自分の「理想」を押し付けてしまうアスペルガーの娘とお話したこと
長所だった「目標に向かって一直線」がマイナス要素に!?
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9歳になったアスペルガー症候群の娘は、昔から「努力の人」と呼ぶに相応しいタイプの女の子でした。
まりつきで「あんたがたどこさ」を最後までやり遂げられるように、鉄棒で逆上がりをできるように、二重跳びがとべるように…。
上手く出来ない自分が悔しくて、両手に出来た豆が潰れても泣きながら、毎日毎日何時間も練習を重ねてきました。「体が疲れているから休んでからにしよう?」と声をかけても、首を縦に降ることは決してありませんでした。
そうして、人の何倍も努力をして、少しずつ出来ることを増やしてきたのです。幼い頃はこのド根性がプラスに作用しており、娘の一番の長所といえるところでもありました。
ところが年齢が上がり、他人とのコミュニケーションが増えるにつれ、この長所がマイナスに作用している場面が目に付くようになってきました。娘の思い描く「理想の完成形」には家族や友達が含まれ、そこに向かって努力をしない人たちに声を荒らげ、強い口調で指示を出して相手をコントロールしようとするのです。
このままではせっかくの長所が、娘や周囲の人たちを苦しめる要因になってしまう…。どうすれば「目標に向かって一直線!」を良い方向に持って行くことができるのでしょうか。
お箸とコップを出すだけなのに、どうして空気がピリッとしてしまうの?
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トラブルは何気ない日常の中にも突然あらわれます。
我が家ではご飯の前に、子どもたちにお箸やコップを並べることをお願いしています。子供たちに声をかけると、日頃から「人の役に立ちたい」と強く願っている娘は「はーい!」と気持ちのいい返事を返してくれます。息子もお姉ちゃんに負けまいと急いでやって来て「じゃあ、僕はお箸を出すね!」と楽しそうに話します。問題はここから。
娘「お箸はお姉ちゃんが出すから、君はコップを並べて!早く!コップは何色がいいかみんなにちゃんと確認して!」
息子「はーい。
えーと、僕はこのコップにするね」
娘「ちょっと!!!自分のものから選ぶんじゃなくて、まずご飯を作ってくれてるママにどのコップがいいか確認しないとダメでしょ!お姉ちゃんはどれでもいいから、ママに聞いてから自分のコップを決めてちょうだい!」
息子「えー、ママはどれでもいいっていつも言ってくれるから、僕はこれにする」
娘「たとえママがそう言ってくれても、ママは疲れているのに私たちのためにご飯を作ってくれたりお世話してくれているんだから!ちゃんと聞くのが礼儀でしょ!もしお客さんがいたら、まずお客さんにどれがいいか聞く!自分の事は後回しでいいの!いつもそれをやっていないから、お客さんが来た時にちゃんとできないんでしょ!」
私「お姉ちゃん、ありがとう。ママはどのコップでも構わないから、あなたも好きなのを選んでね」
娘「ありがとうママ!じゃ、お姉ちゃんはこれにするから、早く飲み物を入れて並べて!ああ、そうじゃなくて一つずつ丁寧にやりなさい!!人が口をつけるところは手で持たないの!」
こんな風に早口で息子に矢継ぎ早に指示を出したりお説教をしたり、とても慌ただしくてピリッとした空気になってしまうのです。
娘の言っていることはあながち間違いではありませんし、この内容がきちんと息子に入っていけば、息子にとってもプラスになるはずです。なんとかこれを穏やかな空気の中で行うことができれば、お友だちや家族とのトラブルも減って、本人も楽になれるんじゃないかと思うのですが…。
娘に教えた「必死」にならない方法
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そこで、娘と話し合ってみました。私はまず、そんなに必死になる必要はないのだと伝えました。でも娘の答えはこうでした。
娘「私、必死になんてなってないよ!ただ役に立ちたいと思ってやっただけなのに!」
そうなのです。
娘は純粋に役に立ちたいがために頑張っているのです。でも結果的にはそれが弟を巻き込み、ピリッとした空気になってしまうのでした。私「あなたの『役に立ちたい!』は他の人から見ると『必死』に見えちゃうんだよ。食卓を整えるのは、別に全力でやらなきゃいけないことじゃないでしょ?今からみんなで楽しくご飯を食べようっていう時にピリピリしちゃうともったいないし、あなたもムカムカしちゃって気分が良くないでしょ?」
娘「確かに・・・・」
娘もここは納得してくれたようです。私はこう続けました。
私「ママ考えたんだけど、必死に見えちゃうのは、1つは『早口になっちゃう』ことが原因だと思うの。伝えたいことがたくさんあって、言葉が溢れてくるのはわかるんだけど、ゆっくり伝えるだけで自分も周りもずいぶん印象が違ってくると思うよ?」
娘「そう!伝えたいことがたくさんあるんだよ!でもまだ思ってることの半分も言えてないのに、ゆっくりにしたらもっと言えなくなっちゃうじゃない」
私「そうだよね。でも、頭の中で考えてることを全部他人に吐き出す必要はないんだよ。
何が弟にとって必要な情報かを選んで教えてあげたらいいと思うの」
娘「確かに。弟も途中から聞いてないもんね」
私「あとね、『これをしてもらえる?』とか『お客さんが来てくれた時はこうすると喜んでもらえるよ』とか、そんな風に話し方を変えるだけで、同じ内容でもずいぶん印象が変わってくると思うの。それだったら、ママもニコニコしながら見守れるよ。」
娘「わかった!すぐには無理だと思うけど、やってみる」
来年の今頃には成果があらわれると信じて
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そんな話し合いをしてしばらく経ったある日のこと。
娘が今月の目標欄に「人と笑顔で話す」と書いてあるのを見つけました。この話し合いがきっかけになったのかどうかはわかりませんが、目標をたててそれに向かってひたむきに努力ができる娘だから、いつかきっとこの目標も達成できるのではないかと嬉しく見守っています。
発達障害を抱える人は、他人とのコミュニケーションが苦手だとよく言われます。
それは、特性を持たない人たちとは物事の見え方や感じ方が異なるために通じ合うことが難しいということが原因としてあげられると思います。ですがもうひとつ、「経験から学んで自然とスキルを身につける」のが苦手であるということが、相手と上手くコミュニケーションを取れない要因になっているのではないかと、最近子供たちを見ていてよく思います。
でも、経験から学ぶのは難しくても、繰り返し「こんな風にしてみよう」という声掛けをすることで、少しずつ本人も周囲も楽になっていくことはあるかも知れません。
人が自分を変えていくというのは、とても時間がかかります。数日声掛けをして変化が見られなくても、焦らずに年単位の目標だと思って続けてみませんか?「こうすれば上手く人と接することが出来る」という成功体験は、きっといつか社会に出て行く子どもたちの自信に繋がっていくはずです。
私も来年の今頃には少しずつ成果が出てくると信じて、「必死にならず、ゆっくり話してみよう」と娘に声掛けを続けていきたいと思います。