「対話の区政」を掲げる杉並区が考える教育とは? 今年度スタートした子どもにとって大切な3つのこと【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.31】
「住みたいまち」「住みやすいまち」調査で、いつも上位に位置する杉並区は、教育への関心が高い住民が多いことも特徴。岸本聡子杉並区長のインタビュー第2回は、今年4月に、「子どもにとって大切な3つのことをスタートさせた」という杉並区の教育についてお聞きしました。
お話を聞いたのは…杉並区 岸本聡子区長
1974年7月15日生まれ、東京都大田区出身。神奈川県立川和高校、日本大学文理学部卒業。大学入学後、国際青年環境NGO A SEED JAPAN(ア シード ジャパン)に参加。大学卒業後、同法人有給専従スタッフに。その後、2001年にオランダに移住。国際政策シンクタンクNGOトランスナショナル研究所研究員。ベルギーに移住し、2022年4月に帰国し、杉並区に居。同年7月から杉並区長に。
>>杉並区 岸本聡子区長 公式ページ
―区長が「対話の区政」を掲げられていることが、「対話的な深い学び」を後押ししていると考えていますが、どのような教育ビジョンをお持ちですか。
岸本区長:「主体的・対話的で深い学び」は私が就任する以前から、教育委員会が、教育の重要な柱としてきました。「対話的で深い学び」では子ども同士や教師、地域の人と、互いの考えや学んだ知識などを共有し、本質的な理解を深めることを目指しています。全小中学校63校に学校支援本部を設置して、特に学校と地域の連携に力を入れています。「いいまちはいい学校を育てる、そして学校づくりはまちづくりにつながる」という教育の思想が長年受け継がれているなかで、私が掲げた「対話の区政」との親和性が高いんだと思います。
―学校支援本部の成果というのは、どのようなものですか。
岸本区長:本部事務局の一員である「学校・地域コーディネーター」が橋渡しとなって、多様な人材の協力が得られ、教育活動が展開されています。例えば、環境団体と連携した探究活動や、赤ちゃんと保護者の協力によって、「保育体験」を実施したりしています。
―区長の掲げられる「対話の区政」という点から、教育においては、どのように取り入れていますか。
岸本区長:私は、心理的安全性のある社会を作りたいと思っています。学校でも職場でも、地域社会でも、安心して、何でも言い合える関係性を持てる社会を目指しています。子どもの居場所づくりも、その一つとして進めています。具体的には、すべての子どもに家庭や学校以外に、歩いて15分以内に安心して楽しく過ごせる居場所があるということを目指して基本方針を定めました。25の児童館を子どもや中・高校生の居場所、子育て支援ネットワークの拠点として拡充していくとともに、学校についても放課後等の居場所として、事業の拡充をしていきます。加えて、今年に入って、私たちにとって大切な3つのことをスタートさせました。
―どのような内容ですか。
岸本区長:一つ目は、「杉並区いじめの防止等に関する条例」です。いじめは、どの子どもにも、どの学校にも起こりうるということ、「いじめは絶対に許さない」という認識のもと、被害児童・生徒を徹底して守り、いじめをおこなってしまった児童・生徒には必要な指導と再発防止のための支援を行うことを明確にしたものです。二つ目は、「杉並区子どもの権利に関する条例」です。すべての子どもが権利の主体として尊重され、安心して暮らすことができる地域社会の実現を目指すもので、この条例に基づいて、子どもが辛さや苦しさを感じたときに気軽に相談できる「子どもの権利救済委員」を設置しました。親でも学校でもない第三者として、専門家が子どもの話を聴き、最もよい解決方法を子どもと一緒に考える窓口です。三つ目は、「杉並区子どもの居場所づくり基本方針」です。すべての子どもが学校の放課後や夏休みなどの長期休暇中に安心して過ごせる居場所を作っています。
―子どもを主体とする、また子どもを守るための環境整備が、一気に進みましたね。
岸本区長:子どもの権利に関する条例については、2年間の議論を経て、制定に漕ぎ着けました。学校教育は、カリキュラムをどうするかというのがコアのところですが、その周辺には、先生のこと、いじめ問題、部活、不登校など、本当にさまざまな課題があって、区の政策として、どのように資源を配分していくかということも含め、区役所の中で、情報共有を含め、信頼関係があるというのが欠かせないと思っています。
―昨今の無償化の流れとは違うアプローチですが、とても重要なことだと思います。
岸本区長:無償化については、政策競争みたいになっているとところに少し危惧があります。そうは言っていても、できることをしっかりと検討して、制度設計をして、持続可能な方法でやっていきたいと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
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