外国人問題や不登校問題にも取り組み…お弁当の提供が不登校の学生が外に出るきっかけに 共感を産むことの重要性とは【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.46】
外国籍の子どもたちへの日本語支援や、不登校の子どもが安心して過ごせる居場所づくり――。豊島区では、一人ひとりのペースを大事にする支援をしています。言葉が分からない不安、学校に行けないつらさ、そして一人で悩みを抱えるママの気持ち。高際みゆき区長は、一人ひとりの背景に目を向け、きめ細かく、教育と子育ての支援を進めています。誰ひとり取り残さないための、あたたかな取り組みを、高際みゆき豊島区長にお聞きしました。
お話を聞いたのは…
豊島区 高際 みゆき区長
>>豊島区公式HP 区長紹介ページ
―豊島区では外国籍の方々が多いので、当然お子さんも多いと思いますが、どのような取り組みをされていますか。
高際区長:今年5月時点での区立小中学校に在籍する外国籍児童・生徒は582名と増えていますので、国籍でひとくくりにせず、地域の一員として安心して暮らせるよう、一人ひとりに寄り添う支援を大切にしています。昨年春に、外国人のためのワンストップ相談窓口を区役所4階に開設しました。日本語が得意でないお母さんが学校のことを相談したいときも、窓口から教育委員会へ直接つないだり、必要な支援にすぐアクセスできるようにしています。
―582人もいるとなると、特別な取り組みをしないと、なかなか日本の学校に馴染むことが難しいですよね。
高際区長:まずは日本語指導をしないといけないのですが、これまで日本語指導は教育センターで行っていました。
―日本語指導の先生を確保するのも、大変ではないですか。
高際区長:教育センターはとても意識が高く、予算さえつけてくれれば、すぐに確保できると言ってくれています。ただ、その先も重要で。
―その先とは?
高際区長:日常会話ができるようになっても、勉強に必要な言葉は別なんですね。
例えば、「二等辺三角形」と言われても、日本語での日常会話ができるようになっても、すぐにはわからないですよね。
―確かに。
高際区長:言葉が分からないために授業についていけない、という声をたくさん聞きました。そこで今年から、授業中に隣で学習の理解に必要な用語などを説明する“学習支援員”を配置しています。本人が困っているところを、その場でサポートすることができれば、学習理解につながると思うんです。
―お子さんは日本語がわかるようになっても、親が言葉がわからないと、学校との意思疎通が難しくて、なかなか大変だという話も聞きます。
高際区長:そうなんです。
―日本人の子どもたちを含め、教育全体の課題としてはどんなことに力を入れていますか。
高際区長:色々課題はありますが、いま最も大きなテーマは不登校支援です。不登校だからといって、必ず教室に戻さなければいけないという時代ではありません。ただ、友だちと関わったり学んだりする経験は大切なので、その子に合わせたペースで「戻れるようになる」ことを支える仕組みを整えています。
―具体的にはどのようなサポートをされているのですか。
高際区長:中学校には今年度から校内教育支援センターを全校に設置しています。教室に入るのが難しくても、学校内の別室で専門の支援員やスクールソーシャルワーカーと過ごしながら、安心して学べる場所です。ただ、そもそも学校に来られない時に、まずは、自宅からオンラインでつながる「バーチャルラーニングプラットフォーム」で、仮想空間上に新たな居場所や学びの場を提供しています。次に、教育センター内に設けた「柚子の木教室」に週数回通って、基本的な生活習慣が身につけられるように支援します。それができるようになったら、「校内教育支援センター」の他に、区内中学校1校の中に「スリジエ」という校内型登校支援教室をつくり、少人数指導や個別指導で、自校には行けないが学習を頑張りたいという気持ちに応えられるよう支援をしています。
―段階的に、無理なく、学校や学習に戻れるようにするのですね。
高際区長:そうです。
―効果はいかがですか。
高際区長:「柚子の木教室」は以前は少し古い雰囲気だったのですが、IKEAさんと連携して、明るくかわいらしい空間にリニューアルしました。すると来室者が増えたんです。さらに、今年6月からお弁当の提供を始めたんですね。そうしたら「お弁当を食べたいから行ってみる」という子が増えました。家から出るきっかけが「ご飯」でもいいと思っています。「柚子の木教室」の職員は、お弁当目的でもいい、と。
―共感する、共感し合うって、本当に大事だと思います。
高際区長:外国人もそうですが、共生って、自治体の役割になるんですね。国は、入国のあり方など、大枠のテーマはあると思いますが、自治体にとっては、一人ひとり、顔の見える存在で、その人たちが苦しい思いをしているのなら、それを取り除く何かをしないといけない。日本語が苦手な家庭も、不登校の家庭も、どんな背景の子どもも、誰ひとり取り残さない――。自治体の長としては、きちんと取り組まないといけないと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生
お話を聞いたのは…豊島区 高際 みゆき区長
1965年7月6日生。東京女子大学文理学部 社会学科卒。民間勤務を経て、東京都入庁。
日本司法支援センター(法テラス)犯罪被害者支援課長、福祉保健局 総務部 副参事(区市町村連絡調整担当)、福祉保健局 少子社会対策部 計画課長、生活文化局 私学部 私学振興課長、生活文化局 総務部 総務課長、公立大学法人首都大学東京 総務部長などを経て、2018年4月に政策企画局 小池百合子都知事の秘書事務担当部長、2020年4月に豊島区副区長(コロナ対策・福祉・健康・子育て支援・若年者支援・文化・環境・産業振興を担当)を経て2023年4月 豊島区長就任。趣味は一人旅(アジア、秘境が大好き)、読書、映画鑑賞。
>>豊島区公式HP 区長紹介ページ
―豊島区では外国籍の方々が多いので、当然お子さんも多いと思いますが、どのような取り組みをされていますか。
高際区長:今年5月時点での区立小中学校に在籍する外国籍児童・生徒は582名と増えていますので、国籍でひとくくりにせず、地域の一員として安心して暮らせるよう、一人ひとりに寄り添う支援を大切にしています。昨年春に、外国人のためのワンストップ相談窓口を区役所4階に開設しました。日本語が得意でないお母さんが学校のことを相談したいときも、窓口から教育委員会へ直接つないだり、必要な支援にすぐアクセスできるようにしています。
―582人もいるとなると、特別な取り組みをしないと、なかなか日本の学校に馴染むことが難しいですよね。
高際区長:まずは日本語指導をしないといけないのですが、これまで日本語指導は教育センターで行っていました。
でも、小さなお子さんは電車で通うのが難しく、支援を受けられないケースもあったんですね。そこで昨年から専門指導員が各学校を巡回し、学校内で日本語学習を受けられる仕組みに変えたんです。すると「学校で受けられるなら」というご家庭が増えて、すぐに枠が足りなくなるほど。今年の秋の議会で補正予算が通って、1人指導員を増やすことができました。入学直後から支援を受けられるよう体制を整えています。
―日本語指導の先生を確保するのも、大変ではないですか。
高際区長:教育センターはとても意識が高く、予算さえつけてくれれば、すぐに確保できると言ってくれています。ただ、その先も重要で。
―その先とは?
高際区長:日常会話ができるようになっても、勉強に必要な言葉は別なんですね。
例えば、「二等辺三角形」と言われても、日本語での日常会話ができるようになっても、すぐにはわからないですよね。
―確かに。
高際区長:言葉が分からないために授業についていけない、という声をたくさん聞きました。そこで今年から、授業中に隣で学習の理解に必要な用語などを説明する“学習支援員”を配置しています。本人が困っているところを、その場でサポートすることができれば、学習理解につながると思うんです。
―お子さんは日本語がわかるようになっても、親が言葉がわからないと、学校との意思疎通が難しくて、なかなか大変だという話も聞きます。
高際区長:そうなんです。
「遠足で必要な“カッパ”が何なのか分からない」「塾って何ですか」とか、ちょっとした日常の、例えば病気や体調なども、うまく伝えられないという声も多くあります。そこで、 “多文化キッズコーディネーター”を新設したんです。子どもと保護者の両方を支えるために、多言語で対応できるようにしました。保育園・幼稚園・学校にも訪問し、必要に応じて先生との間に入り、日常のちょっとした困りごとを一緒に解決できるようにしています。
―日本人の子どもたちを含め、教育全体の課題としてはどんなことに力を入れていますか。
高際区長:色々課題はありますが、いま最も大きなテーマは不登校支援です。不登校だからといって、必ず教室に戻さなければいけないという時代ではありません。ただ、友だちと関わったり学んだりする経験は大切なので、その子に合わせたペースで「戻れるようになる」ことを支える仕組みを整えています。
―具体的にはどのようなサポートをされているのですか。
高際区長:中学校には今年度から校内教育支援センターを全校に設置しています。教室に入るのが難しくても、学校内の別室で専門の支援員やスクールソーシャルワーカーと過ごしながら、安心して学べる場所です。ただ、そもそも学校に来られない時に、まずは、自宅からオンラインでつながる「バーチャルラーニングプラットフォーム」で、仮想空間上に新たな居場所や学びの場を提供しています。次に、教育センター内に設けた「柚子の木教室」に週数回通って、基本的な生活習慣が身につけられるように支援します。それができるようになったら、「校内教育支援センター」の他に、区内中学校1校の中に「スリジエ」という校内型登校支援教室をつくり、少人数指導や個別指導で、自校には行けないが学習を頑張りたいという気持ちに応えられるよう支援をしています。
―段階的に、無理なく、学校や学習に戻れるようにするのですね。
高際区長:そうです。
複数の選択肢を設け、「その子のペース」を大切にした支援をしています。
―効果はいかがですか。
高際区長:「柚子の木教室」は以前は少し古い雰囲気だったのですが、IKEAさんと連携して、明るくかわいらしい空間にリニューアルしました。すると来室者が増えたんです。さらに、今年6月からお弁当の提供を始めたんですね。そうしたら「お弁当を食べたいから行ってみる」という子が増えました。家から出るきっかけが「ご飯」でもいいと思っています。「柚子の木教室」の職員は、お弁当目的でもいい、と。
受け渡す時にコミュニケーションを取ることができますから、その時、子どもの状態も確認できるんです。あと「不登校のママ友がいないから孤立してしまう」という声が多かったので、不登校のお母さんだけの意見交換会を開いたところ、皆さん涙ながらにお話しくださいました。不登校ママあるある、みたいな話が、今まで出来なかったけれど、同じ境遇の人と分かり合えたことがよかった、ということでした。
―共感する、共感し合うって、本当に大事だと思います。
高際区長:外国人もそうですが、共生って、自治体の役割になるんですね。国は、入国のあり方など、大枠のテーマはあると思いますが、自治体にとっては、一人ひとり、顔の見える存在で、その人たちが苦しい思いをしているのなら、それを取り除く何かをしないといけない。日本語が苦手な家庭も、不登校の家庭も、どんな背景の子どもも、誰ひとり取り残さない――。自治体の長としては、きちんと取り組まないといけないと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
-
この連載の前の記事
パパが子育てに精神的負担を感じる“パパ危機”を救う豊島区の取り組みとは? 高際区長にインタビュー
-
最初から読む
「103万円の壁」の障壁はバイトをしている学生にまでも影響? 現役ママ議員の伊藤たかえ参議院議員に取材