「ボクは赤ちゃんじゃない!」成長を喜ぶ親心が、自閉症の息子を傷つけていた
言葉が遅れていた長男。やっと少しずつ話し始めた!
7歳になる長男は、重度の自閉症という診断を受けています。最近まで言葉がほとんど喋れなかったため、長男と意思の疎通をはかることが困難でした。
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気持ちを口にしてくれない長男に、私や家族は歯がゆい思いをしていました。
けれど、少しずつ指差しをしたり目線が合うようになったりするようになり、ぽつりぽつりと単語のようなものも出始めました。
ある日、私の袖を引っ張り、キラキラと輝くイルミネーションを見て「きれい」と教えてくれました。
次第に「ごはんを食べる前は、いただきますってするんだよ」と伝えると、手をパチンと合わせ、「いただきます」と言うなど、ごく簡単なやり取りもできるようになりました。
7年もの間、私が一方的に叩き続けていた心のドア。長男がこのドアをやっと少し開け、私を招き入れてくれたように感じうれしかったです。
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たくさんの言葉を覚えたこと。その喜びを夫と共有したい!
物の名前がわかるようになってきた長男は、身の回りの物の名前もぽつりぽつりと口にするようになりました。
学校からの帰宅時「脱いだ靴下は洗濯機に入れようね」と伝えていると「せんたっき」という言葉が自然と出るようになり、「寝る前はテレビを消してね」と伝えれば「テレビ」といつの間にか口にするようになりました。
単語が出てくるにつれて、私は長男がどの程度の言葉を獲得しているのか確認したくて、あちこち指差しました。
「あれは何?」「それは何?」
長男は「とけい」「あし」など、覚えた言葉を次々と答えてくれます。たどたどしい喋り方がまた愛おしく、何度も何度も繰り返して言わせました。
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そんな時、夫が仕事から帰ってきました。
夫の帰宅はたいてい9時過ぎ。長男は既に寝てしまっている時間になることが多いです。
そのため、夫はこの数日で長男の言葉数が増えたことを知りません。私は言葉を話す姿を見てもらいたくて、夫の前でついさっきの質問と全く同じことを長男に聞きました。
「手はどこかな?」「足はどれ?」「時計はどこ?」
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けれど、長男は答えようとしませんでした。ただじっと私の顔を見つめています。
そんな長男の姿を見た夫が言いました。
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はっと長男の顔を見直すと瞳は怒りにみちていました。
同時にとても悲しげで、私は胸をつかれました。
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幼いと思い込み、傷つけてしまった長男の気持ち
わかりきったことを何度も聞かれることを、彼は小さな体で精一杯拒絶しようとしていたのです。
苛立ちを言葉にして表現できないため、答えずに私を無言で睨みつけるという方法をとるしかなかったのです。彼は感情を抑えているとき、ぎゅっと小さな指を握り拳をつくります。その時も、堅く結ばれた握り拳が私の目の前にあったことを覚えています。
「ボクは芸を仕込まれたサルじゃない!ボクは赤ちゃんじゃない!」
そんな叫びが聞こえた気がしました。
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自閉症があり発達がゆっくりだからといって、長男の感情を置き去りにすることは決して許されないことだったのです。
私は反省しました。大切な長男の尊厳を踏みにじっていたんだと……。
言葉が口から出ない間にも、子どもの心は育っていた
行動が幼いがゆえ、私自身も長男が7歳であることを忘れてしまうことがあります。
身長や体重と違い、心の成長は測ることができません。特に言葉の遅い子どもは、表出する言語が少なく判断する材料も少ない分、なかなか成長に気付けないのかもしれません。
でも行動が変わっていても、言葉が喋れなくても、長男は7年分ちゃんと成長していたのです。
もし、彼が本当に1歳の幼児であったなら、無邪気に親の言葉に従っていたかもしれません。でも言葉が出ない=赤ちゃんではないということを、息子の無言の抵抗が教えてくれました。
7年の月日の中で長男が味わい、感じた景色は、産まれてまもない赤ちゃんのままではなく、私が思っていたよりもずっと広がりがあったのです。少なくとも、誇りという確かなものをちゃんと手にしていたのだと気付きました。
「どうか、ぼくたち自閉症の子どもを幼いと思いこまないで!」
彼の小さな心の叫びが、すこしでも届けばと切に願います。