脱水と栄養不足で途中離脱した宿泊学習―ー感覚過敏の僕が具合が悪くなったワケと、必要だった対策【感覚過敏な15歳社長】
小学5年生の宿泊学習は途中離脱
こんにちは。加藤路瑛です。僕自身、感覚過敏の特性があることから13歳のときに「感覚過敏研究所」を立ち上げ、感覚過敏の課題解決に取り組んでいます。当事者目線、特に子どもの視点で感覚過敏について話していきたいと思います。
感覚過敏があると修学旅行でどんな困ったことが起きるのか、またどんな対策ができるのかを、僕の経験を通してお伝えします。
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小学4年生のとき、学校で宿泊学習があり、2泊3日で山に行きました。それほど高い山ではありませんでしたが、2日間とも山の中をトレッキングしました。
僕は味覚過敏や嗅覚過敏があり、食べられるものが限られています。
給食もほとんど食べられません。ですから、宿泊先のご飯は食べられるものがないだろうと不安でした。
1日目のお昼は家から弁当を持って行き、夜から宿泊先の食事になります。もちろん事前に、親と担任も食事の件は話し合っていました。「無理に食べなくていいので、食べられるものがあれば」という感じだったので、それなら食べられなくても怒られないし、大丈夫だろうと考えていました。
1日目の夜ごはん、2日目の朝ごはん、お昼ごはん……食べられるものがありませんでした。白米だったら食べられるのですが、混ぜごはんだったので主食も食べることができませんでした。
問題は飲み物でした。
1日目は家で水筒に水を入れていきました。2日目は、宿泊先で生徒全員の水筒に麦茶を入れてくれました。ですが僕は、麦茶は飲めません。ホテルを出てトレッキングしているときに、喉が渇いて水筒の水を飲もうとしたら…麦茶だということに気がつきました。
1日目の夜、2日目の朝と昼も夜も、僕は何も食べられませんでした。そして、トレッキング中は水筒に入っている麦茶も飲めず水分補給ができませんでした。
僕は栄養不足と脱水で気持ち悪くなり、動けなくなりました。保健の先生と相談し、親に迎えに来てもらうことになりました。
夜、おそらく22時くらいだったと思いますが、両親が車で迎えに来てくれました。とてもほっとした記憶があります。車にのったら、僕が食べられるおにぎりや飲み物やお菓子がたくさん買ってありました。僕は夢中で食べました。とても美味しく感じました。
水分もとれて元気になりました。途中で父が車を止めて、家族で外に出ました。見上げると、星がいっぱいキラキラ光っていて、こんなに空には星があるのだとびっくりしました。
そして、父が「よくがんばった」と頭をなででくれました。
小学6年生の修学旅行。去年の反省を活かそう!
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10282003537
小学6年生の修学旅行では、日光に2泊3日で行きました。もちろん、僕の心配事は食べ物についてでした。小学6年生のときの先生は、事前に親に連絡してきてくれました。母から聞いた内容は以下のような感じです。
「5年生のときの宿泊学習の件、聞きました。まず、飲み物ですが、水が飲めるということなので、必要な分だけペットボトルを持たせてください。重いと思うので私が代わりに持ちます。
次に食べ物ですが、食べられるパンを持たせてください。おなかが空いて困ることがあれば、教職員の部屋で食べられるようにします。」
話を聞いて、こんなことができるんだ!とびっくりしました。この担任の先生は、以前、給食が食べられない僕に弁当持参を提案してくださったこともあります。食べられない僕のことを本当に考えてくださる先生でした。
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先生は修学旅行中の食事のメニューをすべて調べて、事前に教えてくれました。それを母が見ながら、「2日目のお弁当の焼きそばなら食べられかも」など、先生と打ち合わせてくれました。
さらに、宿泊先のホテルの料理長と母が電話で話ができるよう取り計らってくれました。
料理長は「お食事がご不安だとお聞きしました。
できるだけ食べられるものをお出ししたい。」と言ってくれたそうです。母は、白米があれば大丈夫なことや、豚肉はしゃぶしゃぶにして、できれば焼肉のタレがあれば食べられることなど、僕が食べられる食材や調理方法を伝えてくれました。料理長の「安心して食事の席につけるようにします」という言葉がとてもうれしかったです。(担任も調理長も神対応です!)
おかげで僕は、小学6年生の修学旅行では、“まったく食べられるものがない”という状況にはなりませんでした。水筒の中身も持参した水を入れて飲むことができました。お菓子も持っていっていたので、非常食のパンを出動させることはありませんでした。ちなみにパンは、チョコチップのついたスティックパンを持って行きました。
こうして2泊3日の修学旅行は、親に迎えにきてもらうこともなく、楽しむことができました。
中学1年生。入学オリエンテーリング。
中学校では、入学式の翌日からオリエンテーリングで宿泊がありました。入学前の説明会で、オリエンテーリングで食事について相談したいと親が学校に言ったところ、「それなら養護教諭が担当します」と保健室の先生が相談にのってくれることになりました。
この時点でも僕も親も感覚過敏という言葉を知りません。
「味に敏感なため食べられるものがあまりありません。飲める飲料も限られているので、脱水にならないか心配です」と言うと、先生は
「それなら栄養補助食品を持参されるのはどうでしょう?お腹が空いたとき、食べていただいて大丈夫です。それから、飲み物はホテルの自動販売機を自由に使って大丈夫です。まだ、担任が決まっておりませんので、決まり次第、担任には伝えておきます」
と1分くらいの相談で解決しました。小学校の時は一大事件みたいな扱いだったのに、中学では、“たいした問題ではない”という感じで、僕はうれしかった記憶があります。
実際、オリエンテーリングでは、食べられなかったら栄養補助食品もあるし、お菓子もあるし、なんなら自販機で飲み物を自由に買えるし、なんとかなりました。
ただ、結局、オリエンテーリングでは体調が悪くなりました。当時は理由がわからなかったのですが、今、感覚過敏という知識を持って振り返れば、聴覚過敏による体調不良ではないかと思います。味覚過敏についての対策はできていたけれど、聴覚過敏についての対策はできていなかったからです。
入学直後のオリエンテーリングだったので、「友達をつくろう、みんなと仲良くなろうと」生徒たちのテンションも高く、騒がしい状態が続いていました。その音の洪水にやられてしまったように思います。
もう宿泊学習は行きたくない。
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感覚過敏が強い人の宿泊学習・修学旅行で気をつけたいこと
中学1年の秋にも宿泊学習がありました。海のフィールドワークというもので、海辺で生物をさがしたり、グループワークをするようなものでした。入学後のオリエンテーリングと同じような感じで、念のため栄養補助食品を持って行きました。飲み物は自動販売機が使えるのも同じでしたので、困ることはありませんでした。
この頃は、教室の騒がしさで体調が悪くなることが多く、保健室に駆け込むことが多いころでした。保健室の先生から「聴覚過敏」という言葉を聞き、自分の体調不良が聴覚過敏からくるものではないかと調べているころでした。
宿泊学習でも、やはり具合が悪くなりました。海でフィールドワークをしているときは問題ないのですが、ホテルの自由時間や食事の時間は、音の洪水で頭が痛くなって、気持ち悪くなるのです。
中学2年の4月。また2泊3日のオリエンテーリングがありました。宿泊学習のあの雑踏にいるような騒がしさを思い出し、「行きたくないな」と思いました。食べるものも限られてしまうので、気持ちが乗りませんでした。
親にオリエンテーリングに行きたくないことを伝えました。オリエンテーリングを欠席することのメリット、デメリットも話し合いました。メリットは、「とりあえず行きたくないので気持ちが安定する」です。話し合った結果、デメリットは「学校での思い出が1つ減ること。オリエンテーリングの話題に入れないこと」だと思いました。僕は、思い出が1つ減ろうが、その会話に入れないことがあろうが、それよりも、宿泊学習に行くストレスの方が高いと思いました。
親には、自分で先生に相談するようにいと言われたので、自分で先生にオリエンテーリングを欠席することを伝えました。1年生の3学期は、オリエンテーリングの班決めや準備の時間もあるので、当日は欠席してもよいが、準備には参加するようにと言われました。自分が行かないと分かっていて、班のメンバーにも伝えている中で、準備に参加するのは多少の罪悪感や面倒臭さがありましたが、オリエンテーリングを欠席することに後悔はありませんでした。これまでの宿泊学習を振り返って思うことは、まず、子ども本人は、感覚過敏のある自分が宿泊学習に行くことによって、どんな困った状況が起きるかについて、想像することが難しいので、親や先生が起こる状況を想定して対策を考えて欲しいということです。
また、「1日、2日くらい我慢すればよい」という考え方も危険だと思います。僕は小学5年生の宿泊学習で、丸1日食事をとれず、トレッキング中に水分を取れなかったことで具合が悪くなりましたが、低血糖や脱水などで生命に関わる可能性もあったのではないかと思います。
家や学校とは違う環境で逃げ場もありません。心配だと思うことは、1つずつ先生と親と生徒で確認していくのがいいと思っています。
そして、修学旅行などは学校行事の中でも大きなイベントです。「思い出のために」「みんなと一緒に」という気持ちを親や先生が子どもに押し付けているかもしれないと、考えてみてもらいたいと思います。小学生時代の僕は「学校行事は参加するもの」と思っていました。休むという選択肢を持っていませんでした。
僕は中学1年の終わりに、「宿泊学習は行かない」という選択をしました。クラスの話題に入れなくなっても、学校の思い出が少なくなったとしても、それでもいいと思えるようになりました。
最後の切り札として「行かない」という選択肢があること、たとえ、一つの行事に参加できなかったとしても、そのことで損なわれるものは思っているほどはないことをみなさんに知っていただきたいです。
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10616005363
小6の時の先生や宿泊先の神対応が素晴らしいですね。
また、必要な支援や取り組みのメリット・デメリットをしっかりと自分で考えられるようになった成長にも目を見張ります。
このように、困っていることを整理して皆で相談できるようになると良いですね。
(監修:児童精神科医 三木 崇弘先生)