精神科医が、学校の「中の人」に!スクールカウンセラーとして現場で気づいた3つのコト【児童精神科医 三木崇弘先生】
仕事での学校との出会い
僕が最初に「学校」というものに触れたのは、児童精神科医として勤務しはじめてすぐのころでした。
当たり前ですが、発達障害や不登校の子どもは学校でも困ったことが発生します。ですから、患者さんが先生方やスクールカウンセラーと一緒に外来を受診することもありました。ところが、僕が小学校を卒業したのはその時点で20年以上前です。外来で話を聞いても「この子が困っている学校って、そもそもどんな場所だったっけな…」とあまりうまく想像ができませんでした。
そこで「現場では実際にどう困っているのか」に興味が湧き、折に触れて「学校に行ってみたいです」という話をしていました。
学校から仕事が来た
そんなことをあちこちで言っていると、少しずつですが学校から仕事の依頼を頂くようになりました。教員向けの研修講師や、ケースのコンサルティング(困っている子どもの様子を観察して教員にアドバイスする仕事)です。
そうやって少しだけ学校に出入りするようになった僕は、そこで3つのことを感じました。
1 先生たちは納得していない
2 自分で見ないと分からないことがある
3 やっぱり学校は良い場所だ
学校で仕事をして気づいたこと
研修では一般的な話もしますし、質問があった場合には具体的なケースの対応策などもお話しします。
熱意があって前向きな先生は一生懸命聞いてくださるのですが、全体研修ではそんな先生ばかりではありません。うしろのほうで眠そうにしているベテランの先生や、明らかに興味のなさそうな管理職の先生もおられました。
僕が国立病院の医師として「外部講師」に招かれ、話をしている限り、研修を受けても意識は変わらないんだろうなと思いました。その場では「貴重なお話をありがとうございました」とお礼を言ってくださっても、職員室では「あんなことできるわけない」と話しているのではないかと。
そこで僕は「外の人」ではなく「中の人」になればいいんじゃないかと思ったのです。先生方がなぜ興味が持てないのか、なぜ納得できないのか、どうすればできるようになるのか。
僕が外から偉そうなことを言ってるだけではだめなのではないかと。
学校の様子は、診療中には子ども本人や保護者の方から伺います。しかし、見たことのないものは想像することができません。
先ほども書きましたが、僕が自分の学校に行っていたのは20年前の話で、しかもいま働いている場所ではありません。時代も地域も違う学校のことを想像するのは難しい。実際に見てみた学校では「授業中立ち歩くってこういうことか」「この位置関係だと先生が個別に指示するのは難しいな」など、現場を見るからこそ気づくこともたくさんありました。
僕が学校に行ってみた一番の感想は「学校は良いところだ」です。
たくさんの子どもたちが生活を紡いでいて、彼らの成長を願っている大人たちが一生懸命に働いている。
一見つまらなく感じるかもしれないような、小さなこと一つひとつを大人と子どもがお互いの視点から悩み、より良い人生になることを願っている。
こういう「素敵な祈り」がある場所に、もっと触れていたいなと感じました。
学校の「中の人」になりたい
そんなエピソードもあり、僕は学校の「中の人」になる方法はないかと考えました。
そうやって悶々としていたある日、友達のスクールカウンセラーから「精神科医はスクールカウンセラー採用試験の受験資格あるよ」という話を聞きました。なぜ採用対象に医師が入っているのかは謎でしたが、一も二もなく採用試験に申し込み、無事に東京都教育委員会に採用されました。
中の人になってみて思うのは、やはり現場を知らずにコメントをしても実効的ではないということ。
そとからの「こうあるべき」と学校現場がマッチしないことはしばしばありますし、全体の流れの中でしか分からないこともあります。
定期的に見ているからこそ分かることや、先生たちの考え方、思い、できることとできないこと。
教育行政のカタさや、一方でどういう方法ならその難しさをクリアできるのかなど、新しい学びがたくさんあります。
(詳しくは次回以降で触れられればと思います)
また、実際に働いてみると学校現場は楽しく、生き生きとしたものだと感じています。
(ただ、子どもたちのエネルギーを浴びてものすごく疲れますが…笑)
※厳密にはスクールカウンセラーは「学校の中の人」ではない立ち位置なのですが、僕的には「中の人=学校で定期的に働いてる人」でいいかな、という整理です。
とにかく学校はいい!
しつこいようですが、学校というのは本当に素敵な場所です。たくさんの大人が、たくさんの子どもの成長と幸せを願っています。
(保護者の方によってはそうは思えないこともあると思いますが、基本的には学校関係者は善良で前向きな方が圧倒的に多いと思います)
そういう場に身を置くことによって、また僕自身も子どもたちの未来に思いを馳せられる。誰かの暮らしの中で働くと、こういう楽しみがあるのだなと感じています。