ひとりで奮闘する発達障害児のママたちへ。同じ思いを抱える親だからできるペアレントメンターのサポートとは
ペアレントメンターを知っていますか?
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ペアレントメンターは、発達障害のある子どもを育てる保護者に寄り添う形で保護者支援の一端を担います。
メンターの役割を担うのは私のような、発達障害のある子の育児経験がある保護者です。同じような保護者に対して共感的なサポートを行ったり、地域で受けられる支援や施設などについての情報をストックし、必要に応じて提供することができます。
専門の支援者とはまた違う、ピアな(同じような)立場からの寄り添いです。
発達障害のある子を育てる保護者にとって、同じ立場で話せる人がいるということがどれだけ自分の支えになるのかを感じる経験が私にもありました。
孤独な発達障害児の子育てが辛かった、かつての私
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ADHDのある次男が診断を受けたのは3年生のころ。毎日のように学校からかかってくる電話、頻発する問題行動、家での育てづらさ…
どう対応していいかもわからないまま学校の先生に相談してもめどが立たない日々が続くなか、同じように困っているママ友が周りにいるわけでもなく、誰にも話せず、自分がこの世の中で一番辛いような、どん底にいるような気持ちだったのを覚えています。
あちこちに相談してやっとの思いでたどり着いた病院の先生、他校の通級指導教室に通うことになった先で出会った通級の先生、同じ学校のお母さんが紹介してくれた親の会、発達障害をキーワードに知り合ったTwitterの友人たち…
少しずつですが、次男のことを相談できる相手、愚痴をこぼせる先が増えていきました。
診断を受けてからも次男を育てていく大変さは簡単には減りませんでしたが、「発達障害とはどんなものか」を知ったうえでお話ができる相手が少しずつ増えるにつれ、自分の抱えている荷物が少しずつ軽くなっていったような気がします。「そうそう」「あるあるだよね」「うちはこんなだったよ」「お互い大変だねえ」…
そんな自分のしんどさを共有できる人がいることで「自分だけじゃないんだ」「仲間がいるんだ」と心強く感じました。
ペアレントメンターという言葉との出合い
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私がペアレントメンターという言葉に出合ったのは、3年ほど前のこと。
友人から教えてもらった講演会の情報を調べようと大分県の発達障害者支援センターのサイトを開いたときに、メンターの養成研修が行われているのを知りました。
自分が発達障害児の親として生活するなかで、保護者の負担や不安に思うことへのサポートの手薄さを痛感する日々。そんなしんどさを親の会などを通して出会った先輩母さんたちに話しては、勇気をもらってもいました。
「この制度を利用したら私にも何かできることがあるんじゃないか」
「先輩母さんたちにやってもらってきたことの恩返しができるんじゃないか」
興味を持ったものの、当時はまだ末っ子が小学校に入学する前でもあり、また問題行動の多い次男のサポートにも手がかかっていた時期。
研修に全て参加するための時間を捻出することは今の私にはとても無理だ…と諦めて応募は見送りました。
思い切って申し込んだ養成研修
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気になりつつ踏み出せずにいた2017年の春先、所属している親の会を通してメンター募集の案内が来ました。
いろいろなサポートのおかげで当時6年生の次男の状態がだいぶ落ち着いていたこと、また次男の中学進学を前に自分の知識や情報を増やしたい、もっといろんな人に会いたい、と思っていた矢先だったこともあり、「今しかない!」と夫や実家の家族にサポートを頼んで応募しました。
養成研修は朝から夕方まで丸1日の研修が月1回程度のペースで組まれており、修了証を頂くためには全5回の研修を全て受けなければならない仕組みになっています。研修のなかではペアレントメンターとしての活動の基本から始まり、ピアの立場からの寄り添い方、お話の聴き方、相手を侵害しないよう気をつけながらお話を進めるスキルなど、相談を受けたときにお話を聴く手法、いわゆる「傾聴」の研修に多くの時間が割かれました。
私も含め、同期の皆さんが難しさを痛感したのがそのなかの傾聴のロールプレイ(役割を決めて演技をする研修)です。
3人1組で「相談者・メンター・観察者」に分かれて、それぞれの役割を演じます。
「相談者は何歳の自閉症と診断された子を持つこういうことに困っている保護者」という設定が決まっている回もあり、また設定は特に決められず自分で考えながら演じる回もありました。
相談者を演じ、流した涙
相談者役になったとき、なんとなく設定を決めつつ話の流れで結局、その当時本当に困っていた次男についての悩みを話しました。
メンター役の同期の方が私の話に相槌を打ちながら、ゆっくり聴いてくれます。ところどころに同じ親として自分のときはこうだった、こう思った、と体験談を挟みながら、こちらの言葉を遮ることなく5分の制限時間の間、ただただ私の話を聴いてくれました。
研修のなかのロールプレイングだと分かっていたはずなのに、気づいたらボロボロと涙がこぼれていました。
私につられてメンター役のお母さんも観察者さんももらい泣き、終了の合図を受けて周囲を見回すとあちこちのグループで涙を拭きながら笑い合う参加者の姿がありました。
たった5分間、ただただ自分の話をしただけなのに、なんの結論も解決策もなかったのに、自分の中で何か整ったような、落ち着いたような、そんな不思議な気持ちになったのを覚えています。
「これが、傾聴してもらうということなのかな」
研修を終えて自宅に帰る車内で、ぼんやりと、何かが見えてきたような気がしました。
ペアレントメンターとして話を聴くだけで
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研修を終えて修了証を手にしたのは昨年の11月。そこから私の生活はペアレントメンターとして一変…したわけではありません。
大分県ではペアレントメンターとしての活動は原則として親の会を通してに限られています。そのため、私がメンターとしてできるのは所属している親の会の勉強会や座談会のなかでお話を聴いたり、そこで個別に相談を持ちかけられたらお話をしたりする程度です。
日常のなか、例えば小学校や次男の通いはじめた中学校などで「私はペアレントメンターです」と宣言して何かをしたり、肩書きを書いた名刺を配るようなことも今のところはありません。
親の会のなかでメンターとしてできるのは具体的な解決策の提示ではなく、主にただ、お話を聴くだけです。
それでも「話してスッキリした」「聴いてもらえて整理できた」「元気が出た、がんばれる」と言ってもらえたり、その時間を糧に次のステップに踏み出していくお母さんたちに、逆に私が元気をもらっているような気がすることもよくあります。
ペアレントメンターとしての、これから
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大分県ではまだ大きな枠組みの中でペアレントメンターをどう活用していくか、という仕組みはありません(地域によっては自治体や大学が連携しての活動があるところもあるようです)。
そんな状況なので、私自身もペアレントメンターとして特別な活動が増えているわけではありません。
ただ、研修を終えてから何となく自分の周りが変わりはじめたのを感じています。
研修で培ったゆっくりと話を聴くスキルが日常の中のいろんな場面で活かせるようになってきました。親の会とは離れたところでも発達障害のある子を育てる保護者や、もしかしたらそうかもしれないという不安を抱える方を紹介されてお話をしたりする機会も増えてきています。
昨年度は所属する親の会とは別に、次男と同じような年齢層の子を持つ保護者で話す場をつくろうという流れになり、そのために奔走したり、支援者や教員など多業種で集まる勉強会へのお誘いもうけ、いろいろな活動の場が広がりつつあります。
8月にはイシゲスズコとして個人的に、当事者や保護者の話す場としてのサロンを大分市で開催する予定です。
私は、支援者ではありません。困っている人を救ったり、必要な支援を与える立場ではない、とお会いする方々とお話をしながらいつも感じています。
私がケアをしているというより、お話を聴かせてもらうことを通して共に学び、共に慰め合い励まし合い、共に支え合っている、そんな感覚です。
ペアレントメンターの研修とそれを経て培ったスキルを元にして仲間に出会い、助け合う場をつくっていっている。
私にとってペアレントメンターとは、そんな横の繋がりづくりのきっかけの一つのような気がしています。
ペアレントメンターの養成や活用方法はまだまだ未整備な部分が多く、また自治体によってもあり方が大きく異なっているようです。
お住まいの地域でどんな形での養成や運用がなされているかは、日本ペアレントメンター研究会のサイトから一部調べることができます。
まだまだ過渡期です。これからどんな風に広がりを見せ、またどんな風に運用されていくのか私にもわからない部分が多いですが、少しずつ周知されていくことでメンターの存在が知られ、声をかけてくれる保護者の方が増えていくといいなぁ、孤独のなかで苦しむ保護者さんが減るといいなぁ、と願っています。
https://parentmentor.jp
日本ペアレントメンター研究会