何度目かの「はじめまして」…私の相貌失認と、その対策
「こんな顔だったっけ?」とある俳優さんの顔が覚えられない私
Upload By 鈴木希望
どうしてもお顔を覚えられない俳優さんがいる。何度見ても「あれ、こんな顔だったっけ?」と思ってしまう。テレビや映画、雑誌等では滅多に見られない役者さん、というわけではない。名は秘すが、あらゆる作品に引っ張りだこ、イケメン俳優として人気を集めている。そう、私はいわゆるイケメンの顔が覚えられない。軽度の相貌失認なのだ。
相貌失認とは、簡単に言ってしまえば、人の顔を認識するのに困難が生じる疾患のことだ。俳優のブラット・ピットが明らかにしたことで、数年前に話題となった。
https://allabout.co.jp/gm/gc/324344/
人の顔が覚えられない……相貌失認の症状・対処法
Upload By 鈴木希望
当事者の方のブログや症例などを拝見すると、全く覚えられないわけでもない私は、比較的軽度であるようだ。とはいえ生活に支障がないわけではない。
前職では、1週間ほぼ毎日顔を合わせていた人に、毎日「初めまして」と挨拶をし続けた。またプライベートでは、とある講座を一緒に受け、一緒に修了した同期生に数日後対面し、やはり「初めまして」と挨拶をしてしまった。
前者の場合、発達障害を明らかにして入社したため、「そういうこともあるんだね」と笑って流してもらえたが、後者は大層嘆いていらした。それもそうだろう、共に学び、仲が良いと思っていた相手に、たった数日で忘れられてしまっていたのだから。
「関心がないから覚えられないのでは?」と誤解されがちなのだが、決してそうではない。関心があっても覚えられないのだ。
これが辛い。お付き合いしていた男性の顔を、家に帰ったら全く思い出せないなんてこともあった。とはいえ、顔以外の声や仕草を覚えていることがあるので、次に会ったときは「こっちを見ている。あ、この声。そうだ、この人だ」といったかたちで確認するわけだ。
覚えやすい顔と覚えにくい顔。その違いは一体なんだろう?
相貌失認の概要については前述のリンクをご覧いただくとして、ここからは私の話。
前述したように、誰もの顔を全く覚えられないわけではないし、何度か会えばいずれ覚えられる。中には1度会っただけで覚えられることもある。
そうした経験を通して、私には「覚えやすい顔」と「覚えにくい顔」があるということに気づいたのだ。ただ、その差がなんなのか、長年わからなかった。
そのヒントになったのが、イラスト描きを生業としてる知人の、「美形を絵に描くのは難しい」という言葉だった。曰く、「整った顔立ちは特徴が捉えにくい。少しバランスが狂っただけで美しさが削がれてしまうし、似顔絵の場合だとデフォルメがしにくいから、似せるのが本当に難しい」と。
相貌失認のない人でも、美形は認識しにくいのか!―目からうろこだった。
後日、冒頭の俳優さんを雑誌で見かけた際、「こんな顔だったっけ?」と思いながらじっくりと確認する。うん、美形だ。
そうか、私は美形であればあるほど覚えられないのか……
「イケメン嫌いのブサイク好き」?違う!断じて違う!!
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161017947
そんなこんなで、私はいわゆるイケメンに関心がない。というか、覚えるのが苦手だから関心の持ちようがないのだ。
しかし、「ノゾミちゃんってブ専(ブサイク専門)なんだね」などと言われたら、烈火のごとく逆上する。「私の大好きなあの人やあの人に土下座しろ!」と。まぁ、逆上は大げさだが、正直いい気分はしない。自分にとって愛しいもの、心地いいものを、あたかも美しくないかのように言われるのだから。
現に、私にとって覚えやすい顔の美形もいる。パーツやバランスが特徴的であればあるほど認識しやすいので、いわゆるこってり顔の方は早い。
俳優さんで言えば、阿部寛さんとか伊勢谷友介さんとかね。なので、「スズキに好かれた、もしくはすぐ認識された=ブサイク」というのは大きな間違いなのだ。
上記のような話を友人にしたところ、「相貌失認の方は、あっさり顔が苦手なのかな?」と聞かれたのだが、そうとは限らないからややこしい。やはり軽度の相貌失認を持つ別の友人は、「こってり顔の人がみんな同じ顔に見える」というのだ。彼女にとっては、顔のパーツがあっさりしている方が特徴的に感じられるのだとか。
どうしてこうした違いが生じるのかについては、私は専門家ではないから何とも言えないし、「まぁそういうこともあるんだね」としか言い様がない。
もちろん覚えようと努力はしている。しているけれど…
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11021006324
顔を覚えるのが苦手であるぶん、お会いした方に失礼がないよう自分なりに尽力している。
まず、可能であれば、自分が相貌失認であることをあらかじめ相手に伝えるようにしている。
それから、お会いした当日に交わした会話やエピソードがあれば後でそれを記録して、エピソードと顔を結びつけて記憶しやすいようにする。
顔以外のパーツや骨格、動き、声などに注意を向けるのも、私の場合は記憶の定着に一役買うらしい。―というか私は、自然に相手のパーツや骨格などに注意が向きやすいようだ。そちらの方が覚えやすいためか、なかば癖になっているのかもしれない。
余談だが、その癖のせいで、他の方の目で見たら全く似ていない二人を「(骨格が)似ていますね」と判断したり、「素敵な手首と手の動きですね」と、マニアックな賞賛を口にしてしまうことがある。我ながらちょっと気持ち悪い。
しかし上記のような方法も完璧ではない。コラムで何度か触れているが、いかんせん私はADD、注意欠陥障害を持っている。
メモすることを忘れたり、その場でメモすることを先方が許してくださったにも関わらず、そのメモを紛失したり、お名前を忘れたり、下手をすれば自分が相貌失認であることさえ忘れて、対策を講じることさえ不可能になってしまう場面もある。
最悪だ。バカなのだろうか?いや、バカではない。そう信じたい。
私が「あなた、誰だっけ?」状態になってるときに、覚えておいてほしいこと
こんな私だから、関心を持っているあなたやあなたやあなたの顔を覚えられず、再度お会いした折には「誰だっけ…?」と言いたげな表情で見つめてしまうかもしれない。そんなときは「そうか、自分はあっさりした美形なのだな」と思っていただきたい。
そして逆に、わたしにすんなり認識されたあなたは、”はっきりした”美しいお顔立ちなのだ。うん、断言する。
世の中にはこんな人間も存在する、ということを頭の片隅にでも置いていただけたら、スズキ、嬉しい。