ヒントは連想ゲーム!息子の「こだわり」を燃料に変えた、世界を広げる秘策
「好き」が、強い「こだわり」になってしまった息子。
発達障害のある子どもは、よく興味の対象が「狭くて深い」と言われます。自閉症スペクトラム障害、ADHDと診断されている息子の場合も例に漏れず、発語があった1歳前半から幼稚園の年中あたりまで、興味の対象は「車」のみでした。
Upload By 林真紀
「トミカ」は恐らく100個ぐらいは集めたと思います。何かのご褒美として買うのはもちろん、フリーマーケットやバザーなどで大量買いすることもありました。
息子はトミカを何個も並べ続けて、それを寝っ転がって眺めては幸せそうにしています。最初は、そんなトミカ遊びを続ける息子に、私はほのぼのとしていたものです。
しかし、息子の「興味」はやがて「こだわり」に変わります。やがて、誰かからトミカ以外のプレゼントをもらうと癇癪(かんしゃく)を起こすほどになりました。
プレイルームなどに行って、車のおもちゃがないとパニック。新しい環境で不安になると、「トミカ~、トミカどこ~」とべそをかきながらグルグル回り始めます。私たち家族は、息子の「トミカ大好き」に振り回され始めるのでした。
「何かをうんと好きになって極めて欲しい」。そんな親の願いはある意味叶っていたにも関わらず、そのあまりのこだわりの強さに親の側が疲弊してしまう結果に。そしてまた、トミカ以外の物にはほとんど興味を示さない息子にも、不安を感じ始めました。
興味の対象が狭いので、人形劇や紙芝居などは全く聞いていられません。幼少期の息子はどこに連れていっても、トミカを並べて遊ぶ以外のことが出来なかったのです。
なんとか興味を広げていきたいという親の願い
息子の興味の狭さとこだわりに疲れを感じつつも、私はトミカから息子を遠ざける気にはなりませんでした。息子にとっては、精神的に不安定になったときに、唯一自分を癒してくれる世界がトミカだったのです。
そう考えた私は、思う存分息子にトミカで遊ぶ時間を与えることにしたのです。1歳のときから、およそ3年間。息子は寝ても起きてもトミカ一色でした。
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そんなある日私は、息子の様子がいつもと違うことに気づきます。
トミカに埋もれる息子の様子はこれまでよりも覇気がなく、どうやら「遊び尽くした感」を感じているような気がしたのです。
新しいものは怖いからトミカで遊ぶ、でも正直飽きた、でも新しいものは怖い…。
そんな、悪循環に囚われ身動きが取れなくなっている様子を見て取ることができたのです。加えて、トミカで遊ぶときの息子の集中力が明らかに落ちていて、トミカの新製品を見つけても、大喜びで飛びつくようなことはなくなりました。
私はそのとき、「興味の対象を広げるなら今だ!」と感じたのです。とはいえ、私は息子のこだわりの強さはよーく分かっているので、突然全く新しいものを与えたとしても「トミカじゃなきゃ嫌!!」と癇癪を起こすことは火を見るより明らかでした。
そこで私は、連想ゲームのように、「トミカ」「車」に関係のある別のおもちゃを探しました。また今度は「出来上がった」ものではなく、息子自身が作ってゆけるものを選ぶことを思いついたのです。
さまざまなアイテムを調べた結果、車を作ることのできる幼児用のレゴセットを見つけました。国内では売っていなかったので、インターネットで海外から取り寄せることに。
最初にそれを見た息子は、
「作るのは嫌っ!!!」「出来上がったのちょうだい!!」
と癇癪を起こしたもの、少しずついじっているうちに、すぐにハマり始めたようです。やがて、車だけが興味の対象だった息子は、レゴの世界に引き入れられていきます。最初はいろいろな形の車を作って遊んでいましたが、今度は周りの建物も作り始めました。
これは大きな変化でした。息子の世界は、最初こそ目の前の車だけでしたが、ときがたつにつれ立体的に広がっていき、車の周りにある信号、道路、ビルへと飛躍的な広がりを見せたのです。
そして遂に、ゲームの世界へ
息子にレゴを与えたのは4歳のとき。息子は、レゴとトミカを組み合わせながら、部屋の全面を使って遊び続けました。これも、一切邪魔することなく、小学校入学まで思う存分やらせました。
そして小学校1年生になって、息子の興味の対象に、大きなブレイクスルーがあったのです。
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息子は、「マインクラフト」というゲームの面白さにハマり始めます。姉がやっていたのを見て、息子も興味を示し始めました。
「マインクラフト」の世界は、立方体のブロックで構成されており、建造物やその他の様々なものをブロックを使って自由に創造することができます。これは、今まで息子がハマっていたレゴ遊びを、ゲーム上でやる感覚です。ブロックにはたくさんの種類があり、積み上げるのも壊すのもリモコン1つで簡単にできます。
息子は、このゲームの面白さを知ってから、外出するたびに目に飛び込んでくる建造物に大きな関心を示すようになったのです。
狭くて深い興味を強みに変える
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マインクラフトにハマっていった息子は、本屋さんで攻略本を欲しがるようになりました。
ところが攻略本は、小学校1年生には読めない漢字や英語表記などが満載です。
私は負荷が大きすぎるとすぐに投げ出してしまう息子の性格を知っていたので、「攻略本はもうちょっと大きくなってから買おうよ」と言ったのですが、息子はどうしても引き下がりません。結局私のほうが根負けし、何冊か購入することになったのです。
攻略本への興味もいつまで持つやら。そんなことを考えていました。
ところが蓋を開けてみてびっくりです。
息子は漢字も英語表記も、辞書を使ったり、私や娘に聞いたりしながら、必死に読みこなしているのです。発達障害のある息子の「こだわり」や「狭くて深い興味」が、強みに変わった瞬間だったように思います。
最近は、気付けば攻略本を読んでいるので、これも思う存分ハマらせてみようと思い、口を出さずに見守っています。
興味の対象を「取り上げず」に「広げる」
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28174007638
このように、うちの息子は「トミカ」→「レゴ」→「マイクラ」という感じで、狭くて深い興味を少しずつ広げていくことができました。発達障害のある子どもはこだわりが強いため、ひとたび「好きなもの」にこだわり始めると、親も振り回されて疲れてしまうことがあります。けれども、そのこだわりを取り上げてしまわないことが大切だと強く感じます。決して取り上げず、思う存分遊ばせて、連想ゲームのようにそこから少しずつ世界を広げていくことが重要だと思うのです。
子どもの世界を広げたいと願うのは多くの親が同じだと思います。けれども、そのこだわりを否定して、全く別のものを与えても、子どもは不安になるだけです。親子の信頼関係も崩れてしまうと思います。
興味の対象を「取り上げず」に「広げる」、全く違うものを持ってくるのではなく、その興味の対象と重なるものを増やしていく。そのうちに、不安なときに小さな世界に逃げ込むばかりだった子どもが、自らの世界を広げていくために好きなものを開拓していくようになる日が来るかもしれませんね。