母子分離不安とは?年齢ごとの特徴や原因、対処法は?「分離不安症」の診断基準や治療法などをまとめました
母子分離不安とは?
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「母子分離不安」とは、子どもが母親から離れることに対して不安を感じることを言います。
人間にとって「不安」とは、生まれながらに持っている自己防衛本能でもあり、生きていくうえで欠かせないものです。赤ちゃんのときに母親と離れることを怖がって泣き叫んだりしがみついたりするのは、子どもにとって母親が「最も身近で安心感を与える存在」であるからなのです。そのため、幼い子どもが母親から離れる際に不安を感じるのは当たり前のことであるとも言えます。
人は生まれてすぐは母親に完全に依存した状態ですが、成長するにつれて少しずつ自立し、母親との間に距離が取れるようになっていきます。
しかし、小学校に進学する頃になっても、うまくこの距離感がつかめずに、入学時、留守番をする時などに強い不安を感じてしまう子どももいます。
この不安が極度に強まると、腹痛・頭痛などの身体的症状や、母親がいないと泣きだしてしまうといった精神的症状を引き起こすこします。さらに症状が悪化すると通園・通学拒否になってしまうなど日常生活に支障をきたすことがあります。
この記事では、一般的によく見られる母子分離不安症状の年齢ごとの特徴や原因と、長期化し治療が必要となる「分離不安症」の診断基準や治療法などをまとめてご紹介します。
年齢別に分類できる母子分離不安の特徴
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母子分離不安は、年齢によって特徴や対応が変わってきます。その特徴は、大きくは3歳までの子どもに見られる母子分離不安と3歳以降に見られる母子分離不安の2つに分類することができます。
3歳までに見られる母子分離不安は、母親から物理的に離れることに不安を感じ、抱き癖や泣き叫ぶといった特徴が見られます。そのため通常、母親が戻ってくるということを学ぶと不安はなくなります。子どもが発達するうえで自然なことであり、このような母子分離不安は3歳頃になると少しずつ消えていきます。
3歳までの母子分離不安は、乳児期前半、乳児期後半、乳児期以降で特徴に違いがあります。
・乳児期前半
乳児期前半の子どもには抱き癖が見られます。
常に抱っこをしていれば泣かないのですが、下ろすとすぐに泣いてしまいます。赤ちゃんは抱っこをされることで安心感を得られ、母親に愛されていると感じます。そのため抱き癖がつくということは、母親と赤ちゃんとの間に絆ができていることの証とも言えます。
・乳児期後半
乳児期後半になると母親の姿が見えないときに、泣いたり怒ったりします。また母親のことを探すといったこともします。これは母親の姿が見えないときに母親の存在自体がなくなると思ってしまうからです。
・乳児期以降
歩けるようになって母親から離れることによって不安を感じ、だだをこねたり、後追いしたりします。母親から長時間離れられるほど心が発達していないため、このような特徴が見られます。
3歳以降に起きる母子分離不安は、母親がいなくなってしまうのではないかという不安や家以外での心配事などがある際に、母親に安心感を求めようとして離れられなくなることを言います。特に小学校低学年の子どもに多く見られ、家庭での問題や家以外の環境などさまざまな理由によって、母子分離不安が起こります。
3歳以上の子どもに見られる母子分離不安の具体的な特徴としては、以下が挙げられます。
・日常生活
ずっと母親にしがみついている・部屋に1人でいることができない・母親の姿が少し見えないだけで泣きだしてしまう・迷子や誘拐などによって親から離されてしまうのではないかと強く恐れる・母親の膝に乗ってくるなどの赤ちゃん返り・乱暴行為・激しい人見知り
・就寝時
寝つきが悪い・両親と一緒でないと寝られない・悪夢を見る・暗闇を過剰に怖がる・電気をつけたまま眠りたがる
・保育園・幼稚園や小学校
学校や友人の家に遊びに行くことを拒否する、授業に集中できず勉強を理解できない、親がいないと砂場やブランコで遊べない、何ヶ月たっても登園時母から離れようとしない、小学生になっても母親が学校のどこかにいないと登校を続けられない、通園・通学拒否
母子分離不安が強まると、腹痛・頭痛・嘔吐・食欲不振・息苦しさ・夜尿のような身体的症状を引き起こします。年長児以上の子どもには頻脈・めまい・気を失うように感じるなどの心臓血管系の症状が起こることもあります。
さらに母子分離不安の特徴が4週間以上続くと、「分離不安症」と診断されることがあります。分離不安症とは、家または愛着を持っている人物からの分離に関する、過剰な恐怖または不安のことを言います。一過性の母子分離不安とは対処法などが異なるため、注意しなければいけません。
分離不安症については、後の章で詳しく説明します。
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参考:野村総一郎樋口輝彦/著『こころの医学事典』2003 年講談社/刊
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参考:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊
母子分離不安の原因
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3歳までに見られる母子分離不安は発達上の通常の現象として現れるものです。そのため、3歳以降に見られる場合のように外部環境や家庭でのストレスなどが原因ではありません。
乳児期であれば母親と一緒にいる時間の心地良さを実感するためであり、乳児期以降から3歳までであれば母親の愛情を確かめるため母子分離不安が起きていると考えられます。
3歳以降にも母子分離不安が一時的に見られることがあります。その原因は主に環境の変化です。例えば小学校に入学して一人でやらなければいけないことが増え、ストレスを感じるといったことが原因で、母子分離不安が見られることがあります。
こうした現象は一時的にしか続かないことが通常ですが、不安が癒されずさらに強まって悪循環に陥った場合、母子分離不安が長期化することがあります。
このような子どもは、外出を強く恐れたり、家庭や母親から離れることに極度に恐怖を感じるようになります。特定の原因は明らかにされていませんが、子どもの気質や家庭での問題、学校での心配事などが組み合わさって生じます。
家庭での母子分離不安への対処法
・乳児期前半
抱き癖を心配して泣いても抱っこしないと、赤ちゃんは「泣いても意味がない」と思って泣かなくなってしまいます。このように感情を表現しない赤ちゃんをサイレントベビーと言い、このまま成長すると対人関係に支障をきたす可能性があります。
年齢が上がると少しづつ抱き癖はなくなっていくため、心配せずたくさん抱っこしてあげましょう。
・乳児期後半
この時期の子どもは母親が見えないとき、いなくなってしまうと思って不安を感じています。そのため子どもから離れる時は子どもが安心するような言葉をかけてあげましょう。母親が必ず戻ってくるということを伝えることが大切です。
・3歳まで
この時期の子どもは母親から離れることができる時もあれば、母親にしがみついて離れない時もあります。そのため子どもがぐずっている時に厳しく叱ってしまいがちですが、厳しく叱ると子どもは不安定になり、逆効果です。性格などによって個人差はあっても、だんだんと一人で過ごせるようになるため、甘えてくるお子さんをしっかり受け止めてあげましょう。
3歳以降の母子分離不安にはさまざまな原因が考えられるため、お子さんの様子がいつもと違うと感じたら「何かあったの?」などと積極的に声をかけ、お子さんが不安や心配事を伝えやすい環境を作りましょう。
家庭で行うことができる対処としてはまずは親子で過ごす時間を増やすことが挙げられます。手をつないであげる、一緒にお風呂に入る、一緒に寝る、勉強や子どもの好きなことを一緒にやるなど、できるだけ日常生活においてお子さんとのスキンシップを増やすようにするとよいでしょう。一緒に過ごす時間をつくることで、お子さんの不安を少しずつ取り除いていくことができます。
他にも、次のようなことを試してみるとよいでしょう。
・母親と一緒に登校する
・授業中母親にいてもらう
・保健室登校をする
・子どもを無理やり学校に連れて行かず、休ませる
・それまで一人で寝ていた子どもがお母さんと寝たいと言って布団に入ってきたら拒まない
・ひとりで頑張って寝ている場合は一緒に寝ようと誘う
・家の中では一人でいられるようになる、勉強にとりかかるなど、母子分離不安が軽度になったら学校に行ってみないかと少しずつ誘ってみる
・ごく短時間の登校から始め、学校で過ごす時間を段階的に増やしていく(最初は先生に挨拶だけして帰るなど)
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野村総一郎樋口輝彦/著『こころの医学事典』2003 年講談社/刊
母子分離不安について相談するときは?
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母子分離不安の多くは、親や周囲の人たちが子どもの不安を理解し、家庭での対処法を実践することで改善します。しかし生活に支障をきたしているような場合や、小児期前半で紹介した母子分離不安の特徴が4週間以上続く場合はカウンセラーに相談してみるとよいでしょう。
母子分離不安を相談できるところを簡単にご紹介します。
・子ども家庭支援センター、市町村保健センター
子育て全般の相談を気軽にすることができます。また地域ごとに設けられているため、その地域において母子分離不安を相談できる機関が他にあるか、どんな子育て支援があるかなどを詳しく知ることができます。
・スクールカウンセラー
お子さんの学校での様子を加味したうえで、母子分離不安の相談に乗ってくれます。また学校生活をサポートしてくれる、必要な時は医療機関を紹介してくれるといったメリットもあります。
お子さんが不登校になっている場合は、不登校カウンセリングセンターや不登校支援センターといった専門のカウンセラーに相談しても良いでしょう。カウンセラーに相談するだけでは解決しないときは、小児科や児童精神科などの専門医療機関に相談することもできます。
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参考:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊
母子分離不安の治療が必要な場合「分離不安症」ということも
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これまで説明してきた通り、多くの子どもにとって母子分離不安は発達過程で通常発生するものであり、3歳以降の母子分離不安についても、保護者が適切な関わりをすることで改善します。しかし、母子分離不安が4ヶ月以上の長期間続き、心配や苦痛が過剰なレベルである場合、「分離不安症」と診断され、専門家による治療が必要になる場合もあります。
近藤直司/著『不安障害の子どもたち』では以下のように述べられています。
「母子分離不安はほとんどが1年以内に完治するとされています。しかしなかなか治らなかったケースについて検討した調査では、発症年齢が低く、診断の遅れが一因であったという報告があります。」(近藤直司/著 『不安障害の子どもたち』 2014年 合同出版/刊p.24より引用)
早めに相談することが適切な治療や支援につながり、母子分離不安を改善することができるでしょう。ご家庭だけで悩むのではなく、多くの機関と連携して子どもを守ることが大切です。
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母子分離不安の症状が小児期以降に4週間以上続く場合は、医師やカウンセラー、医療センター、医療機関に相談することをおすすめします。
分離不安症の原因としては、以下のようなものが挙げられます。
・不安を感じやすい性格
内気、神経質、完璧主義、対人関係に過敏な性格など
・学校の環境
過剰な緊張を強いるような学校の空気や担任教師の指導法、いじめなど
・家庭内での問題
両親の不和や母親の病気、身近な人やペットの死
・母親と過ごす時間が少なかった
共働きや母子家庭など、今まで親子で過ごす時間が少なかった
・きょうだいが生まれた
きょうだいが生まれたことで、兄・姉は母親に甘える時間が減った
アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、日常生活に支障が出るほどの母子分離不安を分離不安症としています。
分離不安症の診断基準は以下のように定義されています。
A.家庭または愛着を持っている人からの分離に関する、発達的に不適切で、過剰な恐怖または不安で、以下の項目のうち3つの証拠がある。
(1)家または愛着を持っている重要な人物からの分離が予測される、または、経験されるときの、反復的で過剰な苦痛。
(2)愛着を持っている重要な人物を失うかもしれない、または、その人に病気、負傷、災害、または死など、危険が及ぶかもしれないという、持続的で過剰な心配。(3)愛着を持っている重要な人物から分離される、運の悪い出来事(例:迷子になる、誘拐されれる、事故に遭う、病気になる)を経験するという持続的で過剰な心配。
(4)分離への恐怖のため、家から離れ、学校、仕事、または、その他の場所へ出かけることについての、持続的な抵抗または拒否。
(5)1人でいること、または、愛着を持っている重要な人物がいないで、家または他の状況で過ごすことへの、持続的な抵抗または拒否。
(6)家を離れて寝る、または、愛着を持っている重要な人物の近くにいないで就寝することへの、持続的な抵抗または拒否。
(7)分離を主題とした悪夢の反復。
(8)愛着を持っている重要な人物から分離される、または、予期されるときの、反復する身体症状の訴え。(例:頭痛、胃痛、嘔気、嘔吐)
B.その恐怖、不安、または回避は、子どもや青年では少なくとも4週間、成人では典型的には6ヶ月以上持続する。
C.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、学業的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.その障害は、例えば、自閉症スペクトラム症における変化への過剰な抵抗のために家を離れることの拒否:精神病性障害における分離に関する妄想または幻覚:広場恐怖症における信頼する仲間なしで外出することの拒否:全般不安症における不健康または他の害が重要な他者にふりかかる心配:または、病気不安症における疫病に罹患することへの懸念のように、他の精神疾患によってはうまく説明されない。
日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.189より引用
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分離不安症は併存症を伴うことがあります。併存しやすい疾病には、子どもの場合、不安障害のカテゴリ内にある「全般性不安症」や「限局性恐怖症」があげられます。
分離不安症の医療機関での治療
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医療機関や心理療法の専門施設では以下のような治療が行われます。・プレイセラピー(遊戯療法)
遊びを通して本人の発達状態を理解し不安を和らげることで、自分の考えを表現できるようにします。
・絵画療法・箱庭療法
絵を描いたり、箱の中に好きなミニチュア玩具を置いていくという作業をしたりします。できあがった箱庭についてカウンセラーに言葉で伝えることで、自分の内面世界を表現できるようにします。症状や対人関係を改善することが目標です。
・認知行動療法
ものの受け取り方や考え方を修正し、悲観的でも楽観的でもないバランスのとれた考え方ができるようにします。子どもとの面談を通して進めていく治療法なので、考えを言葉にすることに慣れていない小さい子どもの場合にはプレイセラピーなどの方が適しています。
・家族療法
子どもだけに焦点を当てるのではなく、問題が家庭内でどのように起きているのかまで考えます。そのためご両親の子育てにおける悩みや不安も解決していきます。家族内の人間関係を調整し、子どもが安心できる環境を作っていきます。
・薬物療法
日常に支障をきたすほど不安が強い場合は、抗うつ剤や抗不安薬を使うことがあります。最近ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬が注目されています。不安障害においても効果が実証されており、安全性も高いと言われています。薬物療法だけでは完治しないため、他の治療法と組み合わせて行います。
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出典:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊
発達障害の子どもの母子分離不安の特徴は?
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発達障害の子どもにおいて、母子分離不安の特徴が見られることがあります。発達障害の子どもは対人関係のあり方が偏っていたリ、ものの捉え方が異なったりするため、障害のない子どもに比べて、極度な不安を感じることがあるからです。
母子分離不安は発達障害の中でも、ASD(自閉症スぺクトラム)の子どもに多いと言われています。ASDのある子どもにおける母子分離不安は、一言で言うと対人関係上の特性が原因です。ASDのある場合、親がいなくても平気という親子関係の希薄さを示す子どもがいる一方、子どもによっては極めて強い不安感を抱き、他の子どもがいるのを嫌ったり、ひと時も母親から離れられないといった神経質、過敏傾向も示す場合もあります。
母子分離不安の対処法は、発達障害が関連していようとそうでなかろうと変わりはありません。信頼でき愛着のある大人がそばにいてやさしい言葉をかけて、子どもの不安を軽減させてあげましょう。まずは、信頼できる大人との安心した関係を確保したあと、不安を感じにくくするような治療法を取り入れていくとよいでしょう。
注意点として、母子分離不安が表れたからと言って、すぐさま発達障害だと決めつけてはいけません。母子分離不安そのものは病気ではなく、多くは「一時的に心配ごとがある」というサインだからです。母子分離不安の特徴だけでなく、お子さんに他にどんな特徴が見られるのかも把握するようにしましょう。
まとめ
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自立を始めた子どもには母子分離不安が生じます。親から離れ出すと誰もが不安になるものです。そうした、発達過程で生じる正常な母子分離不安も少なくありません。お子さんの母子分離不安がどのようなものなのか、どう対処すべきなのか、しっかりコミュニケーションをとって把握しましょう。
また、甘えだと思って厳しく叱ってしまうのではなく、お子さんを認めてあげ、一緒になって不安を取り除いていくことで改善することができます。子どもは安心することで、自立できるようになるのです。
一方で治療を要する母子分離不安もあります。長く続く不登校なども、母子分離不安が原因かもしれません。症状の程度によってはスクールカウンセラーなどに相談するなど、ご家庭だけで抱え込まないようにしましょう。