もし担任が「ダメな先生」だったら?わが子の「困った行動」を伝えられた親がすべきこと【明治大学教授・諸富祥彦】
子どもの「困った行動」を伝えられても困る親たち
「〇〇くん、給食のとき、ひとりだけ先に食べ始めてしまうんです」
「〇〇さん、いつも出された宿題をやってこないんです」
発達に課題のある子の親御さん方は、担任の先生からこんなことを言われたことはないでしょうか?給食や宿題に限らずとも、お子さんのなんらかの「困った行動」を指摘された経験はありませんか。
先生としては、学校内での子どもの困った行動を保護者が知らないのはまずいだろう、という判断で言ってくれているはずです。
しかし、言われた保護者は内心、こんなふうに思うかもしれません。
「給食のときに先に食べ始めてしまうって、学校で起きたことでしょ。そんなことを家庭に言われても困る」
「出された宿題をやってこないと言われても……だって、どんな宿題を出されているのかわからないし」
保護者から先生へ、具体的な行動レベルのお願いを
たとえば、出された宿題をやってこないお子さんのケースを考えてみましょう。
中には、口頭で言われただけでは何が宿題に出されたのか理解しづらい、さらに宿題を書いてある板書を書き写すのにも時間がかかる、というお子さんもいるものです。
そんな中学1年生のお子さんをお持ちのある保護者の方は、担任の先生に対して、次のようなお願いをしてうまくいきました。
「うちの子は板書されたものを書き写すのに時間がかかってしまいます。
先生にお願いがあるんですけど……それぞれの教科の先生が出された今日の宿題をまとめて、教室のうしろの黒板に書いていただいて、放課後までそのまま板書を残しておいていただけませんか。子どもには、時間をかけてでも書き写すようにさせますから」
このように具体的な行動レベルのお願いは、保護者から先生に対して有効なやり方です。
たとえば、「うちの子、先生からほめていただいた次の日、すごくやる気になって、宿題をすごく頑張るんです。何かひとつでもほめていただけると、もっと頑張ると思うんですけど……」と「お願い」するのです。
「宿題をしない子」から「毎日宿題をする子」へ
保護者から教師へ、具体的な行動レベルのお願いをしたわけです。これでお子さんは「宿題をしない子」から「毎日宿題をする子」に変わることができました。お子さんの特性については、親御さんのほうが先生よりもわかっているはずです。特に発達障害についての知識は、先生よりも親のほうが豊富という場合がしばしばあります。
親御さんから先生に対して、「うちの子は口頭の指示だけだと理解しづらいんです。なので、こういう工夫をお願いできませんか」と「お願い」してみてください。
学校には「合理的配慮」(障害のある子どもが平等に教育を受けるために、必要かつ適当な変更・調整を行うこと)をする義務があり、教師には配慮する義務があります。保護者からお願いをされたら、(学校生活の中で実現可能な配慮かどうかは検討・相談が必要ですが)断る教師は少ないはずです。
もし①担任に伝えてうまくいかなかったら➡②学年主任➡③特別支援担当➡④教務主任➡⑤校長という順に伝えていきましょう。少なくとも、ひとりは優秀な教員がいるものです。
できる先生とダメな先生の違い
できる教師なら、「子どもがこうすれば理解しやすいんですけど……」と保護者から提案を受けたら(無理ではない提案や要望ならば)快諾してくれることでしょう。
ある先生は、保護者からのリクエストをさらにアレンジして、授業中に板書をする際には、大事なところに傍線を引いてくれるようになりました。
「そこだけ写せばいいからね」と、子どもにこっそり耳打ちしてくれたのです。次第に、この板書のルールを、学年の先生全体でも共有してくれるようになりました。
力があってできる先生は、保護者からの具体的なお願いに協力的です。
「あの保護者は、子どもが学校でうまくいくように力を貸してくれている」とありがたく受け止めます。
一方、ダメな先生ほど、保護者からのリクエストは「めんどくさいもの」「クレーム」と受け止めがちです。
近年は若手の先生が増えています。経験の浅さゆえにお子さんの困りごとに気づかないケースもあります。そんなときこそ、保護者から先生に、先ほどお伝えした「具体的な行動レベルのお願い」をしてみてほしいのです。
子どもの担任がダメ教師だったら?
最後に、「子どもの担任の先生は、ちょっとダメかもしれない」「ちょっと心配だ」と思う保護者の方向けのアドバイスです。
それでも、「担任との関係をあまり壊したくない」という思いがあるのであれば、学年主任や生徒指導主任の先生に相談してみるといいと思います。あるいは、スクールカウンセラーに相談してみるのもいいでしょう。
スクールカウンセラーをしているのは、公認心理師、臨床心理士、精神科医、大学の臨床心理学専攻の教員などです。カウンセリングや心理学に関する専門家です。
現在、公立のすべての小中学校にスクールカウンセラーが配置されています。
子どもたちの悩みを聞くのみならず、保護者と学校の先生をつなぐパイプ役も職務のひとつです。
守秘義務がありますので、相談内容が学校に筒抜けになるということはありません。
どの先生に相談するかを迷ったら、まず第三者的なポジションのスクールカウンセラーに相談し、その中で「どの先生に相談したらよいか」をカウンセラーに相談してみてはいかがでしょうか。
次回は、保護者の方が気になる「先生への要望は、どこまでが正当でどこからが過剰になるの?」という話題について考えていきたいと思います。
【著者プロフィール】
千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。 臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表。 著書に『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『プロカウンセラー諸富祥彦の教師の悩み解決塾』(教育開発研究所)、『孤独の達人』(PHP新書)、『男の子の育て方』『女の子の育て方』(ともにWAVE出版)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)など多数。