「アーレン症候群」を知っていますか。文字が回ったり歪んだり…娘の検査からアーレンレンズを手にするまで
文字がぐるぐる回って読めないアーレン症候群、娘の場合は……
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みなさんは、「アーレン症候群(アーレン・シンドローム)」という言葉を聞いたことがありますか?
アーレン症候群とは、視知覚における光の感受性の障害で、読字に困難が生じることが特徴です。
近年、認知度が上がってきた学習障害、特に読みに困難が生じる「ディスレクシア」と一見混同されがちですが、読字に困難が生じるメカニズムは異なり、別個の障害として研究が進められています。
現在11歳の娘は、8歳の夏にアーレン症候群の特性があるとわかりました。現在は、「アーレンレンズ」という専用のメガネをかけて過ごしています。
同じアーレン症候群の特性を持つ人の中でも症状は様々ですが、私の娘の場合の特徴的な見え方として、
・文字と文字の感覚が徐々に離れ開いていく
・文章全体がぐるぐると回り渦を巻く
・文章中の文字が単独で所々歪む
などがあり、このような状態で文字を読み続けると、まるで車酔いのような気持ちの悪さを感じるそうです。
また、
・小さな文字で行間が狭い長文
・数字、ひらがな、漢字、複雑な立体図形、細かい地図
・真っ白な紙に黒い文字で印刷されているなど、コントラストがはっきりしている文章
などの条件の場合に特に強く症状が出るようです。
読字に関する困り感以外にも、蛍光灯の光を見ると「ガーン」と頭をハンマーで殴られたような頭痛があります。
自然光の入る教室内よりも、夕方の塾の教室や夜の街にあふれる強い明かりなどで痛みを感じています。
アーレン症候群の特性を持つ方々の見え方はそれぞれです。
こちらの動画を見ていただくと、アーレン症候群の見え方の特徴がよくわかっていただけるかと思います。
子どものアーレン症候群は見つけにくい
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娘の場合は
・定期的に体調を崩したこと
・共感覚などの複数の感覚の特性を持っているため、多様な違和感の何か一つでも大人に伝えることができたこと
・元々、会話の多い親子関係であったこと
・担当してくれた医師が丁寧に時間をかけ傾聴してくれ、さらにアーレン症候群について詳しくご存知だったこと
などが重なり、低年齢の段階でアーレン症候群を見つけていただくことができ、対処することができました。
しかし多くの場合、子どものアーレン症候群の可能性は見落とされてしまうだろうと感じています。
なぜなら、
・子ども自身が生まれた時からそのように見えているので、他人と自分の見え方の違いに気がつきにくい
・子どもは言語で違和感を説明することが難しく、また、認知が広がっていない為に大人も存在を知らないことが多く、子どもの何気ないSOSを逃してしまうこともある
・通常の小学校生活においては、子ども自身の工夫によって対処している場合もあり、子ども自身が抱えている困難が表面化しづらい(ちなみに娘は教科書を事前に読み暗記していた為、音読もなめらかで、学校生活における学習面での困難に周りは気づきませんでした)
などの課題があるように思うからです。
病院では検査ができない!?日本でのアーレン症候群検査機関は限られている現状
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担当してくれた主治医から娘のアーレン症候群の可能性を告げられた当初はまだ私は半信半疑でしたが、
「日本で検査できる機関は筑波大学の一箇所のみですし、困り感が大きくなってから焦って受診するよりも、余裕を持って今のうちに行かれる方が良いかもしれませんよ。」
と主治医から背中を押して頂いたので、筑波大学心理発達教育相談室の予約の電話を入れました。
http://www.gakko.otsuka.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2011/08/dfe7dcba1f6a3d6bdb38eabc81dee404-1.pdf
筑波大学附属学校教育局心理・発達教育相談室アーレン・シンドロームについて
電話にて予約確定後、自宅に質問票が郵送で届きました。
Yes or Noで答える形式ではありますが、その質問数に圧倒されました。
これらの質問と全く同じだったのかは記憶が曖昧ですが、アメリカ・アーレン協会のホームページ上にはセルフテストが掲載されています。
Webで探せば日本語に翻訳されたセルフテストも見つけることができますので、気になった方は試して頂くと良いかもしれません。
http://irlen.com/long-self-test-for-irlen-syndrome/
アーレンシンドローム・セルフテスト
困難を一人で乗り越えてきた娘の姿を知ることに…
そしていよいよ検査のために筑波大学東京キャンパスへ。
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この頃は学習面での困難が全く表面化していなかったため、私としては「アーレン症候群の疑いを今のうちに消しておくのもいいだろう。」くらいの軽い気持ちでの受診でした。
相談用の個室にて、アーレン協会のライセンスを持つ先生が、質問票を確認しながら娘に優しく語りかけ話を聞いてくださいました。
すると母である私は全く気がついていなかった、娘の「感覚」や「困難を感じたことへ自分で工夫し乗り越えてきた様子」を初めて知ることになりました。
こんなに小さな娘が一人で対処してきたのか、と驚きと共に申し訳ない気持ちになりました。
先生の的確な質問とご説明のおかげで、娘の感じている世界、見えている世界の一端を知る事ができました。
会話の多い子育てを心がけてきただけに、母親である私がいかに単一的な自分の視点ばかりで娘のことを捉えていたのかに気がつき、大きな衝撃を受けました。
当事者である娘は、自分の世界を理解してくれ言語化してくれる初めての存在に出会えた安堵感を感じ、少しほっとしていたように見えました。
そして幾つかの検査を経て、「アーレン症候群の可能性がとても高い。」との結果が出ました。
アーレンレンズのフィッティングで疲労困憊に。
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アーレン症候群の症状は、その人に合ったアーレンレンズのメガネをかけることで解決出来る場合があります。どのレンズがその人に合うのかは個人差が大きく、フィッティングを通じて最も見やすいカラーのアーレンレンズを選ぶ事になります。
後日、アーレンレンズの色を決めるフィッティングの為、改めて筑波大学の心理発達教育相談室を訪れました。
文章を実際に見ながら、様々なカラーレンズを順に目に当て、自分にとって読みにくさが軽減する色を選んでいきます。
全体からこれぞという1枚を決めたら、次はそれに重ねるとさらに良いと感じる2枚目。
そして3枚目・・・とできる限り読みやすくなるまで、繰り返しカラーレンズを重ねていきます。
8歳の頃は1枚のカラーレンズのみを選び、重ねない選択をしましたが、2度目のアーレンレンズフィッティングの際には、なんと13枚ものレンズが重なりました。
娘の場合は、それほどの枚数を重ねてようやく、80%ほど見えやすさが改善した感覚とのことで、先生も100%完全に見えやすい状態にする、というのは現時点では難しい、と仰っていました。
とはいえ、意味を持たないひらがなの羅列を読むテストでは、明らかに読むスピードに違いが見られました。
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一方でこのフィッティングはとてもとても疲れるようです。
目に当てる色によって、見えやすくなったかと思えば、次のレンズでは文字が途端に動き出し頭痛を引き起こすこともあり、1枚1枚レンズを変えるたびに目まぐるしく見え方が急変するからだと思われます。
無理をせずこのくらいでやめておきましょう、と早めに切り上げて下さったのですが、それでも次第に顔が青ざめ、ソファーで少し横になって、ひと眠りしてから帰宅するほどの疲労感に襲われます。
こうやってフィッティングしたカラーの組み合わせのデータを、筑波大学からアメリカへ発注して頂きます。
ちなみに、13枚も重ねたレンズの色は1枚のレンズとなり届くのでご安心を。
発注のタイミングにもよるそうですが、娘の場合は数週間ほどでアメリカからレンズが自宅に届きました。
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実はこの時点ではまだ眼鏡に加工されず、丸いレンズの状態で届きます。
アーレンレンズをメガネに加工できるメガネ店も、現在はまだ日本に数件のみ!
アーレンレンズは日本ではメガネに加工することが難しく、合うフレームも少ないとのことで、アーレンレンズを加工してくれるメガネ店をインターネットで探し、東京都府中市にある「日本メガネ」に伺う事にしました。
http://www.nihonmegane.com/
プロショップ日本メガネ
事前に必ずメールにて来店予約をし、アーレンレンズを持って伺います。
日本メガネの店長さんもお仕事の枠を思い切り越え、とても親身になって対応してくださる方でした。
11歳になって再度訪れた時には、最初に伺った2年半前には無かった子ども用のアーレンレンズ専用メガネフレームも開発され商品化されていました。
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これ以外にも、フレームの一部を緑、青、ピンク、赤などのカラーにしたデザインもあり、とてもスタイリッシュで素敵でした。
「 2年かけて試行錯誤し、メーカーさんと一緒に開発しました」と店長さん。
娘も、これなら!と嬉しそうにメガネのフレームを手にしていました。
アーレンレンズのメガネが娘の元に届いた日
「アーレン症候群の方へは最優先でメガネを作成しお送りしたいと思っているので」と店長さんが仰っていらした通り、眼鏡店を訪れた3日後には自宅に届きました。
しかも、娘がこぼした「ピンクより青の方が好き。」との一言を覚えていてくださり、青色のメガネケースに入れて送ってくださいました。この温かい心遣いに娘を応援してくださる思いが伝わり、親子で励まされました。
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写真は11歳の時に作った2代目のアーレンレンズです。
13色のカラーが重なり、赤みがかった濃いレンズの色に合うようにと、本人が黒い色のフレームを選びました。
8歳の頃、初めて自分専用のアーレンレンズのメガネをかけた娘の言葉は今でも思い出されます。
「わぁ!よく見える!」とスラスラ音読し聞かせてくれ
「普通に見えるってこういうことなのかぁ。初めて知った!」と。
その娘の言葉から、改めて「誰にも気づかれず、これまで一人でよく頑張って来たのだな」と思うと胸が熱くなり涙が出ました。
アーレン症候群の認知が広がれば、一人で悩んでいる子どもたちが救われるかも!
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アーレン症候群はアーレンレンズによってQOLが大きく改善する可能性が高い特性です。
それにも関わらず、頭痛を我慢し、揺れる文字を読むことで生じる不快感を我慢し、学習において人の何倍も時間をかけ努力している子どもたちが、気づいてもらえずに一人で頑張り続けているかもしれません。
もしかしたら、ディスレクシアだと思われているお子さんの中にも、実はカラーレンズのメガネによって症状が改善するお子さんがいるかもしれません。
アーレンレンズが全ての問題を解決してくれる万能な存在、という訳ではないので、引き続きアーレン症候群の当事者が抱える課題感をお伝えできたら、とは考えております。
ですが、まずはアーレン症候群の認知が広がり、一人でも多くの子ども達が自己肯定感を持ち、自分らしく伸びやかに暮らせる社会になると良いな、と思っています。
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※読みに困難が生じるという症状は似ていますが、アーレン症候群とはまた異なるメカニズムの障害と言われています。