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ダウン症がある子ども「食べ物を丸のみ」していない?摂食・咀嚼・嚥下機能が弱い理由やデメリット、トレーニング方法も解説【医師監修】

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食べる・飲み込む力はどう成長していく?


食べる(摂食)という行為は、噛むこと(咀嚼・そしゃく)と飲み込むこと(嚥下・えんげ)がセットになっています。実はダウン症のある人は、噛まずに飲み込んでしまう「丸のみ」が習慣化している場合が少なくありません。では、丸のみするとどのような問題があるのでしょうか?詳しく解説をしていきます。

私たちは普段、食べるときに、その一つひとつの行動を確認しながら食べることはないかもしれません。だから、正しい食べ方を子どもに伝えようとしても、何からどう伝えていいか分からないことが多いものです。まずは栄養源を体の中に取り込むための「食べる」という行為は、どんなプロセスを経るのかをみてみましょう。

1. 食べ物が口に入るまえに、食べ物を認知します。目で見ることで多くの情報を処理して、手や食具を使って食べ物を口に運びます。

2. 次に、食べ物を口に取り込み、かみ砕き、だ液とまぜて「食塊」にします。
3. この食塊を、舌を使ってのどのほうへと送り込みます。このときは口が閉じています。
4. ごっくんと飲み込むことで、のどから食道へ送り込みます。このときに気道が閉じていないとむせてしまいます。
5. 食道に入った食塊は胃へと送られていきます。

このプロセスが「摂食」と「嚥下」です。食べる・飲み込むという行為は、練習しなくても誰もが獲得できる機能にみえますが、ダウン症のある子どもや障害のある子どもの場合、正しい食べ方を獲得するためにさまざまなトレーニングが必要になることがあります。


摂食嚥下は、口の中だけの課題ではなく、全身の成長・発達が大きく関係しています。まず首が座っていることが重要です。頭がぐらぐらしていると、食べ物に目の焦点を合わせて見ることができないので、口にものを入れることが上手にできません。

また、原始反射が消えていることが摂食には必要です。哺乳のための一連の反射の1つである乳首を吸うための吸てつ反射が残っていると、スプーンを口に入れようとしたときに口を閉じてしまいます。舌の挺出反射が残っていると舌で押し戻してしまう、といったことが起こります。

ほかにも、鼻呼吸がうまくできるようになること、食べ物を舌と歯と頬でバランスを取りながら噛んだりつぶしたりするという動作ができることなど、成長・発達していくことで、摂食・嚥下はできるようになっていきます。

なぜダウン症のある子どもは摂食嚥下機能が弱いの?


それではなぜダウン症のある子どもは、食べたり飲み込んだりがうまくいかないのでしょうか。
ダウン症の特性と合わせてみていきましょう。

まず、発達がゆっくりであることがあげられます。食べ物をあげようとしても、舌が前に出やすいために、食べ物をのせたスプーンを舌で押し戻そうとしてしまいます。これは、発達がゆっくりなため原始反射が消えていくのもゆっくりだからということもあります。まずは原始反射が消えるのを待ってから、離乳食を開始します。

全身の筋力の緊張が低いために、噛む力が弱い場合もあります。ダウン症のある人は筋の緊張が弱く、噛む力も強くないこともあります。このため、口に入った食品をよく噛んで食べるということがむずかしく、食べたものをそのまま飲み込んでしまうことが起こります。


噛み合わせの問題がある場合もあります。ダウン症のある人は、上下の前歯が噛み合わず、開いた状態(開咬・かいこう)や受け口(反対咬合)などの歯並びになりやすく、上下の歯のかみ合わせが悪いことがあります。

口の中の形状的な理由がある場合もあります。上あごがせまくて高いということから、舌がうまく使えないことも多くあります。通常は、飲み込むときに舌は上あごに接触しながら食べ物をのどの方へと送り込みます。しかしその舌の動きがうまくできなかったり、上あごが高くて舌が十分に届かなかったりする場合があります。すると、上あごに食べ物が残っていたり、食べるときに空気を一緒に飲み込んでしまったりすることがあります。

鼻で呼吸ができずに、口呼吸になってしまうのも原因の一つです。
摂食嚥下のプロセスの中で、大事なことは、食べ物を口の中で噛んで飲み込むまでの間、上下の口唇が閉じていることです。食べ物を口の中で噛むときに口が開いていると食べこぼしの原因となります。また、のどへと送り込むことやごっくんするときは、口が開いたままではできません。

一口量の認知の問題もあります。身体面の特性だけでなく、認知力も食べ方に影響します。一口サイズがどのくらいなのかがよく分からないために、大きく食べ物をかじりとり、そのままよく噛まずに食べてしまうということがあります。

こうした特徴から、食べ物を大きい塊のまま口の中に入れて、筋力が弱いためにうまくかみ砕くことができず、食べ物をそのまま飲み込んでしまう「丸のみ」をしやすいことが、ダウン症のある人の摂食嚥下の特徴となります。

ダウン症のある人に多い、丸のみはなぜいけないの? デメリットについて


よく噛まずに、食べ物を丸のみすることが、なぜよくないことなのか、もう少し詳しく見てみましょう。


食品を一口大に噛みちぎることができたとしても、そのまま噛まなければ大きすぎるので、のどに詰まってしまうことがあります。のどの奥で、呼吸をするための気道と食べ物を胃に送るための食道に分かれていますが、丸のみした食べ物がのどでつかえてしまうと、その気道をふさいでしまい窒息してしまいます。

食物は、本来は口の中でこまかく噛み砕かれ、消化酵素を含む唾液とまざった状態で胃に運ばれます。ところが、丸のみしてしまうと食べ物はそのまま胃に運ばれてしまうので、胃腸での消化に負担がかかります。胃でもよくこなれないまま腸へと進むと、下痢や便秘の原因にもなります。

こうして消化器に負担がかかると、栄養が体にうまくとりこまれなくなり、長期的には栄養障害を起こすことになります。ごくたまに、よく噛まないで呑み込んでしまうこともあっても仕方ありませんが、それが毎食のことになると、健康状態を損ねることにつながってしまうのです。

丸のみしないためにできることは?


丸のみしないようにするためにできることとは、どのようなことでしょうか。


成長発達に合わせてのステップをしっかり踏むことが重要です。ダウン症のある人の成長・発達はゆっくり進みます。口の中の発達も同様です。離乳食の進め方もその子のお口の成長をよく観察して、ゆっくり進めてください。歯の生え方と同時に、舌の動きをよく観察しましょう。舌が乳首を吸うときのように前後にだけ動いているうちは、うまく咀嚼ができないということでもあります。
また、首がすわり、おすわりが少しずつ安定してくる様子、姿勢の観察もしてください。

そして、「おいしいものを食べたい」という積極的な意欲があることが大切です。心身ともに成長している様子をよく観察して、離乳を進めて、よく噛んで飲み込むというプロセスを練習していきます。このことが、丸のみを予防することにつながっていきます。

成長、発達に合った離乳食を用意することも重要です。離乳初期は、唇をしっかり閉じてごっくんができることを確認しましょう。口に入った食べ物を舌で前から後ろへ送り込んで食べます。なめらかにすりつぶした状態のものが適しています。トロトロしたおかゆやポタージュ状のものから始めます。

離乳中期は、ごくやわらかい食べ物を唇を使って口の中に取り込み、舌を上あごの前のほうに押しつけてつぶして食べます。あごを上下に動かして「もぐもぐ」できるようになります。やわらかく茹でたにんじんや豆腐などが適しています。

離乳後期になると、歯ぐきによるすりつぶしができるようになります。唇・舌・歯・あご・ほおの動きが上下左右と複雑に動かせるようになっていきます。なめらかな肉団子やご飯粒などを一口ずつ咀嚼することができます。

離乳後期のころには、自分で食べたいという意欲も出てきて、いわゆる「手づかみ食べ」が始まりますが、このことは道具を使って食べるようになるための大事なプロセスでもあります。自分で食べたいという意欲を伸ばしてあげましょう。歯ぐきによる噛める程度のかたさのものが適しています。このときに、食べ物に夢中になって丸のみしていないかよく見て上げて、「カミカミしてね」と声をかけ、大人も一緒に口を動かして食べる様子を見せるといいでしょう。

食事をあげるときには、スプーンの上手な使い方があります。間違ったあげ方をすると食べづらいためにうまく咀嚼ができなくなってしまいます。スプーンを使う時の理想的なプロセスをご紹介します。

① 食べ物を見せて、口に近づけます。口を開けてくれたら、下唇にスプーンの底面をつけて、上唇がしっかり下がってくるのを待ちましょう。
② スプーンの前のほうに乗せた食べ物を赤ちゃんが口で捉えたと感じたら、すっとスプーンをまっすぐにして引きます。このときスプーンに食べ物が残っていてもかまいません。スプーンのボールの部分が平らで、口の大きさに見合ったスプーンを選ぶことも大切です。
③ 口を動かしてごっくんと飲み込むのを待って、次のひとさじを与えます。飲み込まないうちに次のスプーンを出すことはやめましょう。

気をつけたいのは、口からスプーンを引き抜くとき。スプーンを上唇になすりつけるように上のほうに向かって引き抜くのはやめましょう。あごがあがって飲み込みにくくなります。

もう一つ大切なのは姿勢です。
前のめりになったり、仰向けに寝過ぎた姿勢にならないようにしてあげましょう。まだ体を自分で支えられない子どもには、座位保持椅子などの背もたれや頭頸部が安定する椅子で、前のめりになったり、首が後屈した姿勢にならないようにしてあげましょう。一人で椅子に座れるようになったら、椅子に深く座り、足が床や足乗せ台についているようにします。足がプラプラしていると力も入らず姿勢も崩れやすくなります。筋力が弱いダウン症のある子どもの場合は、支えて上げることも必要ですし、普段から体をよく動かして腹筋をはじめとする筋力をつけることも大切です。

こうして食べるときには、話しかけながら楽しく食べさせましょう。一方的に食べさせるばかりでなく、大人が食べる様子を見せ、一緒に楽しむのも良い方法です。そのときには少しオーバーな動きで口を動かして見せてあげるとより良いです。

実際に食事をするとき以外に、舌やあごの動きをトレーニングすることも大切です。間接的な訓練として、バンゲード法などがあります。

バンゲード法は、子どもの口の周り、すなわち頬、唇、舌の筋肉を手で伸ばしたり、縮めたりして動きをよくしてあげる方法です。食べるための必要な筋肉の働きを促すことができます。

食べるという行為を、あらためて教えることは難しいかもしれません。細かいプロセスに分解して子どもに伝えることが必要ですが、考え過ぎるとかえって混乱することもあるでしょう。一度、専門家による摂食指導を受けることをおすすめします。

まとめ


丸のみしないで食べられるようになるためには、まず正しい食べ方を覚えることから。適切なひと口とはどのくらいの量なのか、毎回よく噛んで飲み込めているかを確認して、上半身を起こして食べましょう。食べ方を教えてあげることも大切ですが、「もぐもぐ」「かみかみ」「ごっくん」という声かけは笑顔で、「楽しく食べる」ことも忘れずに。丸のみを習慣化しないことで、健康においしく食事ができるようになれるといいですね。

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