ビジョントレーニングとは?「見る力」と学習障害との関わりは?具体的なトレーニング法をご紹介します
ビジョントレーニングとは
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ビジョントレーニングとは、目で見る力を高めるための訓練の方法です。生活の中の問題やスポーツのスキルアップを目の機能からのアプローチによって解決しようという目的のものです。
私たちは普段目でものを見て生活をしていますが、「見る」ということは、視力以外に様々な機能を使用します。例えば、自由自在に目を素早く動かしたり、目から取り込んだ情報を正しく頭で処理したり、またそれらの情報に合わせて体の動きを調節したりするなどです。これらの正しくものを見るために必要な機能を高めるのがビジョントレーニングです。
ビジョントレーニングはアメリカにおいて歴史が深いトレーニング法ですが、現在は日本でも導入されつつあります。トレーニングは学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもたちの諸問題の改善・克服からプロスポーツ選手のパフォーマンス向上に至るまで、多くの人々の能力向上に用いられています。
ビジョントレーニングには様々な効果が期待できますが、身近な例だと板書や本読みのスピードがあがったり、整ったきれいな文字を書くことができるようになったりする結果があります。
子どもの困りごと、もしかして「見る力」の弱さが原因かも?
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「見る力」に問題があることによって起こる困りごととして以下のようなことが挙げられます。
・板書をノートにとることが苦手
・写生など見たままの状態で絵を描くのが苦手
・本を読むとき文字や行を読み飛ばしてしまう
・定規のメモリがうまく読めない
・漢字がなかなか覚えられない
・算数の図形の問題が苦手
また、二次的な問題としては、全体的に運動に不器用さが見られることが特徴として挙げられます。体の緊張の高さや、姿勢の悪さ、書くときの筆圧が強さや弱さなどです。他には、自転車にうまく乗ることができなかったりなど、運動面での不器用さの原因にも「見る力」の弱さが潜んでいることがあります。
ビジョントレーニングはこれらの問題に対し、「見る力」を高めることで解決しようとするアプローチ法なのです。
そもそも「見る力」ってどういうこと?
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「見る力」すなわちビジョンとは、いわゆる視力のことを指しません。私たちが「ものを見る仕組み」のことです。
ビジョンとは、視力に関係する機能よりはるかに幅広く複雑なものです。
「ただ単にものを見る」ための視覚のシステムは生まれたときにはほぼできあがっていますが、ビジョンは発達とともに身についていくものです。
私たちは、運動や学習、生活の場面などあらゆる場所で目を使っていますが、ビジョンは大きく分けて「眼球運動」、「視空間認知」、「目と体のチームワーク」という3つの構成要素があります。
ものを目で追ったり、視線をすばやく動かしたり、両目を寄せたり離したりするのが眼球運動のはたらきです。このはたらきは「入力」の部分にあたり、目の動きが適切に行えることで、情報をくまなく目から取り込むことができます。
眼球運動には、さらに3つの種類があります。
◇「追従性眼球運動」…見ているものの動きに合わせて滑らかに、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことです。
【例】
・本に書かれた文字を目で追う
・動いているものを目で追う
・ひとつのものに焦点を絞って見つめ続けたりする
◇「跳躍性眼球運動」…一点から別の一点へ視線をすばやくジャンプさせる眼球運動です。この眼球運動は、多くのものの中から必要な情報を早く、正確に見つけるために必要なはたらきです。
【例】
・黒板とノートを交互に見る
・人ごみの中から探している人を見つける
・本を読む際、次の行に移る
◇「両目」のチームワーク…私たちは両目を使うことにより物の距離感や立体感をつかんでいます。その時、対象物に焦点を合わせるために、ものとの距離に合わせて、右目と左目の視線を変化させています。
【例】
・近くのものを見るときには両目を真ん中に寄せる
・遠くのものを見るときには両目を離す
これら3つの眼球運動が正しく機能することにより、情報を目から取り入れる「入力」という第1ステップが完了します。
第1ステップで「入力」された視覚情報は脳へ伝わり、「情報処理」という第2ステップへと引き継がれます。この情報処理のことを視空間認知と言います。
視空間認知は、目から入った情報を脳で把握する能力です。空間の一部ではなく、全体像を把握するはたらきがあります。ただの点や線だった情報が、一つの形として具体的にイメージすることができるのは視空間認知のはたらきのおかげです。
視空間認知のはたらきには以下の4つがあります。
・見たい対象と背景を区別する
・形や色を弁別する
・位置や色・形の不揃いにかかわりなく、「同じ」ものだと認識する
・空間的な位置を把握する
くわしくは以下の記事をお読みください。
発達の専門用語では「目と手の協応」といいます。第1ステップで情報を目で見て、第2ステップで脳の中で認知された情報をもとに、私たちは体を動かします。これは、「入力」「情報処理」の次のステップの「出力」にあたります。
「目と体のチームワーク」とは、視覚のはたらきと体の動きを連動させることです。例えば「ボールで遊ぶ」ことを例にあげて考えてみましょう。
1.転がってくるボールを目でとらえて、目で追う
2.ボールが到達する位置とタイミングを脳が把握する
3.目で追いながら体を動かして、手を伸ばしてキャッチする
このように、私たちの体は視覚の情報をもとに動いています。
私たちは、これらの一連の動きを普段意識することなく行っています。ボール遊びが練習しなければならないように、このような「見る」と「動く」という能力のつながりは、心身の発達にともなって
活動しながら、調節していってできるようになるのです。
学習障害の子どもにビジョントレーニングは有効?
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学習障害(LD)とは、知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」力のうちいずれか、または複数で習得、使用に著しい困難を示している状態のことです。学習障害というと、暗記や理解する機能などに困難があると考えがちですが、実は「見る力」の弱さが原因となっている場合があることがわかってきました。
例えば、「教科書を読むのが苦手な子ども」について考えてみましょう。
教科書に書いてある文字を追うためには、眼球運動の力がかかわっています。眼球運動がすばやく、正確にできないと、読みとばしが増えたり、読んでいる場所を見失ってしまったりして読書効率が落ちてしまうことがあります。
このほかにも「見る力」を含む複雑で多様な力を総動員させながら、子どもたちは学習活動を行っています。
勉強が苦手とされる子どもが苦手なのは実は「見ること」や、「見た情報をもとに体の動きを制御する」という動作だったりするのです。
「見る力」の弱さが原因の場合、そのフォローをせずに、ひたすら音読の練習だけ「がんばってもできない」ことが多いのです。
しかし、学習障害のある子どもは、「がんばりが足りない」「やる気がない」などと個人の意志や努力不足として叱責されることが少なくありません。それが積み重なると、自己肯定感や学習意欲も低下してしまいます。
そのため、ビジョントレーニングによってこれらの目の働きを高めることが、学習障害のある子どもの困難の解決につながることがあります。
ビジョントレーニングはどこで受けられるの?
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ビジョントレーニングはどのような人によって行われているのでしょうか。この章では、ビジョントレーニングを行う人や、取り入れている場所についてご紹介します。
■トレーニングを行う専門家
・オプトメトリストというアメリカの資格を持つ視覚機能専門の有資格者
・臨床発達心理士や療育のスタッフなど発達障害に関する知識をもつ人など
■施設
ビジョントレーニングは普段の療育の場で取り入れられていることが多いです。
ビジョントレーニングと銘打っているところでも、上記3点の「見る力」の機能の向上を行うためのトレーニングとして取り入れられていることが多いです。ほかに「見る力」を高めるための民間の行う教室がいくつかあります。
ビジョントレーニングの方法
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療育や民間の施設に通わなくても、普段の生活の中に少し工夫をすることによって「見る力」を鍛えることは可能です。ここで紹介するのは、「見る」力を養うために挙げられるもののほんの一部です。家庭でできるものもあります。少しづつでもよいので、できれば毎日、子どもが取り組める環境をもつようにしましょう。
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眼球運動のトレーニングです。定規の両端と中心に貼ったシールを目の前で水平に持って、大人の指示に従って交互に見ていきます。シールは両端は赤、真ん中は青にして指示がわかりやすく通るようにすると、集中力を妨げずに済むのでよいでしょう。最初は指さしをしながら取り組んでもらい、徐々に指を使うことなく、目だけでポイントを追えるように行っていきます。ひとつのポイントに焦点を合わせたり、同時に2つのポイントを捉えたりする動作を順序に行っていくことで、ピントを合わせる力を養います。
近くでより目をしたり、離して見たりするトレーニングは、「忍法より目!」などと掛け声をかけて何かになりきったりすることで子どもも楽しく行うことができます。
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本を読むときの行がえが苦手な場合の眼球運動のトレーニング方法です。縦と横に文字が羅列してあるものを用意し、子どもは左端と右端の文字だけを声をだして読む。こうすることによって、他の文字にとらわれず、注目したい文字にだけ焦点を合わせていきます。
子どもが楽しく取り組むためには、「怪盗Xからの暗号文書!」などというタイトルをつけて文章を作成して、机の上においておき、解読ができるとお菓子のありかに辿り着けるなど、子どもが興味をもちそうな題材に置き換えてみるなど工夫を行ってみるのもよいかもしれません。「↑ → ↓ ← 」などと矢印がランダムに描かれた紙を使用してトレーニングを行うことができます。
2人組となり、1人が上記の矢印が描かれた紙をもち、指差していきます。もう1人の人は、指差された矢印の方向に動きます。「↑」だとジャンプする、「↓」だとしゃがむ、「→」だと右に一歩ずれる、「←」だと左に一歩ずれる、というように目で見た通りに体を動かすような練習をします。
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視空間認知には「目で見ること」「実際に手でものを触る」の2点が重要となります。その後、ねんど遊び・ブロックなどで目で見たものをそっくり作る・まねする遊びは「目と体のチームワーク」の力を養うのにも適しています。
まねっこしてお絵かきをするのもお進めです。ここで求められる力は、黒板の文字を見て、自分の手元にあるノートに写すという板書をするときに求められる力にも合致する部分があります。
まず、大きめの紙とペンを用意します。子どもの好きなキャラクターやイラストを題材として、大人が絵を描き、それを見て子どもに真似をさせます。複雑なイラストの場合には特徴だけを残して細かな部分は省くなど、イラストを簡単にしてから子どもに提示するのがよいでしょう。
このときには、まず大人の隣で描く→少し離れた場所でお手本を提示するという順序を踏んでいくことがよいでしょう。離れた場所を見てから、自分の手元に目線を落とすことは、対象物の距離によって焦点を合わせる力が必要となるからです。
最初から難しい課題ばかりを出していると子どもがうまくできずに気持ちが落ち込んでしまうことがありますので、ゆったりした曲線のある絵を選ぶなどの配慮を行うとよいでしょう。
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これらの遊びを行うことで、耳の中の前庭感覚というバランスをとる器官の問題と併せて、目と体のチームワークの力を鍛えることができます。目で見た情報から、位置や傾きなど体の状態を把握し、動きを調整していくという点で目と体のチームワークの力が鍛えられます。例えば、トランポリンを例にとって考えてみましょう。トランポリンで何度も飛び跳ねるうちに体の位置がずれていくことがあります。そのまま体の動きを修正せずに飛び跳ね続けるとトランポリンからはみ出し落下してしまいます。このときに必要なのが、トランポリンのどの位置に自分がいるかどうかをまず目で見てとらえることです。そして、例えば右にずれているなら、左側に体をずらしなおすという修正をすることが必要です。何度も飛び跳ねる中で目で見て、ずれている分だけ体の動きを修正することを繰り返していきます。
「目で把握し、体を調整する」という手続きを含む遊びはトランポリンだけではなく、アスレチックや平均台などもあります。身体を使った遊びはすべて「見る力」を鍛えるよい素材となるといえます。
まとめ
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見る力に困難のある場合、子どもは「ものすごく気を付けていてがんばってもできない」「やりたいことができない」というストレスを感じます。学習や運動に限らず、子どもが努力や気合で乗り切れないことがあるとき、その背後には何かの原因が必ずあります。
それらのストレスが二次的な困難となってあらわれないようにするには、読み書きや運動の困難の裏側に、視覚機能の問題があるのではという可能性に周りの大人が目を向け、原因を探っていくことが大切です。
ビジョントレーニングの際には、ちょっとしたことでもほめてあげることを心がけましょう。具体的にした努力や行動、パフォーマンスを褒めてあげられると、子どもがどんな行動がよいとされるのか判断をしやすくなります。また身近な大人に褒めてもらうことにより、子どもの意欲がさらに高まり、継続してトレーニングを行うことができるでしょう。
また、ハードルを高くしすぎず、スモールステップで取り組むこともポイントです。文字や図形をノートに写す場合は、見た目の美しさは気にせず、見てそれとわかればよいということをまずは大切にしてみましょう。子どもの好きなキャラクターを導入したり、カラフルなツールを使ったり、トレーニングを物語風にしたりと、子どもの楽しんでできる環境をつくる工夫をできると良いですね。取材協力:天ケ瀬正博
(奈良女子大学大学院 准教授)
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