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連載 細川珠生のここなら分かる政治のコト

早咲きの梅と桜にドラマのロケ地でも注目の熱海市!宿泊税で年間10億の観光財源を元手にさらなる発展を期待【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.41】

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一時は深刻な財政難に直面しながらも、子育てや教育には手を抜かなかったという熱海市の齊藤栄市長。傍らで、職員とともに痛みを分かち合いながら、10年かけて赤字を解消し、観光の再生へと導きました。今では「早咲きの梅と桜」「ドラマのロケ地」など再び注目を集めています。市民とともに歩んできた齊藤市長の挑戦には、まちづくりの温かな哲学が息づいています。


早咲きの梅と桜にドラマのロケ地でも注目の熱海市!宿泊税で年間10億の観光財源を元手にさらなる発展を期待【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.41】 お話を聞いたのは…
熱海市 齊藤栄市長

1963年3月生まれ。東京都出身。東京工業大学工学部土木工学科卒業、東京工業大学大学院修士課程(土木工学専攻)修了(うち、1986年~1987年に米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校へ交換留学)。1988年4月に国土庁(現国土交通省)入庁。

その後、学校法人滋慶学園 勤務、国会議員(衆議院)政策担当秘書を経て熱海市市長に就任。現在5期目。
>>熱海市公式HP 「市長の部屋」



―熱海市といえば、年間を通じて開催される花火大会や、駅前の商店街のにぎわい、そして温暖な気候と温泉など、古くから観光や湯治の町として有名ですが、齊藤市長がご就任されたときは、熱海の衰退期で大変なご苦労があったようですね。
齊藤市長:はい、今、市長として5期目で在任期間も19年になりますが、1期ごとに課題が違うし、日本の20年、30年後の課題が集約されているような町、つまり課題先進市なんです。

―課題先進市。なるほど。初めて聞いたネーミングです。市長にご就任された時は、どのような状況だったのですか。

齊藤市長:まず、熱海市ってどんな町かというと、製造業はほとんどなく、主産業は観光。人口が約3万3千人ですが、宿泊者数は年間300万人にも及びます。
早咲きの梅と桜にドラマのロケ地でも注目の熱海市!宿泊税で年間10億の観光財源を元手にさらなる発展を期待【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.41】
―その比率はもしかしたら日本一ではないですか?
齊藤市長:年間で人口の100倍が宿泊する町はあまりないと思います。このため、救急車両は人口10万人規模の町として用意をしています。

―ゴミや水道などのインフラ整備の問題もありますね。
齊藤市長:おっしゃる通り。しかし、主産業である観光が衰退していたのが、私が市長に就任した時でした。市は、40億円超の赤字を抱え、財政破綻一歩手前。
すでに決定していた市庁舎の建て替えも延期し、大規模公共事業の見直し、職員数の削減、そして、私はもちろんですが、職員給与の削減もやらざるを得ませんでした。ありとあらゆることをして、10年目、つまり3期目でようやく財政赤字がゼロになりました。この間は、削るばかりで、職員も本当に苦しかったと思います。

―その中でも、子育てや教育など、子どもに関する施策には手を抜かなかったと伺いましたが、主産業の観光は、どのようにされたのですか。
齊藤市長:観光振興も2期目からようやく取り組めたのですが、私が市長に就任してすぐに「財政危機宣言」をしました。その時に、熱海市のイメージが悪くなったということで、市内からは散々叩かれましたが、一方で、地元に縁のある財界人が、「熱海市の財政がそれほど厳しいとは知らなかった」と、観光振興のプランを持ってきてくれて、それと合わせて私財から多額のご寄附もしてくださったのです。

―それはありがたいお話ですね。
齊藤市長:はい。
そのプランは、日本一早咲きの梅と桜をきちんと整備すれば、必ず観光客は戻ってくる。そのための整備に協力したいというものでした。

―早咲きというのは、どれくらいに咲くんですか。
齊藤市長:梅は、10月に咲きます。桜は、あたみ桜という品種で12月に咲きます。そのご寄附を使って、老木化した熱海梅園の梅を植え替え、糸川遊歩道沿いを54本のあたみ桜で統一しました。
早咲きの梅と桜にドラマのロケ地でも注目の熱海市!宿泊税で年間10億の観光財源を元手にさらなる発展を期待【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.41】
―え、そんなに早く?
齊藤市長:そうなんです。と言っても、ピークは1月、2月なので、熱海梅園の梅と糸川のあたみ桜が同時期に見ごろになります。
1月には熱海梅園の梅まつりと糸川の桜まつりを同時開催して、熱海梅園と糸川が周遊できるようにしています。これをきっかけに熱海の魅力を再発見してもらうことにつながりました。本当に、その方は熱海の大恩人です。

―熱海でのロケなども増えているのですよね。
齊藤市長:それについては、「ADさんいらっしゃい!」という取り組みです。市の職員がロケに関して全面的に支援することで、ロケ誘致を推進しています。情報提供だけでなく、地元の人の出演やロケ弁の手配など、AD(アシスタントディレクター)さんが日頃苦労されている作業を徹底的にサポートするというものです。それには市民や事業者のご協力が欠かせなく、正に市民協働によるメディア広報活動ですね。
それで、ドラマやバラエティ番組のロケ地としてもメディア露出が増え、宿泊客の増加にもつながりました。

―今後なさりたいことはありますか。
齊藤市長:観光では、今年4月から宿泊税を導入しました。お一人1泊200円で、年間約7億円の税収になります。これを年間約10億円の観光財源の一部として、DMO(観光地域づくり法人)の運営資金として活用したいと思っています。DMOは、「一般財団法人熱海観光局」として2024年度に設立しました。公募による専門人材の登用で、熱海観光の舵取り役となることを期待しています。

―旧国土庁の官僚であられた齊藤市長にとって、地域づくりはある意味、専門分野でもありますね。

齊藤市長:私は「自主自立」が重要だと考えています。人口3万人程度の自治体は市長の行動も市民に見えており、これが民主主義の基本単位。しかし、正直なところ、市民が自分事として課題を捉えるようになるまでの道のりは遠いです。日本全体が「おまかせ民主主義」になっています。次の課題は市民の意識改革であり、自分事として地域の課題に取り組む市民を増やしていきたいと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生


早咲きの梅と桜にドラマのロケ地でも注目の熱海市!宿泊税で年間10億の観光財源を元手にさらなる発展を期待【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.41】 政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。



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