息子が通い続けた「通級」が変わる?突然の宣告に、行政とかけあった話
突然言われた「特別支援教室」への変更。長男の自信を培った通級はこれからどうなる?
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子どもに合っていた学習環境が、行政の方針で急に変わることになったら、どうしますか?一方的な行政の方針に、私たち親はどう向き合えばいいのでしょうか?
「来年から3年かけて、今までの通級学級は『特別支援教室』へ変わります。」
この言葉を、通級の先生から初めて聞いたのは、去年の4月の保護者会でのことでした。
東京都にあるいくつかの小学校には現在、「情緒障害等通級指導学級」というクラスがあります。
この学級は主に、発達障害(自閉症またはそれに類する障害、情緒障害、ADHD、LD)が理由で、通常学級での授業や活動、友だち関係に困難を感じている児童のためのクラスです。
私の長男も、学区内の小学校へ籍を置きながら、1年生の途中から定期的に通級教室に通い始めました。
1人ひとりのペースに合わせた、少人数の学習指導やソーシャルスキルトレーニング、そして何より先生方が、子ども1人ひとりを丁寧に見て、深く理解して下さり自信を持たせてくれる。
そんな通級教室は、長男にとっての「居場所」となり、そこで培われた自信が、在籍学校でも彼を支えてくれているのがよくわかりました。
だからこそ、この突然の方針変更に驚きを隠せませんでした。
これまでと一体何が違うの?子どもにとってのメリットはあるのだろうか?
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詳しく聞くと、長男のいる通級学級は、2学期からモデル事業を始め、来年度には新体制でスタートするとのこと。
ということは、新しい体制まであと1年もありません。
戸惑いつつも、まずは具体的にどのように変わっていくのか?整理してみました。
今までは、限られた小学校にだけ「通級教室」があり、児童がそこに通っていたのですが、都内の小学校全てに「特別支援教室」ができて、児童は自分の学校にある特別支援教室に通うことになります。メリットとして、自治体から出た資料には次のようにあります。
●一人でも多くの児童を、適切な指導・支援につなげることができる
●保護者の送迎の負担が軽減できる
●在籍校の担任と巡回指導教員の連携が深まり、指導内容の充実が図られる
●他校への移動時間がなくなり、在籍学級の授業をより多く受けることができる
確かに、保護者が送迎できずに通級をあきらめた、という話もよく聞くので、送迎の負担がなくなるのはメリットでしょう。
教室が増えることで、通級を待ち望んでいた子どもたちも、指導が受けられるようになるのかもしれません。
また、校内に支援クラスと在籍クラスがあれば、担任同士の密な連携も可能であり、それが結果として子どもたちへの、より良い支援につながるかもしれません。
私だけではなかった!新体制への不安を露わにする保護者たち
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メリットはわかりましたが、それでも不安は残ります。
それは、
「教員数は増えないのに、数校を巡回指導することになるなら、今までより授業数が減るんじゃないの?」
という不安です。
今までの授業では5時間だったのが、今後は週に2,3時間になり、案の定、内容も今まで通りとはいかないのだそうです。
その他、私の所属する親の会でも意見が出てきました。それには、
●教室の環境変化:引き続き、静かで安心できる環境を整えてくれるのだろうか?
●先生の数:巡回指導になることで、これまで通りの情報共有や継続指導、安全確保ができないのではないか?
●信頼関係の構築:急に特別支援教室ができても、その学校の先生や保護者に、すぐには子どもを理解してもらえないのではないか?
など、やはり不安の声が大多数でした。
学校との話し合いでは解消できなかった不安。これがきっかけで行政へ働きかけることに
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私たち親の会は、学校側へこうした不安をぶつけてみました。すると、返ってきた答えは
「これは、もう東京都全体で決まったこと。市にいろいろ言っても、もう変えることはできない。」
とのことでした。
「ここであきらめたら、今後も保護者不在のまま、学校が変わっていってしまう。
変わっても変わらなくても、ちゃんと保護者の声を、行政に届けよう!」
そんな声が挙がり、当時代表をしていた私が、他の代表のお母さんたちと、動き始めることになったのでした。
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まずは、保護者の声を「要望書」として提出しよう、ということになりました。
最初は「先生たちにもっと研修を受けてもらおう!」「先生たちがどのぐらい発達障害のことを理解しているかアンケートを取ろう」など…親の要求が前面に出ていた私たち。
地元の市議会議員へ相談を持ちかけたところ、以下のようなアドバイスを頂きました。
「要求をただ出すだけでは、今までのように『無理だから』ではねのけられる可能性が高いです。
それよりは、『今までの通級学級の指導で、子どもがどんなふうに成長したか、親はどんなことに感謝しているか』を伝えたほうが良いでしょう。
行政は、成果があがっていることは切り捨てにくいものですから。」
この市議会議員の方には、親身に相談にのって頂き、教育支援課の課長さんと直接お話できる機会も、セッティングして下さいました。
教育支援課との話し合いの場では、上記アドバイスで出た意見と合わせ、
●今まで通り、特性に応じた必要な指導・支援が受けられるように
●教員・支援員の増員
●在籍校の全教員と児童保護者が発達障害について理解を深める機会を設けてほしい
●学習支援員の増員と研修制度の充実を
●各校の教室環境を、発達障害の子どもたちが安心して学べる環境に整えてほしい
そして、「計画実施の前に、具体的な計画を行政から保護者に説明する機会を設け、保護者の意見をプランに取り入れてほしい」とお願いしました。
要望書を出してから、約半年後。
私たちの希望を受け入れていただき、行政による説明会が、各通級学級で行われることになりました。
今までほとんど、今後の指導のイメージがわからず不安だった多くの保護者に、きちんと説明の場が用意されたことは、とても大きかったと思います。
しかし、その他の要望書の内容については、
「都で方針を決めていることなので、市としては変えることができない」
「できることは努力していく」
「詳しい指導内容についてはまだ検討中です」
ということで、保護者の不安を払拭できる内容では、とてもありませんでした。
教育支援課からの電話で知ったのは、要望が通ったことだけじゃなかった
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それから数週間たったある日。
突然、教育支援課の課長さんから、はずむような声でお電話をいただきました。
「教員の増員は叶わなかったのですが、特別支援教室専門員の増員をかけあって予算が通り、専門員が増えることになりましたよ!」
課長さんの本当に嬉しそうな声を聞き、私は胸が熱くなりました。
今まで私たち保護者は、行政を「戦う相手」として見ていた気がします。
ですが、実は違うのだと気が付きました。行政の皆さんも、限られた予算や制度の中で、精一杯子どもたちのために、努力して下さっているんですね。
専門員のこと以外に、通った要望はほとんどありません。
ですが、私たち保護者は「行政に保護者の声を届けることができる」と知ったこと、そして行政と保護者とが、協力して子どもたちがのびのびと学ぶことができる環境を、整えていくことができる、第1歩となったこと。
それが、とても大きな成果だったと思います。
学校や行政に求めるだけで終わらせない。共に協力しながら実現したい「合理的配慮」
2016年4月施行の「障害者差別解消法」により、1人ひとりの困りごとに合わせた「合理的配慮」の提供が行政・事業者に義務化されました。
私たち親はあきらめることなく、また、学校や行政に要求ばかりを突き付けるのではなく、共に努力、協力していきましょうという姿勢で伝えていくことが、子どもたちのために求められているのではないかと、感じています。