障害のある子の「親なきあと」ってどうなるの?今からできる対応策から体験談まで紹介します!
障害のある子の「親なきあと」への備えって?
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子どもに発達障害などの障害がある場合、その子の特性をよく理解している保護者が、子どもの生活を全面的に支援しているケースも少なくありません。では、保護者に万が一のことがあり、サポートが難しい状態になった場合、どのようなことが起こるのでしょうか?
保護者がサポートできなくなったときに向けて備えておくべきこととして、大きくは次の3つがあげられます。
・支援者への備えー障害特性を理解し、サポートできる人はいるのか
・生活費への備えーお金の管理はどうするのか
・居場所への備えーどこに住むのか、どこで働くのか
この記事では、自立に向けた準備、障害年金などの経済的支援、財産を子どもが適切に受け取るための方法、成年後見制度など、親が元気なうちに準備しておきたいことを紹介していきます。
親なきあと、「支援者」への備え
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親が元気なうちは、子どもの障害特性の一番の理解者として生活を全面的にサポートしたり、学校や社会との橋渡し役をすることもできます。
しかし、親に万が一のことがあった場合に備えておかなくてはいけません。子どもの特性を踏まえつつ、子どもの自立を見据えた準備をしていく必要があります。
少しずつ、自立に向けた力をつけていくことが大切です。ここでは、子どもの自立に向けた取り組みをしているご家庭の体験談をいくつか紹介します。
発達障害のある子どもをもつシングルマザーの多原美加さんは、親なきあとに備えてのこしたいものとして、人に相談する力、頼りになる支援者、子どもたち一人ひとりにむけたメッセージ、自分を認めて生き抜く力の4つをあげています。
kaoruさんは、ある講演会で聞いた「重度の自閉症児でも、教えればたいていの家事はできるようになる」という言葉をきっかけに、家庭で生活力アップのための取り組みをはじめ、少しずつ「困難を自分で解決する力」を身につけられた体験記を書いています。その子の特性に合わせて、生活力を上げるための実践を日々の生活から意識すること、親子で楽しみながら実践を積み重ねていくことの大切さが学べます。
のこされた子どもがスムーズに支援を受けられるよう、次の支援者に向けて子どもの特性理解のために必要な情報を伝える準備をすることも大切です。
子どもの特性や健康状態、支援に関する希望などを書きのこしておくことは、子どもだけでなく、親なきあとにサポートをする人にとっても助けになります。その際、助けになる本やツールを紹介します。
■『精神障害をもつ人のための親なき後に備える』
認定NPO法人地域精神保健福祉機構が制作した、親なきあとに備えたい保護者向けの本です。親なきあと対策の、入門書的な位置づけとなります。
実際に、親なきあとにのこされた子どもや、準備を始めている保護者の体験談、今から備えるべきこと、家族での話し合いに役立つ項目リストなどが掲載されています。
■「親心の記録」
一般社団法人日本相続知財センター制作の「親心の記録」は、支援者に対して、子どもについての情報を過不足なく伝えるために作成されたものです。
障害福祉サービス受給者証の番号や利用している医療機関や施設など、支援を受けるために必要な情報から、本人の特性まで記録できます。次の支援者への情報伝達にこのような冊子を活用して書き残しておくことも、ひとつの方法となります。
※「親心の記録」は団体向けに寄贈されています。個人で希望する方は、下記HPよりお問い合わせください。
https://yukari-tokyo.jp/about-us/parent/oyagokoro-no-kiroku/
参考:「親心の記録」について・お申し込み|日本相続知財センターHP
成年後見制度とは2000年4月より開始した制度で、知的障害や発達障害を含む精神障害などにより、判断能力が十分でない人の法律行為を支援する制度のことをいいます。対象となる法律行為とは、銀行の手続きや遺産分割、不動産の売却などです。
成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任し既に判断能力が低下している人に対して支援する法定後見制度と、あらかじめ本人が任意後見人を選び近い将来に備え支援者と支援内容を決めておく任意後見制度があります。
後見人には本人の親族や、弁護士や司法書士、社会福祉士などの第三者や、福祉関係の公益法人が選ばれることがあります。成年後見制度については、以下の記事をご覧ください。
http://www.moj.go.jp/content/001130908.pdf
参考:いざという時に 知って安心成年後見制度 成年後見登記|法務省HP
親なきあと、「生活費」への備え
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親なきあとの経済面での準備としてまずは、どのような支援制度があり、利用するためにはどのような準備をしておくとよいのかについて知ることが大切です。まずは、受け取れるお金について整理してみましょう。
■障害年金
障害年金とは、病気やケガなどの障害により生活や仕事が制限されている方が受け取れる年金のことで、国から委託を受けている日本年金機構により運営されている制度です。
通常、障害年金を受ける条件は、その障害の原因となった病気やけがについて初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、国民年金あるいは厚生年金に加入していることです。
初診日に国民年金に加入していた方は障害基礎年金、厚生年金に加入していた方は障害厚生年金が受け取ることができます。
初診日が年金加入前の20歳未満の場合は、障害基礎年金を成人後に受け取ることができます。その場合、障害年金の申請や受給は成人してから可能になります。申請書類に、どの病院でどのような治療を行ったかなどの病状の経過を書いた書類や、幼少期からの成育歴を踏まえた診断書が必要になります。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
■自立支援医療(精神通院医療)
自立支援医療(精神通院医療)とは、知的障害、発達障害を含む精神障害がある方で、かつ、通院による継続的な治療が必要な場合、その通院医療にかかわる医療費負担が原則1割になる制度です。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
自立支援医療には、精神通院医療を対象にしたもののほか、身体障害がある人を対象にした自立支援医療(更生医療)、身体障害がある児童を対象にした自立支援医療(育成医療)もあります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html
参考:自立支援医療|厚生労働省HP
なお、障害者手帳を所持していると、税金の控除のほか、公営住宅の優先入居、公共施設利用料の減免などが受けられる場合があります。
自治体によっても受けられる支援は異なるので、お住まいの地域にどのような制度があるかを知っておくことは、親なきあとに向けての備えとして大切です。
障害者手帳についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
もらえるお金や、出ていくお金を減らす仕組みの次に考えておきたいのはお金ののこし方です。
■お金を渡す仕組み
障害のある子を持つ保護者に知っておいて欲しいものの一つに、信託と呼ばれる制度があります。信託とは、自身の財産を人や機関に託し、自分または他人のために管理・運用してもらう制度です。
信託の中に、特定贈与信託という制度があります。これは、特別障害者(重度の心身障害者)や特定障害者(中軽度の知的障がい者および障害等級2級、3級の精神障害者など)の親なきあとの生活を支援するための信託制度です。
この制度を利用すると、最大6,000万円まで贈与税が非課税となったり、定期的にお金を給付できるため、子どもの生活が安定するというメリットがあります。
信託制度についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
■お金をどう作るか
預貯金のほか、生命保険の死亡保障などに加入しておくと、親なきあとへの備えとなるかもしれません。
また、発達ナビで実施した保護者向けアンケートからは、預貯金や保険のほか、確定拠出年金を利用したり、投資信託などで資産を殖やしている方もいることが分かりました。
親なきあと、「居場所」への備え
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まずは、親なきあとの子どもの居場所にはどのような場所があるのか、どのようなサービスが受けられるのかについて紹介します。
一人暮らしや親族・きょうだいの家の他にも、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一部として、精神障害者居宅介護等制度(ホームヘルプサービス)、施設入所支援、共同生活援助(グループホーム)、短期入所(ショートステイ)などがあります。その他のサービスや詳しい情報については以下の記事をご参照ください。
障害のある人の場合、一般企業で働くことも考えられますが、障害者向けの就労支援のサービスを利用することもできます。
ここでは就労支援サービスの代表的なものとして、就労移行支援事業所、就労継続支援、地域障害者職業センター障害者就業・生活支援センターを紹介します。
就労移行支援とは、障害がある方の就労をサポートする障害福祉サービスです。就労を希望している障害・難病がある方に対して、働くために必要な知識・能力を身につけるトレーニングや、その人に合った職場探しのサポート、就労後の職場定着までのアフターケアを行います。
企業などでの就労または開業を希望する方で、就労が可能であると見込まれる65歳未満の方が対象です。利用期間は原則2年です。
■就労継続支援
一般企業等への就職ではなく、就労継続支援を利用して事業所で働くという選択肢もあります。就労継続支援には、A型と、B型があります。
■地域障害者職業センター
各都道府県に設置されています。障害者の就労を支援するために、ハローワークや病院、福祉施設などの関係機関との連携を行いながら、地域に密着した職業リハビリテーションを行う施設です。
具体的には、職業能力などの評価や支援計画の作成、就職活動の相談、短期間の作業体験や事業所見学などが行われます。
■障害者就業・生活支援センター
就業や、それに伴う日常生活上の支援を必要とする障害者を対象に、相談や職場・家庭訪問などを行い支援する機関です。
就労支援の面では就職に向けた準備支援や、求職活動支援、職場定着支援から関係機関との連絡調整などをし、生活支援の面では生活習慣の形成、健康管理、金銭管理などの日常生活の自己管理に関する助言、関係機関との連絡調整などをします。
福祉施設利用者や特別支援学校卒業者などのケース別の支援の流れは以下のページをご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha02/pdf/16.pdf
参考:障害者が就職・定着するまでの標準的な支援|厚生労働省HP
また、ジョブコーチ支援実施機関や、その他の就労支援サービスについては以下の記事をご参照ください。
いざという時の頼みの綱
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生活保護制度とは、資産や能力など全てを活用しても生活が困難な方を対象としたもので、健康で文化的な最低限度の生活ができるような保護を行い、自立を奨励する制度のことです。
障害の程度にもよりますが、精神障害のある方が生活保護を受給した場合、受給費に加算される可能性があります(障害者加算)。加算額は、現在住んでいる場所と障害の程度で決められます。
親なきあと、支援の網の目からこぼれ落ちないために
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何から始めたらいいのか分からないという場合、まずは、さまざまな情報が入ってくるように、また何かあった時に助けてもらえるように、人や機関とのつながりをつくることからはじめてみましょう。
発達ナビライターの立石美津子さんは以下のコラムで、支援は受け身ではなく自発的に求めないといけないと書いています。どのような支援制度が受けられるのか自発的に調べることや、ママ友や当事者会などの助け合いの場とつながることの大切さについて発信しています。
支援制度も法律も変化していくため、一人で最新情報を追っていくのは結構大変なものです。ママ友や当事者会などさまざまな人や機関とつながることで、保護者だけでなく本人の負担を減らしていくことにもなります。
まとめ
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10254011903
親なきあとの備えとして、まずは将来に向けて、どんな制度やサービスがあるのか知ることから始めましょう。そして、少しずつ第三者の支援を受けられる体制をつくり、お子さんが社会と触れ合う機会を増やしていきましょう。
子どもが社会から孤立してしまわないように、一歩一歩、親なきあとへの準備を進めることが大切です。https://www.miwapubl.com/products/detail.php?product_id=1609
参考文献:山根俊恵(2014)/著「障害者の親なき後の課題と支援について」『地域リハビリテーション』第9巻第5号三輪書店/刊
https://www.miwapubl.com/products/detail.php?product_id=1609
参考文献:平野方紹(2014)/著「親なき後の生活の実態をどうとらえるのかー障害者実態調査から見えてくるもの」『地域リハビリテーション』第9巻第5号三輪書店/刊