苦しかった「カメラアイ」特性――大人になった娘が模索する、特性とのつきあい方
発達障害の娘についてコラムを書くとき、心がけていること
私はコラムで娘のことを書くときには、内容を娘本人に読んでもらってから完成させるようにしています。そうすることで私の記憶に間違いや思い違いがないかを確認できますし、また、本人の口から当時のことを聞くことで「え?あのときはそんなふうに考えていたの?」と、新たな気付きを得ることもあるからです。
過去の出来事を振り返る作業は、ときには辛いこともありますが、娘の反抗期もある程度落ち着いた今「あぁ、あのときはそうだったよね~」と、笑って話せることも多いです。
そんな娘の「原稿チェック」の様子は…
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娘は一見、私が書いた原稿を最後までしっかり読んでいないように見えることもあるのですが、実際にはそんなことはありません。
娘は幼い頃から「目からの情報」が入りやすい子どもでした。学校では言葉での一斉指示が入りづらく、廊下に気になる掲示物があると立ち止まって見入ってしまうこともしばしばありました。
娘は読書も大好きで、放課後等デイサービスでは休憩も取らず何時間も本を読みふけってしまい、体調を崩してしまったこともあります。年齢とともに読む本のジャンルも広がりましたが、読むスピードも年々速くなっているようで、「ほんとに“読んだ”の?」「“見た”だけじゃないの?」と思うほど、あっという間に読み終えてしまうのです。
娘は数年前にあるワークショップに参加して、認知特性を調べたことがあるのですが、そのときに「視覚優位の“カメラアイ”の特性が強い」「聴覚からの情報を処理することが苦手なタイプ」という結果が出ました。カメラアイとは、視覚優位の中でも物事を「写真」として記憶するタイプのことを指すのですが、これには本人も私も心底納得したものです。
娘にとって「カメラアイ」は、うれしい特性ではない
このカメラアイによって速読することができるため、一見役に立ちそうな特性であり、定型発達の弟にうらやましがられることもあります。でも本人にとっては…
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娘にとっては、カメラアイはそれほどうれしい特性ではないそうです。
娘は、体調を崩したり不安が強くなったりすると「フラッシュバック」を起こすことがあります。これは過去の辛かった出来事や誰かに言われたことなどが、あたかもその場で再び起きているかのように鮮明に思い出される症状で、カメラアイという特性ゆえに起こります。娘はこのフラッシュバックに苦しめられており、その様子は傍から見ていてもとても辛そうです。
娘なりのフラッシュバックとのつき合い方
「フラッシュバックが起きたらコレ!」というような、即効性のある解決方法や特効薬は残念ながらありません。
娘の場合は趣味の絵を描いたり、好みの音楽を聞いたりするなど、自分の好きなことに意識を向けると落ち着くようです。また、現在は「辛い」という事実を専門家や本人が信頼する人に話すことも実践しています。
娘は今年で社会人2年目を迎えます。「大人の世界」では学生時代のようにいじめられたり、心無いことを言われたりすることはありません。それでもこの厄介な特性はいまだに娘を悩ますことがあります。
幸いにも娘は特性に理解がある環境で働くことができています。でもそうはいっても「職場」は物事を教えてくれる「学校」でも、日常生活の困りごとを相談する「相談センター」でもありません。労働に対する対価を得るところです。
この一年でそれを実感した娘は、自分の特性に向き合いつつ、困った時の対処法や相談先を日々模索しています。フラッシュバックへの娘なりの対応も、そのひとつです。
最近では娘が悩みつつも学生時代のように受動的ではなく、自ら障害に関するセミナーに参加したりと、主体性をもって自分の特性について学び、自己理解を深め、解決策の工夫を考えるようになってきたことを私はうれしく感じています。