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パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.45】

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初めての子育ては、嬉しさと同じくらい不安や戸惑いもあるもの。そんなママたちを「ひとりにしない」ために、豊島区ではパパの育休サポートから子どもの体験支援、居場所づくりまで、家族全体を丸ごと支える取り組みを進めています。「パパもママも、そして子どもたちも孤立させない」。そう語る高際みゆき区長の思いには、子育ての大変さに寄り添い、少しでも心が軽くなるようにという温かな願いが込められています。

パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.45】 お話を聞いたのは…
豊島区 高際 みゆき区長

1965年7月6日生。東京女子大学文理学部 社会学科卒。民間勤務を経て、東京都入庁。日本司法支援センター(法テラス)犯罪被害者支援課長、福祉保健局 総務部 副参事(区市町村連絡調整担当)、福祉保健局 少子社会対策部 計画課長、生活文化局 私学部 私学振興課長、生活文化局 総務部 総務課長、公立大学法人首都大学東京 総務部長などを経て、2018年4月に政策企画局 小池百合子都知事の秘書事務担当部長、2020年4月に豊島区副区長(コロナ対策・福祉・健康・子育て支援・若年者支援・文化・環境・産業振興を担当)を経て2023年4月 豊島区長就任。

趣味は一人旅(アジア、秘境が大好き)、読書、映画鑑賞。
>>豊島区公式HP 区長紹介ページ



―まず、豊島区が進めている子育て支援の基本的な考えをお聞かせください。
高際区長:子育て支援と子ども支援の二本柱で考えています。子どもの未来を守るには、親の支援だけでなく、子ども自身への支援も欠かせません。子どもがどんな環境にあっても「その子らしく、たくましく育つ」ことを大切にしています。

―特に力を入れているのがパパ支援だと伺いました。
高際区長:そうなんです。育休を取るパパは増えていますが、一方で「孤立して鬱っぽくなる」という課題が顕在化しています。
実際に区で調査すると、パパの76.5%が精神的負担を感じ、42%が精神的不調を感じたという結果でした。これは“パパ危機”だと考え、まずパパ向けの情報をまとめた「パパのための子育てガイド」を作成しました。

―「MAP for PAPA」ですね。これ、とても素晴らしいと思います。企業でもパパ向けも含めた「両立支援ガイドブック」のようなものを作っているケースは多いですが、あくまでも休暇などの制度の活用のためのもの。「MAP for PAPA」は、「父親として」という視点で、母子手帳ならぬ、「父子手帳」のようなものですね。
高際区長:ありがとうございます。多くのパパは育休を取っても、情報がないまま突然家庭に入るので戸惑います。
ママ友はいてもパパ友は少ない。そのため、公園デビューすら怖いという声もありました。だからこそ、妊娠期から「何が起きるか」「どう関われるか」を知れるよう、支援先やパパ講座、パパ同士が出会える場所などを具体的にガイドに盛り込みました。
パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.45】
―パパ講座への参加も増えていますか。
高際区長:以前よりずっと増えています。豊島区ではパパズカフェやパパの応援講座、お風呂の入れ方など夫婦で参加する準備教室など、パパ向けの学びの機会を広く用意しています。外国籍のパパも増えているため、今後は多言語でも作成する予定です。

―母親の負担を減らすためにも、パパ支援は欠かせませんね。

高際区長:本当にそう思います。二人目を諦める大きな理由の一つは、一人目の時に家庭内で自分だけが大変だったからという思いなんですね。行政の支援、民間、そしてパートナー。みんなで一歳までの大変な時期を支えることが、次の希望につながります。

―区長ご自身のご経験も、支援策に影響しているのでしょうか。
高際区長:私はかつて、東京都から厚労省へ出向して、育児・介護休業推進室にいました。当時、男性の育休取得率は1%台。「どう普及させるか」に向き合いましたが、今は、数字が増えているだけで実態が伴わない状況には違和感があり、どこかにギャップがあるのではないかと思ったのです。
ギャップがあるままでは、取った本人も家族もつらい育休になってしまう。それでは意味がありません。パパ自身も家族みんながハッピーになるようなパパの育休にするための支援が必要だと思ったのです。

―一方で、子ども支援としての取り組みも非常に幅広いですね。
高際区長:豊島区には「誰も孤立させない」という基本方針があります。虐待、貧困、障害、日本語がわからない、働く親が多忙で孤立する…子どもたちが抱える環境は本当にさまざまです。そこで今力を入れているのが体験格差を埋める取り組みです。

―具体的にはどのようなものですか。

高際区長:たとえばダンスを習いたくてもお金がない、夏休みに家にいるだけになってしまう、文化体験をしたことがない…。こうした格差をなくすため、100を超える企業・団体と「チームとしま」を作り、プロのダンスチームやスポーツチームが学校に行ったり、無料でミュージカルを観られたり、小劇場を使って、自分が舞台に立つという経験もできるようにしています。また、駒込のソメイヨシノや長崎の長崎獅子舞など、地域に素敵な文化や資源があるので、地域の方々が学校と連携して子どもが「わぁ!」と感動できる体験を届けていただいています。

―子どもたちの居場所づくりも進んでいますね。
高際区長:はい。学校でも家でもない“第三の居場所”が必要です。豊島区では、再開発前の空き家をディベロッパーから借り、若者支援のNPOと連携して居場所づくりを進めています。ここでは中高生や若いママ、外国籍の子など多様な子ども・若者が安心して過ごせるような多様な居場所づくりを区が積極的に支援しています。

パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.45】
―NPOにどのような支援をされているのですか。
高際区長:ディベロッパーは本区に無償で空き家を提供することで、固定資産税等が免除されています。本区はそれを民間団体などに無償でお貸しする。もし改修などが必要であれば、その費用は区が補助します。再開発が始まるまでの期限付きではありますが、更地や空き地は防災上も良くないので、その間でも有効活用できればと思っています。

―区内のさまざまな方たちが、子どもたちのために協力しているのがよくわかりました。
高際区長:行政だけではできないこともあるので、民間やNPO、地域の方々との連携はとても大事だと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生


パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.45】 政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。




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