地方創生ではなく地域創生…行政は税金を1円まで活かし効率的で効果的な仕事をする必要がある【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.29】
子育て層に注目の流山市。行政には珍しいマーケティング課があるなど、都市計画コンサルタント出身、いわば、地域づくりのエキスパートとも言える井崎義治市長によって、「経営」の観点を取り入れた市の運営を行うことも注目されています。井崎市長が考える、行政のあり方、地方創生とは?
お話を聞いたのは…流山市 井崎義治市長
昭和29年 東京都杉並区生まれ、千葉県柏市育ち。平成元年から流山在住。立正大学卒、San Francisco State University大学院人間環境研究科修士課程修了(地理学専攻)。昭和56年 Jefferson Associates- Inc.,Quadrant Consultants Inc., 昭和63年から住信基礎研究所、エース総合研究所を経て、平成15年から現職。
>>千葉県流山市 井崎義治市長 公式ページ
―米国でも都市計画のお仕事をされていましたが、そこから、市長選に出馬するというのは、どのような経緯があったのですか。
井崎市長:実はずっと米国で仕事をするつもりで、永住権も取得していましたが、子育てを機に、帰国したんです。その時に、どこに住むかは徹底してリサーチをして、緑や緩やかな坂が多く、TX(つくばエクスプレス)が開業することなどを見込み、流山に住むことにしました。住民の意識も意欲も元々とても高い地域ですが、私が転入した後、行政サービスの水準が低下し、たとえば学校の修繕も、先生方自身でペンキを塗るくらい、財政が悪化していったのです。特に、TXの開業に合わせた区画整理が財政的な視点からの検討が不十分で、このままでは、財政破綻をするという危機感が強くなりました。
―それで市長選に出られようと思ったのですか?
井崎市長:最初は、議員さんや市内の意識の高い人に、ぜひ市長選に出てくれないかと相談していましたが、問題意識が全然なかったんですね。私は自分の選んだ街、良質で快適な住環境があるはずの流山市が、転落していく未来が見えたので、結局、自分で出ることにしました。
―ご家族は反対されませんでしたか?
井崎市長:まず妻に相談しましたが、大反対でした。家を買ったばかりでローンもありましたし、子ども2人も小さくて。説得しようとしましたが、なかなか納得してくれないんですね。そしたら、私の父や母がうんと言ってくれたら、ということだったので、父にも母にも、それから妹にも相談したら、みんな「いいんじゃない」って(笑)。
―奥様は反対してくれると思ったのですね。
井崎市長:はい、そうだと思います。両親も妹も、私が子どもの頃から、地域の変化、街が変わっていく様子、またそれはなぜ変わっていくのか、ということに興味を持つ、まあ、変な子どもだったのだと思いますが、そんな姿をずっと見ていたので、「ピッタリだね」と。それで今に続くのですが、1回目の市長選は落選してるんです。でも、自分としては選挙や人生を深く認識する機会になったので、良かったと思っています。
―それでも、落選すると、普通無職になるので、奥様が心配されるように、家計はどうしようとか、思われますよね。
井崎市長:それが、それまで勤めていた会社から、投開票日の翌日、戻ってこないかと言ってもらえたんですね。それで次の選挙まで、また都市計画のコンサルタントの仕事をしました。
―それは有難いですね。そういう意味でも、ずっと、都市計画、都市経営ということをお仕事とされてきましたが、行政の経営というのは、何が違いますか。
井崎市長:同じだと思っています。違うという認識がおかしいと思います。行政は何もしなくても、税金という収入が入ってきます。だからこそ、民間以上に、1円まで活かす、効率的、効果的な仕事をし、市民に役に立つ、そして成果が上がる市役所にするということが必要であることを、市長選の時から訴えてきました。
―それはその通りですね。ただ、行政は、一方の市民の代表である議会を通さないといけないなど、プロセスを踏むことの重要性もありますね。
井崎市長:議会も市職員も、最初は、「経営」という感覚がなかなか理解できなかったので、研修をやったり、私自身も職員にメールを送ったりしながら、少しずつ理解できるようになっていったと思います。
―お子さんの頃のご興味から、米国でのご経験を経て、市経営の先頭に立つという、一貫したキャリアの中で、市長がお考えになる地方創生とは、どのようなものですか。
井崎市長:「地方」という言葉が、そもそも霞ヶ関の「上から目線」を感じています。本来は「地域」創生だと思うんですね。それぞれの地域に、すでにあるものを生かして交流人口を増やすということではないかと思います。人口減少社会ですから、定住人口を増やすことは、なかなか難しいと思います。流山市は住宅都市ですが、ツーリズム推進課を置いています。ツーリズムは、地域にあるものを活かし、テーマを設定し、たとえば、利根運河周辺の自然を活かしたグリーンツーリズムなど、そういうもので交流人口が生まれていくんです。
―定住人口が増えている流山でも、その先を考えていらっしゃるのですね。素晴らしいです。
井崎市長:ありがとうございます。これからも市民の役に立つ市政をおこなっていきます。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。