自閉症のわが子の「オウム返し」「抑揚のない話し方」をなおしたい?それは親のエゴかもしれないから…
ママ友から相談された、抑揚のない話し方
自閉スペクトラム症と知的障害がある息子を育てていると、同じように自閉スペクトラム症がある子どもを育てている親御さんたちから相談されることがあります。
昔からの友人に、自閉スペクトラム症の診断を受けている女の子がいます。3歳当時、言葉はたくさん出ていましたが、独り言の一方通行の言葉ばかりでした。
友人は「抑揚のない感情を感じられない一本調子の話し方は、どうすればなおるもの?」と聞いてきました。
私は医師でも専門家でもないのでためらいましたが、21年間自閉スペクトラム症のある息子を育ててきた経験から次のように答えました。
「コミュニケーションをとりたい、人と関わりたいと思うようにならない限り、抑揚をつけて話すようにはならないと思う。人は『相手にこうしてほしい』という働きかけをしたいという動機があって言葉が出たり、声を大きくしたり、強弱や抑揚をつけたりするものだと思うんだ。だから、独り言の状態にいる限り、抑揚をつける必要もないから一本調子のまんまなんじゃないかな」
親の価値観は子どもとは違うかもしれないから
私の答えを受けて、友人はこう言いました。
「じゃあ、友達をたくさん作って遊ばせたらいいんだ。友達と遊ぶと楽しいから、話し方も変わるかもしれないよね」
私は
「それは親の価値観であって、子どもが楽しいと感じて、しゃべり方まで変わるかどうかは分からないよ。友達と遊ぶことがストレスになり、1人で遊んでいるのが楽しいことなのであれば、それを潰さないほうがいいんじゃないかな。まだ3歳なんだからこれから経験を重ねていくうちに、自然と育ってくるからそのとき抑揚がでてくるかもしれないし…。」
また、加えて次のように話をしました。
「その時の言葉がたとえ『触っちゃダメ!』とか『嫌!』といった、拒否する言葉であっても、自分の気持ちをしっかり伝えている言葉であるなら、立派なコミュニケーション。それでよしとすればいいんじゃないかなとも思う」
と伝えました。
友人とは信頼関係もあるので、ここまで言うことができました。
息子の初めてのコミュニケーション
息子は5歳になるころまで、言葉を話しませんでした。
発語するようになっても、スーパーではリンゴの棚の前で「ジョナゴールド・津軽・紅玉・シナノゴールド・秋映・王林…」と覚えている品種を順に言うばかり。
けれども、「ママ、このリンゴ美味しそうだね。買って~買って~」と言うことはありませんでした。
21歳になった息子は、会話はできるようにはなりましたが、相手に共感を求めるこういった言葉は今も言うことはありません。
そんな息子でしたが、初めての言葉らしい言葉は5歳のとき、デパートの讃岐うどんのお店に連れて行ったときのこと。
息子が食べていたうどんの器には、あと1本だけ、うどんが残っていました。その器を、店員が「お下げいたします」と持って行こうとした瞬間、店員に向かって「まだ食べる!」と大きな声で叫んだのです。
自分の意思をはっきりと示し、まっすぐと相手に届く言葉でした。
オウム返しはコミュニケーションではない?
息子が特別支援学校高等部のころ、自閉スペクトラム症があるクラスメートの親御さんとお子さんと一緒に動物園に行きました。するとそのお友達は、パンダの檻の前で
「友達の眼鏡をとってはいけません」
「友達の眼鏡をとってはいけません」
「友達の眼鏡をとってはいけません」
と、授業中に担任から注意された言葉をずっと唱え続けました。
なぜずっと先生の言葉をオウム返ししているの?
なぜ以前言われた言葉を、動物園という状況で言うの?
なぜずっと繰り返し唱えるの?
「これはコミュニケーションではない。聞いた言葉をただ繰り返しているだけ」と親御さんは悲しそうに言いました。
確かにそうだったのかもしれませんが、もしかしたら、一緒に動物園に来たクラスメートと並んでパンダを見ながら先生に言われた場面を思い出し、「お母さん聞いて、先生が『友達の眼鏡をとってはいけません』と言っていたよ」と伝えたかったのかもしれません。
息子やほかの自閉スペクトラム症のある子どもたちのことを知れば知るほど、「抑揚とか声の大きさまで含めた会話を要求したり、期待したりすることは難しいのかな…」「そもそもそうした話し方を期待すること自体、親のエゴなのかな」と思うのです。
執筆/立石美津子
(監修鈴木先生より)
言葉を発せなくとも、お子さんが「あー」とか「いー」とか何か声を出したら、それに反応するように親御さんも「あー」とか「いー」と言うように心がけてみてくださいと、健診の時にお伝えしていました。難聴がなければ母音は認識しているからです。
新生児期でも名前で呼んであげることが大切です。例えば、「なおちゃん」と呼ぶと最初の「な:NA」の母音である「A」の音に反応することが分かっています。
自閉スペクトラム症のオウム返しは聞いたことを確認する行為とも言われています。「私はこう聞いたけどそれでいいですか」という確認を繰り返し行っているともとらえられます。食べたいときに「まだ食べる」と言えたことは、どこかでそういうシチュエーションがあって記憶されていたのかもしれませんね。いろいろな場所へ連れて行っていろいろな経験をさせることが重要なのです。