「認知の力」は学習の土台に!5つの認知機能をパズルやナゾトキで鍛える『コグトレ』とは――児童精神科医・宮口幸治先生
認知能力と非認知能力の違いって?
みなさんは、「非認知能力」という言葉をご存じでしょうか。昨今は、学力やIQといった数値では計れない、協調性やコミュニケーション力、思いやりなどを指して「非認知能力」と称し、「非認知能力が大事だ」という風潮もあるようです。
でも、実は、「非認知能力」という言葉はあいまいで、何を指すのかといった決まった定義がありません。それにわざわざ非認知能力という言葉を使わなくても、協調性などが大切なのは誰でも知っていることです。
一方で、例えば、相手の表情をしっかりと見て、あわてているのか、怒っているのかを察するには、「見る力」も「想像する力」も必要でしょう。見て、想像する力は認知の力そのものです。相手の表情を読んだり、人の気持ちを想像したり、次に何をしたらいいのかを考えるには、すべて「認知の力」が土台になっているはずなのです。
「認知の力」には5の要素が含まれる
では、「認知の力(認知機能)」とは何でしょう?それには、「注意」「記憶」「言語理解」「知覚」「推論・判断」という5つの要素が含まれます。
そして、この5つの要素を強化させるために、考案されたのが「数える」「覚える」「写す」「見つける」「想像する」力を伸ばすトレーニングです。題して「コグトレ」です。コグトレとは、「認知機能に特化したトレーニング」で、Cognitive(コグニティブ:認知)とTraining(トレーニング)の頭文字をとったものです。
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開発までに5年かかったトレーニング
これまで、児童精神科医として少年院で勤務をしたり、とある自治体の教育相談などを受けたりして、子どもたちと向き合ってきました。すると、「見る・聞く」「数える・想像する」といった認知機能が弱くて、学業不振につながっているケースが多いことに気づきました。
現在、提供しているコグトレは、約5年間の歳月をかけ開発し、医療少年院でトレーニングを実施して検証し、手ごたえの得られた認知機能強化トレーニングをアレンジしたものです。
勉強ができなくてつらいのは子ども自身
教育相談を受けていると、「勉強ができない」ために一番つらいのは子ども自身だとよく分かります。学校には、基本的には授業を受けて、教科学習をしに通っているわけですから、毎日長くいる場所で、肝心のことができていないのだとしたら、それはつらいでしょう。
将来の進路にもかかわってきますし、自分の力で生きていくためにも、勉強は大事なのですが……。
「学習の土台」はトレーニングで高められる
例えば、簡単な図を見ながらそれを正確に写すということができなければ、漢字はなかなか覚えられないでしょう。漢字が覚えらなければ教科書がだんだんと読めなくなってきます。そこで、漢字の練習の前にしっかりと形を認識して模写する力、いわば「学習の土台」となる力をトレーニングで高めていく必要があります(課題例「点つなぎ」「くるくる星座」)。
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また、記号や絵柄を5個、6個とまとめて囲むといったことができなければ、計算で必要な「数を量としてみる力」が育っていないため、計算が苦手になってしまいます。コグトレではそこをトレーニングしていくのです(課題例「コバケをまとめる」)。
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ほかにも、共通点、相違点を見つけるトレーニングは、算数で数字の並びからパターンを見つけることにも役立ちますし、人の顔や表情を見分けるのにも役立つでしょう(課題例「違いはどこ?」)。
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「できないこと」をひたすらやらせるよりも
簡単な計算ができない、基本的な漢字が覚えられない、などがあれば、どんどん難しくなっていく勉強についていくのはどうしても難しくなります。
だからといって、ひたすら漢字の練習をさせる、ひたすら計算ドリルを解かせるというふうに「できないこと」をやらせようとしても、効果的ではありません。
漢字や計算といった学習の下には、「写す」「数える」「見つける」といった土台があります。そこはトレーニング次第で伸ばしていける可能性があるのです。「できないこと」をやらせるよりも、まずは遊び感覚でできるパズル問題からチャレンジしてみてはいかがでしょうか?