テストも校則もない。高等部在学中からインターン―学びながら社会と繋がり、実践的なITスキルを身につける。多様な働き方にマッチする人を育てる「バンタンテックフォードアカデミー」を取材。生徒インタビューも
学びながら社会と繋がり、社会に価値を提供できる人材を育成する
小学校に中学校、高校、そして大学。私たちは随分と長い時間を学校で勉強に費やします。しかし、「学校での勉強が今の仕事でどれくらい役立っていますか?」...と聞かれたら、回答につまってしまうという人も多いのではないでしょうか。
在学中から社会で活躍できる力を育み、繋がる機会も豊富にある――社会に価値を提供できる人材を育てるために開校した「バンタンテックフォードアカデミー」は、6,000人もの在校生を抱えるバンタングループが新しく設立したIT・プログラミング・情報処理を学ぶ企業法人の専門スクールです。
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このスクールは、学校と社会の垣根を取り払い、校則もありません。授業はオンラインでもオフラインでも受けられる。定期テストもない。遅刻や欠席数にも縛られない。
「さまざまな規則で縛ろうとするから合わない生徒が出てきてしまう。環境を整えれば、どんな人にも開かれた場になる」と、同校スクール運営チーフの渡辺氏は言います。
今までになかった学校の形をとる、バンタンテックフォードアカデミー。その大きな特徴をまとめてみましょう。
1つめが“毎日が社会と連携した「プロジェクト型授業」”。既存の学校のような知識詰め込み型ではなく、企業や地方自治体の課題解決などのプロジェクトを通して、コミュニケーション力や企画・マーケティング力を身につけることができます。
2つめが“確実に身につけられる「独自のIT教育」”。企業の新人研修をベースにつくられたカリキュラムの内容は、プログラミングの基礎技術から、webデザイン、スマホアプリ、サーバーなどの最先端のプログラミング技術まで。
それぞれのニーズやペースにあわせて学習が可能です。
3つめが“最先端のITを学ぶ「CEO/CTO特別授業」”。さまざまな業界のトップから直接最先端のIT活用を学び、ビジネス企画のための発想力などを身につけます。また、さまざまな業界のトップの話を聞くことで、将来の目標を見つけることができるというメリットも。
既存の学校にはない、さまざまな特色を持つバンタンテックフォードアカデミーには、中学校を卒業した生徒が通う高等部と高校を卒業した生徒が通う専門部があり、全体で89名の生徒が在籍しています。
既存の学校とは違う自由な学校生活。それは学ぶ人を選ばないということ
バンタンテックフォードアカデミーの強みや生徒への想いなどを、同校スクール運営チーフの渡辺敦司さんにお聞きしました。
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<渡辺敦司さん>
大学を卒業後、穀物の国際貿易に9年間携わり、アメリカ駐在経験もあります。アメリカでITの大切さを感じ、独学でプログラミングを習得。
教育分野に適性を感じ、IT×教育の分野に参入。既存の学校に問題意識を持っていたことも参入の理由のひとつ
――渡辺さん自身はなぜ教育業界に参入されたのですか?
渡辺さん:そもそも私自身、既存の学校や教育に大きな疑問を感じていました。私自身の経験ですが小学校、中学校、高校、そして大学と長い時間勉強をしてきたのに、社会に出たときに役立つスキルが身についていないと気づいたんです。そのときに感じた問題意識がそもそもの始まりだったように思います。
――このスクールの一番の特徴はどんなところでしょうか?
渡辺さん:当校は“世界で一番、社会に近いスクールを創る”というビジョンを掲げているのですが、その言葉の通り、学校と社会の垣根を取り払っています。インターンや業務委託などで、すでに社会と繋がっている生徒もたくさんいますし、会社からの報酬を得ている生徒もいます。一番の特徴は、スクールのなかだけではなく、社会のなかで学び成長する機会を提供しているところです。
――高等部の生徒もインターンなどに行くのでしょうか?
はい、すでに行っている生徒もいます。
また、高等部・専門部という名称はあるものの、授業は高等部も専門部も一緒に行っています。これも社会の環境を意識しているから。仕事をするうえでは、いろんな年齢の人が協働していますよね。だとしたら、スクールも年齢にこだわらずにクラスをつくったほうが良いと考えました。
――どのような生徒が在籍しているのでしょうか?
渡辺さん:入学当初はエンジニアを目指しているという生徒が多いですね。ですが、エンジニアは向き不向きがありますし、入学して学んでみた後に「これは違うかもしれない」と気づく生徒もいるんです。その場合も、他の分野で活躍できるようなサポートをしています。営業職のインターンをしている生徒もいます。
これまではIT業界と呼ばれていましたが、今後ITはすべての業界にまたがる技術になっていくでしょう。ITスキルは、どんな業界であれ自分が望む働き方をするための強みになるはずです。
――生徒にはどのように成長していってほしいですか?
渡辺さん:これからの時代は、既存のレールに乗っているだけでは生き残れないと思っています。自分のスキルを身につけて、それをどうやって社会への価値にするのか。生徒がそういったことを自分で考えて行動できる人になれるように、私たちも全力でサポートしたいです。
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――自由に学べるスクールだともお聞きしました。
渡辺さん:はい。校則もありません。
人に迷惑をかけなければ何をやっても良いと考えています。既存の学校は校内やクラス内での相対評価ですが、当校では、社会にどのような価値を与えているかを大切にしています。具体的にいうとインターン先の評価や実際のプロジェクトでどのような働きをしたかです。また授業もオフラインとオンライン両方で行っていて、自分で好きな方を選ぶことができるんです。生徒は「今日は体調が良くないからオンラインにしよう」などうまく使っていますよ。
――既存の学校とは何もかもが違いますね。
渡辺さん:既存の学校には馴染まなかったという生徒も少なくありません。でも、決してコミュニケーション能力がないとか、いじめを受けていたというわけではないんです。
こだわりがあったり、特性のある生徒もいるとは思います。でも、当校の自由ですべてを自分で選び、スタッフや講師が相対評価をしない環境だと、どの生徒もみんな馴染んでいるように見えます。自由だからこそ、学ぶ人を選ばないということを実現できているのかもしれません。
渡辺さんは生徒ともフランクに接していました。ときには生徒とビジネスやITについて熱く語り合うこともあるといいます。生徒とスタッフの距離が近いところもバンタンテックフォードアカデミーの大きな特徴のひとつ。さまざまな現場で経験を重ねてきたスタッフとの語らいは、生徒にとって大きな学びとなりそうです。
ITに関わる授業はもちろん、さまざまな視点や社会的教養を身につけられる授業も
取材では、吉田理穂講師による「アートシンキング」という授業を2コマ見学させていただきました。アートシンキングは、自分なりの視点を増やすことや、社会的教養を身につけることを目的とした授業なのだそう。どの授業もオンライン・オフライン両方で行われているため、この日も教室で授業を受ける生徒、オンラインで授業を受けている生徒が混在していました。
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1コマ目の授業は、福祉とITのコラボレーションについての講義。吉田講師が自身の働いた経験を元に話しをしたり、日本と海外の対比をしたりとさまざまな視点から福祉について語っていたことが印象的でした。
2コマ目の授業では、短編映画製作に向けての準備が進行。各自が監督、脚本家、役者...など、やりたい役割を挙げ、それをもとにグルーピングを行っていきます。これから先6回ほどの授業とその他の時間を使って短編映画の製作を進めていくそうです。
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授業は講師が一方的に話すのではなく、対話形式で進んでいきます。授業のなかでは「今はどんな時代か?」という疑問が講師から投げかけられ、生徒が答える時間がありました。
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「夢で溢れている」「スキルをつければ評価してもらえる」「やろうと思えばなんでもできる」など、ポジティブな意見が多数。生徒の未来を切り開くパワーを感じることができました。
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また、授業の投影スライドはslackで共有、グループ分けなどもオンラインツールを活用して行われており、生徒は筆記用具を持たず、パソコンを駆使しているのも印象的でした。
生徒にもリスペクトを。いつか一緒に働く仲間になる可能性もあるのだから
授業の終了後、講師の吉田氏にもお話を聞きました。
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<吉田理穂講師>
大学で芸術を学び、卒業後は出版社や広告代理店勤務。その後IT業界に参入。昨年はイタリアやスイスを訪れ、アーティストや技術者を取り巻く社会について考える機会を持った。
――アートシンキングという授業を通じて生徒に伝えたいことはどんなことですか?
吉田講師:私自身、現在も開発会社で働いているのですが、エンジニアと接していると社会課題に対する知識が不足していると感じることがあります。生徒には世の中のことを知ったうえで、自分はどう振る舞うのか、あるいはどのように表現するのかを考えられるようになってほしいと思っています。教養や課題意識がベースにあって、そのうえにITのスキルや知識を積み重ねて社会で活躍してほしいですね。
――生徒と接して感じることはありますか?
吉田講師:“一歩踏み出している生徒”が多いと感じています。自分の道を15歳で決めて、地方から東京に出てきて一人暮らしをしている生徒もいます。自分が中学・高校に通っていた頃はここの生徒のような生徒はいなかったですね。生徒たちはみんな熱い思いを持っているのでそれに応えたいと思います。
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――授業で心がけていることはどんなことでしょうか。
吉田講師:自分は中高一貫の進学校で学んでいたのですが、学生だった頃を思い出すと、先生や講師に自分の思いなどを話すことはあまりありませんでした。でも、もっと話す機会があれば良かったなと思うので、生徒との対話はとても大切にしています。私の授業自体は週一回ですが、slackなどオンラインで対話の時間を設けることもあるんです。授業はきっかけであって、授業以外の対話も同様に大切に思っています。
――生徒と関わるうえでの今後の抱負をお願いします。
吉田講師:みんなきっとIT領域に近いところで働くのだろうなと思います。将来一緒に仕事をするかもしれないですよね。講師と生徒というよりも、後輩を育成するようなつもりで生徒と関わっていきたいです。職場でもそうですが、一緒に働く仲間とは互いにリスペクトしあっています。それと同じように生徒に対してもリスペクトを持って成長を後押ししていきたいです。
決して一方的ではない、対話形式授業を進めていた吉田講師の「アートシンキング」。授業中だけではなく、常日頃から生徒との対話を大切にすることで、生徒はさまざまな視点を増やし、社会で活躍するスキルの土台を培っているようでした。
これからは一般的なレールに乗れなかった人や、既存の学校に馴染めなかった人たちが活躍する時代
最後にお話を伺ったのは、高等部の出島璃空(りく)さん、専門部の上野杏奈(あんな)さんです。
――このスクールを選んだ理由を教えてください。
出島さん:普通の高校に進学することも考えて受験勉強をしていました。いろいろな学校を見たり、自分のやりたいことを考え始めたときにITと出会ったんです。しっかりとしたスキルを持てればフリーランスやノマドワーカーなど、自由な働き方ができるんじゃないかと思いました。いろいろな企業とも繋がれることに魅力を感じて、バンタンテックフォードアカデミーを選びました。
上野さん:私には発達障害者の方の支援をしたいという夢があります。私自身、感覚の過敏さがあったりと、生活の上で大変だと感じる場面があります。特性がある人たちのために何かできることはないか、コミュニケーションが得意でない私でも役立てることはないか――そう考えた時、ITスキルを身につけることが近道になるのではないかと思い至ったのです。
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――このスクールで成長したのはどんなところですか?
出島さん:プログラミングの話を友達とできるようになったことです。また文化祭ではサイト製作の責任者を任され、責任感がついたと思います。
上野さん:プログラミング技術の向上はもちろんなのですが、自分を客観的に見られるようになったことも大きいです。まわりとのディスカッションで授業が進むことも多いので、考えを発言するために自分を見つめ直したりする機会が多かったからだと思います。「アートシンキング」の授業では社会のなかのいろいろな考え方を学んでいるので、自分自身に対する考え方も変わりました。
――今後の目標を教えてください。
出島さん:インターンでもまだ即戦力にはなれていないので、1日も早く即戦力になれるように頑張って、実績をたくさんつくりたいです。いろいろな企業でインターンをしたり、たくさんの業界の人と出会いながら、自分のやりたいことを定めていければいいなと思っています。
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上野さん:どこに行っても通用する技術を身につけたいです。今考えている企画もあるので、それを成功させたいとも考えています。卒業後は就職しようと思っているので、その段階で「ぜひ来てほしい」と言われるような人材になることが在学中の大きな目標です。発達障害の方が生きやすい社会をつくるというのが一番の夢なので、それを叶えるためにも道なき道を進んで新しい挑戦をしていきたいです。
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バンタンテックフォードアカデミーは、“世界で一番、社会に近いスクールを創る”という言葉の通り、既存の学校とは全く違う、新しい可能性を秘めた学校でした。「自由だからこそ、学ぶ人を選ばない」というスクール運営チーフ・渡辺さんの言葉が多くのことを物語っているように思います。
渡辺さんの言葉にはこんな続きがありました。
「これからは企業の終身雇用などもなくなり、新しい働き方が主流になります。これまでの一般的なレールがなくなるわけですから、そこに乗れなかった特性のある人たちや既存の学校に馴染めなかった人たちが活躍できる時代がくるということなのではないでしょうか」
バンタンテックフォードアカデミーのスタッフの皆さん、そして生徒の皆さんはどんな未来を描くのでしょうか。今後の活躍が楽しみです。