「対話」が子どもにもたらす3つの影響とは?映画「こどもがいぎ」が、大人たちに問いかけること――監督インタビューも
「こどもかいぎ」って?――子どもたちによる傾聴、そして話し合う大切な時間
Upload By 発達ナビニュース
映画『こどもかいぎ』は、子どもたちが「かいぎ」をする保育園を1年間に渡って撮影したドキュメンタリー作品です。
「こどもかいぎ」では子どもたちが輪になって自由に話し合います。何を話してもいいけれど、相手の言うことはきちんと聞くのがルール。テーマはそのときによってさまざまです。ふしぎに思うこと、最近知ったこと、保育園でいやなこと…。さて、どんな意見が飛び出すのでしょうか。
「こどもかいぎ」では結論を出すわけではありません。それぞれが自分の思いを伝え合う中で、子どもたちは成長していきます。
子どもたちは、 自分にも相手にも全力でまっすぐ。気持ちを伝えるというのは単に「言葉で」だけではありません。
子どもたちは何を考え、自分の可能性や、人と人との関係をどのように育んでいくのでしょうか。映画『こどもかいぎ』、そこには社会の中で生きていくために大切なヒントがあふれていました。
コロナ禍だからこそ、対話をテーマにしたこの映画を届けたい
Upload By 発達ナビニュース
今回、監督の豪田トモさんにお話をうかがいました。
発達ナビ編集部(以下、ーー):映画『こどもかいぎ』の完成に至るまでの背景を教えて下さい。
豪田トモ監督(以下、監督):2017年から映画『こどもかいぎ』のプロジェクトがスタートしました。撮影場所探しに1年。
ようやくご縁があって舞台となる保育園で2018年の春から1年に渡り撮影させていただきました。150時間の撮影を映画として1時間半にまとめるまでに2年かかりました。
しかし、 完成したタイミングで新型コロナウィルスの流行がはじまり、その当初、映画を公開できるような状況でなくなってしまいました。仕方なく、この映画はお蔵入りにするしかないと思ったんです。
ーーそのような中、公開に踏み切ったきっかけはなんでしょうか?
監督:わが家には娘がいるのですが、当時小5で、分散登校をしていました。ある日、タブレット端末で学校の様子を見せてもらったんですが、そこには給食の時間に黙食している子どもたちの姿があり、ショックを受けました。そのとき一番に思ったのは、「この子たちは、きっと言いたいことがあるはず。大人は子どもの声を聞けているんだろうか」ということでした。
一度は公開をあきらめた『こどもかいぎ』だったのですが、このことがきっかけになり、コロナ禍だからこそ、対話をテーマにしたこの映画を公開しようと決意したんです。
「対話」とは、思考と思想を交換するもの
Upload By 発達ナビニュース
ーーこの映画の大きなテーマである「対話」というキーワードですが、豪田監督が思う「対話」とはどのようなものでしょうか。
監督:「対話」についてお話するときに、「『会話』と『対話』はどうちがうんですか?」と聞かれることが多くあります。
「会話」と「対話」は、それぞれ辞書で調べると同じようなことが書いてあるのですが、僕自身はそこには大きな違いがあると思っています。
「会話」というのは、感情と情報を交換するものだと思っています。今日会ったこと、楽しかったことを聞いて、それに答えたり、ときに怒っていること、悲しかったことなど感情をぶつけることもあると思います。
一方で、「対話」というのは、思考と思想を交換するものだと思っています。会話よりも、もっと深いところにある、考えていることに根ざしている哲学を相手に伝えるものではないかと感じています。
今回、子どもたちが対話する姿をみて、子どもは周りの子たちと考え方や、その裏にある気持ちを交換していると感じました。
違う考え方に出合ったとき、大人はときに偏見につながることもあると思うのですが、子どもにとって対話で出合った「自分と違う意見」は、発見になるんだと感じました。
ーーお話するのが得意な子ども、苦手な子ども、どちらもいると思います。それぞれがその子らしく対話の場に参加するために、大人ができることはどんなことでしょうか。
監督:対話って言葉で話すことだけではないと思うんです。「お話しないといけないんですか?」と聞かれることもよくあるのですが、無理して話す必要はありません。対話では、その場にいて話を聞くということがとても重要です。それだけでも対話を重ねることで、対話の場に自分の居場所を感じることができる、子どもたちの姿を見てそう感じました。
「対話」がもたらす3つの影響
Upload By 発達ナビニュース
ーー「対話」することは、子どもたちへどのような影響があると感じていますか?
監督:これはたくさんありますね! その中でも大きく3つの影響があると思っています。
1つ目は、その子なりの力がのびていくこと。聴く力、表現する力、思考する力、想像する力、語彙力、タイミングを見極める力など。 対話は相手がいることなので、相手と関係性の中で場を良くしていく力や仲間意識、共感性なども育まれると感じます。また「何でも話していい居場所」があることで、自尊心や自己肯定感が育まれていると感じました。
2つ目は、子どもたちを取り巻くさまざまな社会問題の解決につながるのではないかということです。対話を重ねることで話してみないと分からないこと、話してみたら分かり合えることがあると気づくことができると思います。それは不登校、ひきこもり、いじめ、貧困、ヤングケアラー、精神疾患があることからの困りごとなどの問題解決のヒントにもなると思います。
対話ができるようになることで、「困っていることがある」とSOSを出したり、自分の感情を言葉にする力が育まれ、それは自分の抱えている問題を解決する力になっていくと感じています。
3つ目は、将来をつくる力です。たとえば、年中から高校まで週1回「対話の授業」があったら、それまでに400〜500回は対話ができるんです。自分の思いを話す、相手の話を聞くという経験を重ねることで暴力、暴言、DV、依存症などのコミュニケーション上の社会問題の予防になるのではないかと思っています。
子どもの思いを聞いてほしい
Upload By 発達ナビニュース
ーー最後に発達ナビの読者である、障害や特性があるお子さんを育てる保護者の方へのメッセージをお願いいたします。
対話は保育園や幼稚園、学校だけでなく、家庭でもできます。子どもの話を聞く、思っていることを知るというのは、愛情表現です。その子の心の中にある声を、時には待って、すべてを受け止めていく。
お子さんが小さいころは身体的なスキンシップが多いかもしれませんが、思春期以降そのようなスキンシップが減っていくことが多いと思います。スキンシップが減り、精神的なスキンシップもとらなくなるとだんだんと対話できなくなり、会話もなくなっていく…そうなってくると子どもに親の愛情が伝わらないということが多くあることを感じました。
「対話」さえできていれば、大丈夫ではないかと僕は思っています。「対話」は自己肯定感を育み、子どもたちの可能性を広げます。ぜひ子どもの思いを聞いてほしいなと思っています。
ーーありがとうございました!
たとえ一見対話は難しいと思えるような子どもや場面であっても、きっとその子の中に「思い」があるはず。それを聞き、受け止めようとする姿勢の大切さを教えてくれる映画でもあると感じました。子どもとの関わり方に迷ったり悩んだりする大人に、きっとたくさんのヒントをもたらしてくれる映画だろうと思います。
映画『こどもかいぎ』上演情報
Upload By 発達ナビニュース
『こどもかいぎ』
2022年7月22日(金)よりロードショー。東京都・シネスイッチ銀座、シネリーブル池袋、イオンシネマ多摩センターほか、全国順次公開予定です
https://www.umareru.jp/kodomokaigi/schedule/
映画『こどもかいぎ』劇場情報
※クリックすると発達ナビから映画『こどもかいぎ』の公式サイトに遷移します
企画・監督・撮影:豪田トモ
プロデューサー:牛山朋子
編集:池宮三葉
プロダクションマネージャー:徳田香織、宮澤朋子
後援:内閣府、日本保育協会、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、認定NPO法人フローレンス
推薦:厚生労働省
※クリックすると発達ナビから映画『こどもかいぎ』の公式サイトに遷移します