長男が難病宣告された日。絶望の中で出会った言葉が今も私を支えてくれる
初めて双子の母になった私。幸せをかみしめていたけれど
8年前のクリスマスイブ、我が家の双子は産声をあげました。か細い声で泣く次男とは対照的に、長男は振り絞るような大声で泣いたことを覚えています。
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思っていたよりも小さく生まれてしまったので、双子はそのまま保育器に入ることになりました。私はおもちゃのように小さな双子の手を握りながら、他には何も望まない、ただ元気に育ってほしい――そのことだけを強く念じました。
生まれた時にか細い声で泣いていた次男は、搾乳したお乳を飲んでどんどん体重が増えていきます。けれど、同じように飲んでも長男はなかなか大きくなりませんでした。
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結局、次男は私と一緒に退院できましたが、長男は一人残され、病院の保育器で過ごさなくてはなりませんでした。
明日が退院という日。長男の体に異変が
「体重が増えてきたから、明後日には退院できますよ!」
2週間が経ち先生と看護師さんにそう言われた時、どれほど嬉しかったことでしょう。
やっと一緒に帰れるんだ!不安が募っていた私の心は浮き足立ちました。
けれど翌日病院に行くと、いつものベッドに長男の姿はありませんでした。
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不審に思っていると、看護師さんから診察室に入るように促されました。
診察室の中で、先生はどこか浮かない顔をして言いました。
「昨日の夜に、息子さん変わった色のウンチをしましてね…。念のため今から検査したいと思います。結果は明日お話します」
きっと大丈夫だ、念のための検査なんだ――この時はまだ、私は事態を深刻に受け止めてはいませんでした。私は「わかりました」とうなずいて病室を後にしました。
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検査の結果は重い難病…。告知を受けて、目の前が真っ暗に
翌日のこと。検査結果を聞くために診察室に入った瞬間、私は先生が暗い顔をしていることに気が付きました。先生は1枚のレントゲン写真を私に見せ、辛そうな顔をして言いました。
「この子の体には胆嚢が確認できません。詳しくは大学病院で検査を受けてください。結果によっては早急に手術が必要になります。黄疸もありますし、場合によっては肝臓移植は必要になるかもしれません。」
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医師からそう告げられた瞬間目の前が真っ暗になりました。その後、私は自分がどんな顔をしているのか、どんな風に診察室を出たのかも覚えていません。
ただ待合室の椅子に座り、双子が生まれた時のことを思っていました。元気な体で産んであげられなくてごめんね……そんなことを考えていると、あとからあとから涙がこぼれてきました。
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待合室で涙をぬぐっていた私に声をかけたのは…
しばらくそうしていると、渡り廊下の向こうから見覚えのある看護師さんが歩いてくるのが見えました。双子がお腹にいる間、私はしばらく入院していたのですが、その間お世話になった方でした。看護師さんは私の涙に気付かないふりをして、明るい声で声をかけて下さいました。
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私はハンカチで涙をふきながら、ろくに挨拶もできないでいました。けれど看護師さんは、私が泣いている理由をおおよそ知っている様子で、どこか労わるような目で私の方を見ていました。
『そうか、この人が長男の便の色に気がついたのかもしれない』
そう思った私は「長男の病気を見つけてくださってありがとうございました」と頭をさげました。
看護師さんが気付かせてくれた長男の生命力
すると看護師さんは「違いますよ」と大きな、はっきりした声で言いました。
「お母さん、私たちじゃないですよ」
思わず顔を上げた私に、彼女はこう言ってくれたのです。
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それは完全に打ちひしがれていた私にとって大きな力をくれた言葉でした。
『この子は生命力のある子ですよ。だって最後の最後で自分の体の危険信号を知らせてくれたんだから』彼女の言葉からそんなメッセージが汲み取れたのです。
その時すっと涙がひきました。振り絞るような大声で生まれてきた長男の姿と「生命力」という言葉が重なったからです。
もし長男が退院前のタイミングで便を出さなかったら、私では病気に気付けなかったでしょう。
治療は適切に行われず、現在、命があったかどうかも正直わかりません。
この後、長男は薬が効果的に働いたことで肝臓疾患特有のかゆみが治まり、さらには旺盛な食欲で離乳食をどんどん食べるようになりました。生きるために必死にしがみつき、食べて食べて食べまくり、自分で体を大きくしていったのです。
本当に生命力のある子どもだったのです。
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あの時の言葉があるから、苦しい時も長男の力を信じて進める
今でも長男は毎月検診を受けなくてはならず、自閉症の経過観察で通院しなければなりません。
けれど、あの時看護師さんがくれた言葉は、様々な苦しい場面で私を助けてくれるのです。
うまく意思疎通ができず癇癪をおこす長男に対するとき、私も心が折れそうになります。けれど大丈夫――。
長男は強い子だからきっと運命を変える力がある、そのうち言葉が話せるようになるーそう強く念じました。
今、長男は少しずつ言葉数が増えて、簡単なやりとりができるようになりました。かつて絵本を引き裂き、テーブルをひっくり返して癇癪をおこしていた長男がです。
そんな時私は、絶望を希望へと導いてくれた看護師さんの言葉がどれほど温かいものだったか思い出すのです。ああ、あの時私を救ってくれてありがとう、と。