人のすすめる病院へ行きました。総合病院の産婦人科でバリキャリの女医さんに担当いただいたんですけど、主人はすごく居心地が悪そうでしたね(笑)。
『旦那さんの精子、元気がないですね』って単刀直入にはっきり仰る先生で。
そこでタイミング療法と人工授精を1年くらいして、結果が出なかったのでそろそろ体外受精かな…って思っていたところ、その病院では体外受精をやっていないとその時初めて知ったんです。それで、体外受精ができる別の病院へ転院しました。
次の病院では男性医師が担当だったので、 まあ主人の居心地の良さそうなこと(笑)。
夫が不妊治療に協力的ではないことに悩まれる方も多いと思いますが、その場合は、男性医師のいらっしゃる病院がいいかもしれません。相談しやすく旦那さんが前向きな気持ちになれるようです。ね? 井上先生」
井上治先生(以下、井上先生):「そうかもしれませんね。当院はほぼ全員、1回は旦那さまも受診されています。『旦那さまも検査をお願いしますね』と奥さまにお伝えすると、大抵みなさんいらしてくれ、協力的な旦那さまが多い印象ですね。
でも、稀にどうしてもいらっしゃらない方も中にはいます。その場合は、排卵検査薬を使ったタイミング療法を指導します」
・精子の検査は泌尿器科やアプリでも
東尾さん:「男性の場合は泌尿器科でも精子検査はできますよね? いきなり産婦人科での検査がハードル高く感じるようなら、まずは泌尿器科で検査してもらうのもいいかもしれませんね」
井上先生:「
それさえも恥ずかしい方には、精子の状態をチェックできるスマホアプリがあるのでそれをご紹介しています。精子がいるかいないか、運動率、濃度がわかります。奇形率まではわからないのですが、精液検査よりずっと安いですから利用しやすいと思います」
東尾さん:「病院選びはとても重要だと思いますね。
病院にも相性があって、一歩踏み入れた時の感覚はすごく大切だと感じました。ネットで探していいなと思ったけれど、実際行ってみたら肌に合わない、居心地が悪いという場合もあると思います。
私は2回転院しましたが、病院を変えるのはとても勇気がいるものです。井上先生の前では言いにくいのですが(笑)、正直な話、病院は患者一人ひとりの人生の責任を持ってはくれません。だから、自分の意思で勇気を出して、積極的に病院のことも治療のことも勉強しなくてはいけないと思っています」
井上先生:「大規模病院とクリニック、地域密着の古い病院と新しい病院、男性医師と女性医師、治療法や方針もそれぞれ違いますね」
東尾さん:「どういった病院が、自分は居心地良く感じるかが大切ですね。先生お一人のクリニックなら、いつ行っても同じ先生が診て話もできる利点はありますが、その代わり待ち時間が長い場合もあります。
忙しい方なら、先生は診察のたびに変わってもいいからとにかく待ち時間が短いところで、勤務先や家に近くパパッといけるところが良いという方もいらっしゃると思います。
また、待っている間はなるべく居心地良くリラックスして過ごしたいから、インテリアにこだわった新しいクリニックが良いという方もいます。病院選びでは、そういった肌感覚もすごく大切ですね」
仕事と不妊治療は両立する? 治療法選びが鍵
−−−お仕事を続けながらの不妊治療にもご苦労があったそうですね。
東尾さん:「私の場合は自分でスケジュールを決められる仕事なので、普通に会社へ勤務している方より不妊治療を進めやすかったとは思うのですが、それでも仕事で海外へ行くこともあり、治療をお休みしなければいけない期間もありました。
でも、それはある程度割りきってもいいと思うんです。治療をしていると、どうしてもそれが最優先になってしまい、生活すべてを支配されるようになってきます。そうすると精神的に疲れてしまうので、不妊治療から1年くらいたった頃、優先順位にメリハリをつけようと決めたんですね。
もちろん、
治療が最優先というのは変わらないんですが、時には仕事を一番にしたり、旅行を一番にしたりと臨機応変に優先順位を変えるようにしたんです。」
井上先生:「最近は女性が働いているケースが多く、夫婦共に忙しいと妊娠のタイミングや治療のスケジュールを組むうえで難しい部分もあります。会社によっては不妊治療に協力的なところも増えてきていますが、やはり土曜日しか通院できないという方は多いですね」
東尾さん:「そういう方はどう治療を進めているんですか?」
井上先生:「
タイミング療法の方には排卵検査薬の使用を勧めたり、体外受精の方は薬でコントロールして採卵を土曜に合わせたりします。ただし、採卵日は2〜3日しかずらせないのでなかなか難しいですね。そういう時だけ、週2日通院してもらうのが望ましいです」
・卵を増やせる排卵薬 使うべき?使わないべき?
東尾さん:「実は、2軒目の病院は不妊治療に薬を使うところで、1回目の採卵で体への負担が私にはすごく大きかったんですね。そして、体外受精をしてみても結果が出ませんでした。
私は、ダメなら次、次っていうタイプなので(笑)、薬を使わない病院で治療を受けてみようと、すぐに2回目の転院をしたんです。そこで長男を授かりましたが、もしそこでも思うような治療ができなかったら、またすぐに転院していたと思います」
井上先生:「当院では患者さまのご希望に沿って治療を行うので、薬を使う・使わないの両方が選べます。ただし、
年齢的に時間の猶予がない、忙しくてあまり通院できないという方には、薬で採れる卵の数を増やして採卵というほうが現実的かと思います。
採卵は患者さまの体への負担が大きいので、医師はなるべく1回だけの採卵で妊娠に結びつけたいと考えます。そうすると、一度になるべく多く卵をとりたいため、薬を使う方法をおすすめするわけです。
中には、東尾さんのように薬を使用することで体調を崩される方もいらっしゃいます。その場合は、飲み薬しか使わない、体質に合う薬を選ぶ、副作用を抑える薬を処方するなど
患者さまそれぞれに合わせて薬を使っていく方法をとっています」
東尾さん:「私は薬を使わない、注射も打たない病院に通っていたので、スケジュールをコントロールするのが難しく、通院回数は多かったのかもしれません。排卵直前は卵の成長や採血結果を見ながら3~4日ほど通院しました。
薬をうまく使うことで通院回数が抑えられるのはいいですよね。
正直、患者として通院回数が少ない方が楽ですし、ストレスを感じる機会も減るわけですから。病院の待合室でのドキドキは今でも思い出します。
採卵してから受精するかどうか、受精してから胚盤胞まで育つかどうか、それを移植してから着床するかどうかとか、ドキドキしっ放しです。着床したと思ったら、そこから心拍が確認できるまでが長くて」
「遠慮せず聞いて欲しい」病院は何でも相談できる場所
−−−東尾さんは不妊治療中の方から相談を受けることが多いとうかがいました。
東尾さん:「不妊治療をされている方は、
やはり悩みを打ち明けられる場所がなくて苦しんでいる方が多いんですよね。都市部と地方では治療の悩みにも違いがありますが、イベントをすると同じ悩みを共有する方が集まるので、いろいろなことを話せるからすっきりした顔で帰られます。
病院にも、そういったことが話せる場があるといいですね。診察を待っている間の10分、15分、お医者さんには聞けないこと、聞きにくいことを話すだけでも全然違うと思うんです。
各病院にカウンセラーがいて、そういった悩みを吐き出すところがあればいいですよね。私自身もピア・カウンセラーの資格を取得しました。また、
日本不妊カウンセリング学会は看護師さんの参加もすごく多いです」
井上先生:「そうですね。私も診察・治療の中でそれは感じています。当院は、注射の説明をするときや実際に注射をするときに少し時間が持てるので、
看護師から患者さまにお声がけするようにしています。そこでうかがった内容をその後の治療に活かしたりしています。
例えば、診察では普通にお薬を使う方法で移植をとうかがっていたんですが、看護師には『実は薬を使わない自然な形で移植する方法に変えたいんです』と本音をおっしゃっていただけて。私に相談してもらうのが一番なんですが、言いにくい、話しにくいことは看護師など話しやすい相手に相談してもらうのが良いと思います」
・先生への質問は積極的に ときにメモを持参することも
東尾さん:「先生みなさん必ず『質問ありますか?』って聞いてくださるんですけど、時間をとったら悪いかなとか、こんなこと聞いてもいいのかなとか、患者は遠慮をしてしまいますね(笑)。
聞いておきたいことがあっても、診察になると緊張して忘れてしまうこともあります。だから、
私は聞きたいことをメモに書いて持参していました。その方が先生も効率よくお話しいただけるので。
私はスケジュールのやりくりが大変だったので、初めての治療の場合は、そのあとどれくらい体を動かしていいですか?とか、針を刺したあとの安静はどれくらいですか? なるべくゆっくり過ごしてと言われてもゆっくりって何? 階段の上り下りは運動になるの?とか、表現の違いで受け止め方も違うのでいろいろ質問しました」
井上先生:「運動や食べ物の質問はよくお受けしますね。タバコは禁煙していただくよう伝えます。でも、
絶対ダメですよってお伝えするのは、移植後の性交渉くらいですね。それ以外で、普通の生活をしている分には問題ないとお伝えしています」
東尾さん:「働いている方は、治療のスケジュールが気になると思いますが、先生はどう説明されていますか?」
井上先生:「採卵に関していえば、
自己注射で採卵日までに最低2回、採卵日合わせても3回通院してもらえれば大丈夫ということはお伝えしています。ある程度は薬によってスケジュールを管理することができます。胚移植日は前後1週間ずらすことも可能です」
これからの不妊治療、今だからできること
−−−もし今、妊活するとしたらどういうふうに進めますか?
東尾さん:「今振り返ると、10年前の私たち夫婦の年齢(東尾さん35歳、石田さん56歳)を考えたら、
最初から体外受精に挑戦しても良かったと思います。
当時は、いい病院だからと紹介されたところにそのまま通って、最初は自分から何も調べたり勉強したりしませんでした。それはそれで、その時に必要なことだったと思いますが、今なら人任せにせず自分でもっとしっかり勉強しますね。
治療方や治療方針にも種類があって、先生がおすすめするものが必ず自分に合うとは限らない。先生はもちろん一番いい方法を提案してくださるんだけど、それが必ずしも自分にとってベストな選択かというと、そうとは言えないこともあります。
だから、
病院のこと、先生のこと、治療のことを自分自身でしっかり調べて勉強してリサーチして、どういうふうに治療したいかを今なら考えると思います。
例えば、私は薬を使わない治療法を選びましたが、今は薬もいろいろあるので、体に合うのなら使用しての不妊治療をやってみても良かったと思います。薬もですが培養方法も、昔と今では全然違いますよね?
井上先生:「当院はタイムラプスインキュベーターという受精卵に極力ストレスをかけずに胚培養が行える培養器があり、それがとても効果を上げています(
『凍結胚盤胞移植の臨床妊娠率』)。うちは生殖医療胚培養士も凄腕で(笑)」
東尾さん:「10年前は病院や先生、培養士さん、機器の情報なども全く収集していませんでしたが、今はそれがどれだけ重要なことかわかります」
−−−今はコロナ禍で不妊治療を始めたいと思っていてもなかなか難しいですが、女性も男性も35歳を境に妊娠率が急激に下がるという時間的な制約もありますよね。
井上先生:「そうですね、病院へ足を運ぶのをためらわれる方は多いと思うので、まずは排卵検査薬などを活用して、妊娠にトライしてもらいたいですね。もちろん、自分やパートナーの体のことはわかっていたほうがより良いと思いますし、妊娠できるかどうかだけではなく妊娠に影響する感染症リスクもクリアにできるので、気軽に検査からしてもいいと思います。
ただし、年齢にもよりますが、検査をして何の問題もないご夫婦でも、妊娠できない、不妊原因がわからない患者さまはたくさんいます。
目安として20代で1年、30代で半年、タイミングを合わせても妊娠できない場合は検査にきて欲しいですね」
東尾さん:「今は一般男性の100人に1人が無精子症とも言われていますよね」
井上先生:そうですね。精子そのものがない場合は、どれだけタイミングを合わせても…というのがありますから、やはりなかなか妊娠しないようなら検査をしてもらうのがいいですね。いきなり検査が恥ずかしいのであれば、先に紹介したアプリを活用するのもいいと思います。
東尾さん:妊娠には、子どもを授かりたいなと思っている時に、授かれる体の準備をしておくというのが大事だと思います。例えば私の場合、2人目のときに風疹抗体が弱まっていることがわかり、治療の再開を2ヶ月待った経験があります。1人目を産んだ後だから抗体も大丈夫だと思っていたのですが、治療の再開を待つ時間はとても長く感じました。
そういうことも含め、
自分の体が授かれるかどうかだけでも検査・確認しておくと、気持ち的にもゆったりと待ち構えられると思います。それは、女性だけではなく男性も。妊娠したいなと思った時に心も体も万全な態勢が取れるように、迷っている方は検査だけでもいいですし、もっともっと産婦人科が身近になって欲しいですね」
妊娠について不安があれば、生殖医療専門医に相談を
「子どもは欲しいけれど、妊娠できるかどうか」といった漠然とした不安を抱えながら年齢を重ねてしまうと、妊娠率を下げることにもつながります。
少しでも不安があるようなら、まずは生殖医療専門医に相談してみてはいかがでしょうか?
井上先生が院長を務める桜十字渋谷バースクリニックのご紹介
左上:中待合/右上:会計待合/左下:リカバリールーム/右下:培養室
JR渋谷駅より徒歩約5分、渋谷PARCO隣の好立地に、2018年開業した渋谷エリア唯一(※)の
不妊治療専門クリニック。
日本生殖医学会認定生殖医療専門医である井上治院長をはじめ、体外受精を数多く手掛けるクリニックで経験を積んだ培養室長など高い技術を持った医師・スタッフがそろい、胚(受精卵)へのストレスを最小限にした最新型培養器「タイムラプス」や培養液の工夫、卵子凍結技術の向上など、ソフトとハード両面で患者さまを支えています。
※2020年12月現在
【住所】
東京都渋谷区宇田川町3-7 ヒューリック渋谷公園通りビル4階(Google Map)
※JR山手線 渋谷駅 ハチ公口 徒歩5分/東京メトロ 渋谷駅 6番出口 徒歩4分
【診療日】
月~土 ※水土午後・日祝休診(詳細はこちら)
【TEL】
03-5728-6626
渋谷バースクリニックを
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取材/文:山本知美
撮影:有本真大
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