成長してる、でもコミュニケーション問題多発…!ASD息子が「人の気持ちを分かる」ようになるためには?【児童精神科医 三木先生に聞いてみた!】
成長に伴い形が変わっていく”コミュニケーションの困りごと”
フリーランスの児童精神科医、三木先生に息子コウを育てる上での迷いや疑問についていろいろとお聞きしました。今回は、コウの成長に伴って起きてきた”コミュニケーションに関する困りごと”について。
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今までは、一方的なコミュニケーションが目立ち、話が通じないと思うとムキになったり冷めてしまったりすることも多かったコウ。そんな彼も、小学校5年生になってからは「落ち着いて会話できるようになった」と言われることが増えてきました。
そんな今だからこそ、コミュニケーションをとる上で浮き彫りになってきた問題や課題もあります。
本人もそのことに対しては少し気にしているようで、「僕は人の意図・気持ち・空気が読めない、察せない」と言うようになりました。
そんなコウに対しては、「まずは“言われていることを聞く。聞かれていることに答える。
”今は、それをしていないことによるトラブルが多いように見えるよ」と伝えています。
学校で教わることの多い「人の気持ちを想像しましょう」「場の状況を理解できるようにしましょう」などの話とは違ってしまいますが、「水泳に例えるなら、みんなは今クロールをしている段階。コウはまだ水に顔をつける段階だから、まわりとは違ってもそこから頑張ろう」と彼には話しています。
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しかし、それでいいのかと迷う気持ちもあり…その部分を三木先生にお聞きしました。
三木先生:「顔を水につけるところからだ」と言う考え方は正しいと思います。人とコミュニケーションを取るのには段階があって、まず最初は「相手を“人という存在”として認識する」ことが必要です。
丸山(以下、――)コウは相手を“人”というより“機能”だと思っていたと思います。以前お母さんは「僕を世話する役割の人」だと思っていたということを言っていました。
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三木先生:「相手の存在を認識して初めて"機能"の背景に“人”がいること、そして、その存在とコミュニケーションを取る必要性を理解することができます。最近のコウくんは、"機能"の背景にある“人”の存在を認識したからこそ、コミュニケーションに行き違いがあることを自ら認識し始めたということですね。
ただ、最終的にたどり着きたい「気持ちを知りましょう」と言うアプローチができるようになるためには、段階があります。
まず何が必要かというと、“相手が言ったことを字面通りに受け止めて、きちっとした場所に打ち返す”ということです。それができていない段階で、「気持ちを知りましょう」と言っても、相手の気持ちを理解しないまま、本人が勝手に相手の気持ちを想像して考えた主観的な返しになってしまうので。
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―――その通りだと思います。1年生のときは友達にも突っ込まれるくらい何でも文字通りに受け止めるコウでしたが、その後周囲が成長して、文字通りではなく言葉の後ろに意味が込められているような会話や、会話の中であえて言ったり言わなかったりするような会話をするようになると、コウもそれを中途半端に取り込み始めました。
周りと同じように「自分のする会話から、相手に意図を汲み取ってもらう」ことを試みようとしてもうまくいかずに「嘘つき」と言われたり、事実を述べていても人の心を引きつけられなかったりと上手くいかずに「何で自分だけ!」となっていました。
先生がおっしゃったようなコミュニケーションの段階を数年かけてやってきた感じです。
三木先生:なるほど。”見聞きしたパーツを、そのまま取り込めてしまったがゆえに起きた”トラブルですね。
学校生活の中でみんなが学んでいる「気持ちを知りましょう」を今のコウがそのまま取り入れるとチグハグなことになってしまいますが、その「気持ちを知りましょう」自体は間違ったことではありません。コウが学校で覚えた誤学習の中には”覚えた内容そのものは間違っていない”ものも多くあります。
それらのように学校でどうしても覚えてしまう「望ましくない学習」に対してどうしたらいいのか、三木先生に伺いました。
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三木先生:最初に学習内容の基本をカチっと入れちゃってもいいと思います。あとはニュアンス調整でやっていければ。
いわゆる「ちゃんと教えてくれる人」を求めていくとカウンセラーとかに頼るしかなくなってくると思うのですが、本来思春期の子は、そういう人から学ぶことは少ないですよね。例えば友達とか先輩とか、顧問とか。
支援も探しつつ、本人の生活上のコミュニティーや人とのネットワークとかをどうやって充実させていくかみたいなところに重点を置いてもいいと思います。
――そのつながりをコウが自力で作るのは難しいかもしれません。
三木先生:コミュニティーやネットワークの利点を本人に一回説明してみるっていうのも手ですけどね。そのほうが自分自身の人生が楽になるから、自分から積極的に働きかけてみるのはどうかな?って。そして、その途中でたぶんトラブルがあるから、そうなったら親でも先生でもまぁ誰でもいいですけど、本人がそのことを相談できるようにして『今回のコミュニケーションのどこに問題があったか』っていうのを都度フィードバックしていくと、コミュニケーションスキルのアップにもなるし、ネットワークの充実にもなるので。
そういうものを自力で獲得する経験を積めるといいですよね。
”自分で学習していき、発展していく力”を獲得すること
三木先生のお話にたびたび出てくる「自分で学習していき、発展していく力」のことを、私も大切な要素だと思っています。今だけではなく、人生これから先もそれがあれば、時間はかかっても大体の物事は解決していくだろうと考えているからです。
その力をこれから得ていけるといいなと望む一方で、道はなかなか険しそうだなとも思っています。
「なぜだろう?どうしたらいいんだろう?」と考える練習中のコウが、今後「自分で学習していき、発展していく力」を獲得していけるようになるために、家庭で行える接し方にはどういうものがあるのでしょうか。
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―――コウはコップに汲んだ水をこぼしたときに「普通に歩いていただけなのに水がこぼれた!」という発想になりがちです。
で、詳しく聞いてみると「水がいっぱいだったから」と言います。今は、そんな彼に『そこまでわかるようになったんだね。なら、もう一歩考えると水をこぼさず運べるようになるんじゃないかな?』と伝えているところです。
三木先生:今の話だと、二言三言「振り返るきっかけ」を与えてあげれば、回りそうな感じはありますね。
―――「どうしてこぼれたの?」と聞かれれば「いっぱいだったから」と答えますし、「どうしたらこぼれなかったと思う?」に対しては「少し減らせばよかった」と考えることはできています。以前だったらこのような会話が成り立たなかったと思うので、今の段階でも成長は感じますが、今後もこのような感じで続けていっていいでしょうか?
三木先生:とりあえずそうですね。もうちょっと進んでいけば、最初の問いを立てるところからやっていけばいいかもしれないですね。
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―――その「問いを立てる」ということが鍵だな…と思います。毎年読書感想文を書くときには、コウの書いた感想に私が「問い」を投げかけて、それにコウが答えたものを最後にまとめていくという方法をとっています。
それも最初は『問いに答えること』まですべて二人三脚だったのですが、今では私の「問い」にコウ自身が答えることができるようになりました。
その次の段階として、先生のおっしゃる「自分で問いを立てる」ということがあるのだなと感じます。
「問いを立てる」ということの掘り下げや、「問いを立てる」ための練習になればと思い、作文や文章作成系のドリルを解くようにしているのですが、何かほかに彼の助けになるようなものはありますか?
「理解していないが作業はできる」と「本質が分かって作業ができる」の両輪を回すことが大切
三木先生:「人のフリを見て」じゃないけど、自分のことを俯瞰で見るのは結構難しいです。だけど、人のことを俯瞰的に見るのは比較的簡単なので、そういった構造の理解を先に進めておくってところですかね。
―――では、ある意味でドリルも「構造を理解するのに役立つ」というところでしょうか?
三木先生:あぁ、そうですね。あとは、“作業として手順を覚えたのでできるようになった”みたいな要素もありますよね。そこは(理解を進めるのと共に)平行してやっておいたほうがいいですね。
「本質が分かっていないけど作業はできる」ということと「本質を理解しながら作業ができる」ってことって全く別のことではなくて、何か分からないけどやっていった中で「あ、つまりこういうことね」という本質に気がつく…みたいなことがあると思うので。
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三木先生:「分かんないからやらなくていいや」とすると、本質への理解が育っていかない。それだけではダメなんですけど、作業自体ができていないと本質にも気づきにくくなってしまうので。作業としてできることを先に進めておくっていうのは、成功体験的にもアリかなと。それを理解ができないからと、やらせないのは本人にとっても「苦手」や「嫌い」につながってしまう可能性もあります。
今回三木先生のお話を伺って、“自分で学習していき、発展していく力”を獲得することについての理解が深まったと思います。
「問いを立てる力」によって物事を振り返ったり考えたりしつつ、「本質が分かっていないけど作業はできる」と「本質が分かって作業ができる」の両方を並行して進めていくことで体験から学んでいくことができるのだということが分かりました。
執筆/丸山さとこ
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