高校生になった発達障害娘の自傷行為。専門家に相談して考えた苦肉の策…「子どもだまし」かも?と思った方法で気づいた意外な娘の一面とは
娘の自傷行為
娘は高校生のころにイライラがとても強い時期がありました。
高等特別支援学校(高等部単独の特別支援学校)に通い、放課後等デイサービスや地域の基幹相談支援センター、医療ともつながっていた娘。障害に理解がある環境の中で過ごしていたにも関わらず頻繁に起きる感情の爆発がありました。
それは、娘自身ではどうにもできない就職に関する悩みや女性特有の体調の悩みともあいまって、幼稚園のころのイヤイヤ期や小一の壁、10歳の壁や中一ギャップのときとは一味も二味も違う、ヘビーで複雑なものでした。学校に行きたがらなくなったり、物を壊したり、母親だけに当たったり、衝動的に家を出たり…。どの行動にも手を焼きましたが、一番対応に困ったのは自傷行為でした。
親のダメージの大きさたるや
今から6年間ほど前の娘が高校生だった当時は、思春期の発達障害がある子どもの自傷行為についての情報が極めて少なかったということも私の悩みを深くしていました。
娘の自傷行為を知ったとき、私はまず信頼のおけるママ友や親の会の仲間に相談をしました。
すると「自分自身も過去に自傷の経験がある」という人が意外と多くいました。
今は頑張っていたり、輝いている人たちも、過去にはつらい経験をしていたということや、その行為には理由(原因)があるということなどを知って、私のショックは少し和らぎました。
じゃあ実際どうしたら良いの?
では具体的に親はどう子どもに接したら良いのか?
私は、ケアする側の専門家に相談するのが良いと思い、学校の先生方や放課後等デイサービスの先生に対応策をたずねました。
「傷口部分をさすってあげるとか、絆創膏を貼ってあげると良いというのを本で読んだことがある」「その話題には直接触れない方が良い」など先生によってさまざまな意見がありましたが、私はその中で“わたしたち親子が置かれている状況下”で“不自然ではなく”できそうなことを考えました。
考えた結果…
娘には年の離れた弟がいます。当時、弟は小学校に入学して間もないころで、まだ幼さなさが残る年ごろでした。
過去に娘は私に「お母さんは弟に甘いんじゃない?」と言ったことがありました。私からすると娘の方がずっと手がかかり、弟には不便をかけているぐらいの気持だったのですが、娘はそう感じていたようです。
そこで私は娘に
「最近お父さんが、私が小さい息子にばかり気を掛けることにヤキモチをやいているみたいなので『だっこだっこキャンペーン』というのを始めようと思う」
「これは、玄関で帰宅した家族全員を私(母親)が抱っこ(お帰りなさいのハグ)をするというキャンペーンです」
と伝えました。
本当は『娘を』抱っこすることが目的だったのですが、自然な感じ(?)にするため『お父さんが、私が息子ばかりかまうことにヤキモチをやいている』というていにしたのです(この件に関しては主人にも協力してもらいました)。
娘の反応
Upload By 荒木まち子
「え?いいの?」と言う娘。私は、娘のこの反応にとても驚きました。
娘は小さいころからだっこが苦手でした。反り返って嫌がるので、私は娘を落とさないように全身の力を込めてだっこしていました(いつも汗だく)。また、娘がいつ激しく反り返るか予測不能なので、わが家ではおんぶも危険だと思いほとんどしませんでした(おんぶで子どもが親に身を任せるなんて夢のまた夢)。手をつなぐのも苦手で、私が娘の手を握ると娘は必死に私の手の中から指を抜こうとしました。
そのため私は、娘は人に触られることが嫌(苦手)なんだとずっと思っていました。それなのに娘のこの反応って…⁉
子どもは変わる
実際娘に『お帰り』のハグをすると、娘は脱力し私に身を任せていました。表情は見えませんでしたし娘は無言ではありましたが、まんざらでもなさそうなのは感じ取ることができました。
私たち親は「食べ物」や「音」「色」「特定のシチュエーション」などで、いったん子どもが嫌がると「この子はこれが苦手(嫌い)なんだ」と思い込んでしまいます。特に子どもが癇癪やパニックを起こした経験があるとなおさらです。
でもそれらは時と共に変わる場合がある、ということを私はこのとき実感したのです。
子ども自身の体調にも影響されるので一概にそれを『成長』と言って良いのかは分かりませんが、ともかく『変わる』のだと感じました。
じゃあそのあと『だっこだっこキャンペーン』のおかげで娘のイライラや自傷がすぐに収まったかというと、まあそんな簡単なわけもなく(笑)
医療や各方面の支援者のサポートと粘り強いアプローチなども受け、長い時間をかけて娘は徐々に徐々に落ち着いていったのでした(娘が落ち着いたタイミングでわが家のだっこだっこキャンペーンは終了しました)。
失敗も無駄じゃない
子育てで困ったことがあると、親は解決策や情報を探しいろいろなことを試します。それが上手くいけば万々歳です。しかしながら自分の子には分かりやすい効果がでなかったり(場合によっては逆効果だったり)親がしんどくなって続かないこともしばしばです。でもその失敗や試行錯誤は決して無駄ではないと思うのです。つらい中でもたまにクスッと笑えることがあったり、ほんの些細な子どもの成長を感じたり、暗闇の中で小さな光の道筋が見えた(ような気がした)りしたらそれって結構イケてるのではないかと私は思っています。
首の皮一でつながっている様な状態だとしても、今回のケースのように意外な気づきを得ることもあります。
失敗を含めすべての経験はすべて後の糧になると私は考えています。
執筆/荒木まち子
(監修:井上先生より)
青年期に多い自傷行為の原因は個々さまざまです。
しかも本人自身もそのことを言葉でうまく説明できない場合は、親としてとても不安になり、心配されると思います。今回の「だっこだっこキャンペーン」のような方法が直接当てはまらなかったとしても、ユニークな関わりを取り入れることで家族全体の関係性がピリピリしたものからやわらかいものに変わっていったのではないかと思います。
また荒木さんもご指摘のように、幼児期のこだわりや感覚過敏なども成長と共に変わっていくことが多いです。お子さんの様子を見ながら、それに合わせていろいろな関わり方を試みることはお子さんの新たな成長や変化に気づくきっかけにもなるのではないでしょうか。