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自閉症の息子、こだわりの靴を「もう履けない」。自分から卒業できた理由とは…

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「はじめて履いた靴」へのこだわり


『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。

どんなにかわいいわが子であっても、子育てには苦労はつきもの。自閉症など障害のある子の子育ては、その特性からさらに大変なことが多くあります。その一つがこだわりに付き合うことではないでしょうか。

自閉症の息子、こだわりの靴を「もう履けない」。自分から卒業できた理由とは…

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「僕が歩き始めたとき、人生で最初にお母さんが買ってくれた僕の靴。それは10㎝のベージュ色の可愛い靴でした」

何だか歌の歌詞のようですが、そんな淡く美しいものではありませんでした。

「これが靴という物だ」と本人は思ったのでしょう。それを履くことが心地よくなります。
そこまではOKでした。

ところが、毎日これを履いていることで次第にパターン化し、「このデザイン以外の物は僕は受けつけません!」となってしまい、こだわりが誕生しました。息子が、1歳のときのことです。

まさか、はじめて買ってやった靴にここまでこだわることになるとは…買った当時は想像もしていませんでした。

10.5㎝に。足が少し大きくなったけれど…

自閉症の息子、こだわりの靴を「もう履けない」。自分から卒業できた理由とは…

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しばらくの間、10㎝の靴を履かせていましたが、成長と共にきつくなってきました。そこで全く同じ色、デザインの10.5㎝の靴を買ってやりました。ここで私が違うデザインのものを与えていたら、結果は違っていたのかもしれませんが…

たまたま私が同じ靴を続けて買ってしまったことで完全にパターン化し、「この靴でなければならない」となってしまいました。

11㎝の靴を求めて


子どもの足はドンドン大きくなります。
10.5㎝の靴も次第にきつくなりました。そこで、同じ店に買いにいったところ、同じデザインのものはありましたが、11㎝の青色の靴しかありませんでした。

それを買い、家に帰って履かせようとしたところ断固拒否、火のついたように泣き叫びました。

翌日のお出かけのとき、ベージュの靴を見せて「これはもうきつくなったから、今日からははかないの。青いこっちの靴よ」と言い聞かせましたが通じず、暴れて履いてくれません。仕方なくきついベージュの靴を履かせたら機嫌が直り、きつい靴を履いて出かけました。

私はメーカーに問い合わせし、他の靴屋に行き、サイズ違いの11㎝、11.5㎝、12㎝の同じデザインのベージュの色を買い置きしました。

生産終了!さあ、どうする


ところが、息子の足がさらに大きくなり、12㎝ではきつくなりました。
メーカーに問い合わせると、すでに生産は終了したとのこと。

仕方なく、少しでもデザインが似ている色もベージュの物を買いました。ところが、前と同じく断固拒否!

でも、私が頑張ってもないものはなく、その靴を用意することはできません。息子がどんなに暴れても、自傷しても、どうしてやることもできません…。

お気に入りの靴はきつくなってしまっているので、息子はかかと部分を潰し、サンダルのような履き方をするしかなくなってしまいました。

ゴミ箱に捨てた!?


でも、これではやはり歩きづらかったのでしょう。

ある日、ふと台所の生ゴミ用のゴミ箱を開けてみたら…そこに“ベージュの12㎝のこだわりの靴”が捨ててありました。

私が捨てたのでもなく、本人に「捨てなさい」と命じたわけでもありません。
自分で納得して、捨てたのです。

「ああ、自分で自分をやっと納得させたんだな」と思いました。捨てた場所は「生ゴミ」のゴミ箱でしたが、それをとがめることはせず、「履けなくなったから、辛いけど自分で捨てたんだね」と褒めました。

どんなデザインの靴でも受け入れられるように


このことがあってからは、靴に関しては足が大きくなって違うデザインになっても、受け入れてくれるようになりました。

今、振り返ってみると、洋服については衣替えのときは苦労したものの、それ以外は「ボタンが付いているものはダメ」というくらいで「この服でなければ着ない」というこだわりはなく、与えたものをすんなり着ていました。

私は、息子の靴へのこだわりにばかりスポットを当ててしまい、必要以上に悩んでいたのかもしれません。あれだけこだわっていた息子自身、成長する中で折り合いをつけ、どんな靴でも履けるようになりました。

子どもが幼いころには周りが“本人のこだわり”に応じてやり

「お母さんは僕の嫌がることはしない」
「自分に心地よいことを周りが認めてくれる」
「大人は自分を守ってくれる人間である」

このように安全基地を脅かさないことで、幼いころ、安心できる日が続くと大きくなったとき、我慢もできるようになるのだと、今は思っています。


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27.5㎝の靴を見て

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どんな靴でも履けるようになった今…

「僕が歩き始めたとき、人生で最初にお母さんが買ってくれた僕の靴。それは10㎝のベージュ色の可愛い靴でした」

ようやく、はじめての靴は懐かしい思い出となりました。現在、18歳の息子の足のサイズは27.5㎝。大人の男の、少しすっぱい臭いがする靴が玄関に並んでいます。

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