視覚過敏とは?視覚過敏の子どもはどんなふうに見えるの?困りごとと対処法、発達障害との関係も紹介します
視覚過敏とは
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視覚過敏とは、視覚情報の処理に関するはたらきに偏りがあるために、光の刺激を過剰に受け取ってしまう状態のことを指します。
視覚過敏のある人は、そうでない人にとっては気にならないような光に対して一見過剰に見える反応をしてしまったり、本を読むときに文字がゆがんで見え、読みにくさを感じたりします。
また、人の顔がモザイク画のように見えたり、暗いところが苦手だったりすることもあります。
知的機能に遅れがないのに、視覚過敏によって勉強することができず学習が遅れてしまったり、デパートを歩くだけでさまざまな視覚情報が目に入り疲れてしまったりと日常生活によくない影響を与えてしまうことも珍しくありません。
そもそも視覚過敏というのは、感覚過敏の一つだと考えられています。感覚過敏は、自閉症スペクトラムやADHDをはじめとする、発達障害のある人が訴えることの多い症状です。感覚過敏は、感覚に偏りがあり、特定の刺激を過剰に受けとってしまうものです。
視覚過敏の他にも、聴覚・嗅覚・触覚・味覚が過敏なこともあります。
他にも、感覚が敏感ではなく、むしろ鈍感なケースも見られます。「感覚に偏りがある」といっても、すべての人が似たような偏りがあるわけではなく、一人ひとり感じ方が異なることが特徴です。
視覚過敏は、視力のよさや目の異常が原因ではなく、中枢神経の異常であったり、なんらかの発達に支障があるために起こると考えられています。
このように視覚過敏をはじめとする、感覚の偏りは本人の努力や慣れでどうにか克服できるものではありません。本人にとって好ましくない刺激をできるだけ遮断することや、周囲の環境を調整していくことが大切です。
しかし、周囲の人が感覚過敏の人に見えている世界を理解することは難しいとされています。そのため最近ではVR技術などを用いて感覚過敏の人に見えている世界を体験できるような技術が発展してきています。
以下の動画は、視覚過敏・聴覚過敏のある子どもから見るデパートを再現したものです。
VRではない、パソコンやスマートフォンの画面でも体験できるものになっています。※ただし、感覚過敏のある子どもと言っても、一人ひとりの感じ方や症状は異なるため、あくまでイメージ動画としてご参考にしてください。
動画のなかで、何度も蛍光灯がピカピカ光ったように見えたり、足音が気になったり、お母さんの言葉が聞き取りにくかったりしています。他にも、ピーっという音やお金を落としたときの音など、不快に感じる音も聞こえています。
感じ方は症状は一人ひとり異なりますが、感覚過敏の子どもは、動画のように周囲の刺激に過剰に反応するためにパニックを起こしてしまうこともあります。
視覚過敏の人にとっての日常生活
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視覚過敏があると、蛍光灯がまるでディスコボールのように感じられたり、太陽の光や夜間の車のライトがまぶしすぎたりします。
またそれだけではなく、視覚過敏のある子どもは、目から入ってくる情報の処理能力や一度見たものを覚えておく能力が高いとも言われています。
このような能力は、美術の時間に非常にレベルの高い写生ができたり、多くの人には区別することができないような微妙な色の変化にも気づいたりと、プラスの面も少なくはありません。
その一方で、視覚過敏があると、目からの情報を大量に処理してしまうことがあります。
普段、ほとんどの人は目から入る情報を無意識のうちに必要な情報と不必要な情報に分けて考えています。そうしないと、頭が一度に処理できる情報量を越えてしまい、頭がパンクしてしまうからです。
視覚過敏のある人は、環境によっては、まさに頭がパンクしている状態で日常生活を過ごすことになってしまいます。
視覚過敏をはじめとする感覚過敏が一般的に知られるようになったのはごく最近です。そのきっかけになったのが、感覚過敏の人が自分自身が生活している世界をことばで表現し、発信するようになったことです。
自らが生きている世界を自伝した第一人者であるドナ・ウィリアムズさんのメモに以下のような内容が残っていました。これは、彼女がスーパーマーケットで買い物をしているときの体験を書いたものです。
雑誌売場を通ると、私の目には次々と雑誌の見出しが飛び込んできます。私の頭の中には私が理解できないほどのものすごいスピードで様々な文字が洪水のように入ってきてしまうのです。雑誌売場を離れても見出しの文字はまだ頭の中に残っています。そのため、緑色や葉っぱ状のものを見ても、それが野菜だということが理解できず、それを自分が買いたいのかどうかさえもわからなくなってしまいます。
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また他にも、視覚情報に敏感なため、多くの人が気づかないささいな変化に気がついたり、大きな変化があるとパニックになってしまったりすることがあります。
そのため本来は楽しい場所であっても、今まで行ったことのない建物や部屋に入ることを嫌がったりすることがあります。
学校生活や日常生活に慣れてくると、だんだん新たな場面に出くわすことが少なくなり、症状が軽くなったように感じられますが、運動会やクリスマスパーティーなどの特別な行事のときに再びパニックになることがあります。
視覚過敏のある子どもは、一度見たものを記憶する能力が高いために、突然なにかを思い出すことがあります。
いわゆるフラッシュバックと呼ばれているものです。フラッシュバックが起きると勉強をしていたはずなのにいきなり立ち上がっておもちゃを取りに行ったり、悲しいことを思い出して泣いてしまったりすることも珍しくありません。
記憶する能力が高いことはすばらしいことですが、記憶にとらわれすぎて、目の前のことに集中できないと困ってしまうので、周囲がやるべきことを整理するなどの工夫が必要になります。
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参考書籍:熊谷高幸/著者『自閉症と感覚過敏ー特有な世界はなぜ生まれ、同支援すべきか?』(新曜社・2017)
子どもが文字を読むのが難しい…視覚過敏が原因かも?
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先の章では、主に生活面で困ることを紹介してきました。視覚過敏の人は生活面だけでなく、学習面でも困ることがあります。視覚過敏が原因となって、黒板の文字や教科書の文字が正しく読むことができなかったり、読むのに時間がかかり過ぎたりするからです。知的障害がないにもかかわらず、文字が読めない症状を総称してディスレクシアと呼ばれています。文字が読めないという症状は視覚過敏以外が原因となることもありますが、ここではディスレクシアを引き起こす可能性のある視覚過敏の症状を紹介します。
視覚的な要因でディスレクシアが生じる場合、文章を読んでいるときに、どこを読んでいるのかが分からなくなってしまいます。視力が悪いわけではないのに、このようなことが起こるのは、文字の見え方そのものが異なるからです。
一般的に、視覚過敏の子どもはゆがんだ見え方によって次のような困難を抱えています。
・読む速度が遅い
・効率のいい読み方ができない
・文章を読んでいると、疲れて眠くなってしまう
・長時間、読み続けることができない
・読むことで、頭痛や吐き気が生じる
では、ゆがんだ見え方とはいったいどのような見え方なのでしょうか?
視覚過敏のある人は具体的に次のような見え方で文字を読んでいると考えられています。
◇洗浄現象
文章を読むときに、白い部分が明るく見えすぎて黒い文字の部分を見えなくしてしまいます。たとえば、通常は区別することのできる、アルファベットの"b"と"d"が同じように見えることが起こります。
◇光背現象
洗浄現象と同じように、文字の周りの白い部分が原因で、読むことを難しくします。光背現象で困っていたアメリカの学校の教師は、すべての文字の周りの白い部分が燃えるような輝きをもって見えていたと話しています。
◇リバー現象
文章を読んでいるときに、仮に文字がダンスをしているかのように動いていたら読みにくいと思いませんか。リバー現象とは、まさにその状態です。それぞれの単語が波打つかのように動いていて、止まったかのように見えた瞬間にまた動き始めてしまいます。
◇オーバーラップ現象
オーバーラップ現象は言葉の通り、それぞれの文字や文が互いに重なり見えてしまう現象です。一つの文に着目し、それを読もうとすると単語と単語が重なって動いたり、文同士が交差したりして読むことが難しくなります。
◇回転現象
文字が上から下に動いたり、逆に下から上に動いたりと、それぞれの文字がばらばらの動きをしているように見えると言われています。場合によっては、すべての文字がまわっているように見えることもあります。◇シェイキー現象
文字がゆがんで見える現象です。例えば、文字がらせん状にゆがんだり、3Dのように、浮かんで見えたりします。
◇ぼやけ現象
水に浸したように文字がにじんで見えたり、目が悪い状態のように文字が二重になったり、ぼやけて見えたりします。
◇シーソー現象
一つの文がシーソーのように上下に動いて見えます。そのため、行間隔が狭い文章を読むときには、上下の文が重なりあうように見えることもあります。
◇トンネル現象
文字に目をやるときに一度にわずか数文字しか判別できないような症状です。そのため、単語の途中で改行されている文章を読むことや、学校の教師が黒板の右端に達したら、左にもどって授業を進めていくような場面に遭遇すると困ってしまいます。
人によっては本を読むことが、1文字しか書かれていないフラッシュカードをひたすら連続的に読んでいく作業に感じてしまうそうです。
英語の動画ですが、30秒を経過したあたりから、ゆがんだ見え方が体験できるので参考にしてください。
このような文字の見え方をしていると考えると、例えば学校の授業中に音読をすることになりうまく読めなかったとしても、怠けていたり、やる気がなかったりするせいだとは思わないでしょう。
視覚過敏のせいで文字をうまく読むことができない人は、本人が一生懸命読もうとしているにもかかわらず、読むことができないのです。
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参考書籍:Helen Irlen/著者『アーレンシンドロームー「色を通して読む」光の感受性障害の理解と対応』(金子書房・2013)
子どもが視覚過敏かなと思ったら
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子どもの行動で気になる点があるときには、まずは行動をよく観察してみましょう。
どのような状況で子どもが行動しているのか観察することで、子どもがどんな刺激に対して敏感なのかや、嫌悪感を抱いているのかを知る手がかりになります。子どもが不可思議な行動をとる背景には、なんらかの理由が隠れていると考えられます。視覚過敏の子どもにとっては、光がチカチカするのも文字が動いて見えるのも生まれながらの症状であるため、それが異常だと気づきにくいです。そのため、周囲の大人が子どもの感覚の特徴を知ることが重要になります。
他にも、視覚過敏と似た症状であっても、視覚過敏ではない目の病気が背景に潜んでいることがあります。例えば、光に対して敏感になり、普段では気にならないような光を目があけられないほどまぶしく感じることがあります。
このような症状は、緑内障や白内障などの目の病気あるいは、コンタクトの長期間利用やパソコンの見過ぎなどによって生じている場合があります。これらを素人が判断することは難しいため、専門家に相談するようにしましょう。
視覚過敏に関する相談先としては、眼科や保健センター、子育て支援センター、児童発達支援事業所などが挙げられます。
視覚過敏への対処法
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視覚過敏の症状を根本治療する方法は、現状見つかっていません。しかし、工夫をすることで、子どもにとって生活しやすくなったり、文字を読むことが困難だった子どもがすらすら読めるようになるケースがあります。
視覚過敏の子どもが生活していくうえで、子どもが安らぐことのできる空間を作ってあげるとよいでしょう。視覚を刺激するような光がなく、落ち着ける環境で、子どもが音楽を聞くことや、好きなことをできるような空間です。
サングラスをかけることで、太陽の光などが気にならなくなることもあります。
また、感覚過敏で苦しんでいる人の自伝の中で、片目ずつ別々のものを見ることで目に入ってくる情報を限定したり、逆にさらに強い刺激を自分に与えることでパニックになることを防いだりする方法が紹介されています。
このような工夫は人それぞれなので、子どもに合った方法を探していくことが大切です。
文字の読みにくさを解消する方法としては、色つきメガネを利用する方法と、文字の大きさなどを調整するなど手軽にできる方法があります。
文字が大きくわかりやすい字体(フォント)にしたり、読みたい範囲以外を隠したり、長い文をスラッシュで区切ったりすることで文章を読みやすくできます。蛍光ペンで重要だと思われるところにだけ色を付けることで、読む情報量を調整できます。これにより、文章を読むことへの抵抗を減らせます。また、白黒のコントラストが原因で文章が読みにくい場合、紙の色を白から変えるだけで読みにくさが軽減されることもあります。
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参考書籍:山口真美/著者『発達障害の素顔ー脳の発達と視覚形成からのアプローチ』(講談社・2016)
視覚過敏で文字が読めない人の中には、アーレン法と呼ばれる色つきメガネをかけることで、文字が読めるようになることがあります。56秒から2分05秒を見てみると、色つきメガネの有無で音読する速さに差があることが分かると思います。
アーレン法では、一人ひとりにあう色つきメガネの色が異なるため、スクリーニング検査等をしたうえで、どの色がベストなのか調整していきます。
http://www.gakko.otsuka.tsukuba.ac.jp/wp/wpcontent/uploads/2011/08/dfe7dcba1f6a3d6bdb38eabc81dee404-1.pdf
アーレンシンドロームを知っていますか?|筑波大学附属学校教育局
まとめ
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28174008264
ここまで視覚過敏の人から見た世界や、視覚過敏の対処法を紹介してきました。視覚過敏の子どもを育てていると、音読がうまくできなかったり、楽しませようと思って連れて行った場所でパニックを起こしたりするかもしれません。
しかし視覚過敏でいちばん大変な思いをしているのは、間違いなく視覚過敏のある子ども自身です。
視覚過敏のある子どもが快適に生活していくためには、周囲が正しい理解をして、子どもが生活しやすい環境を整理したり、適切な配慮をしたりすることが大切になってきます。
また、視覚過敏のある子どもは、これからずっと視覚過敏と付き合っていくことになります。日々生活していく中で、両親と子ども自身が協力しながら、その子なりの視覚過敏への対処法を見つけていけるといいのかもしれませんね。
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