絶対欲しかった推しのCD「若い異性店員のレジ」で諦める!?場面緘黙の小6娘の本心は…
「対面レジでの会計」はハードルが高い!
場面緘黙があるゆいは、対面でのお買い物がちょっと苦手です。お会計の際に初対面の人と会話をしないといけないことがとてもハードルが高いようです。もちろんネットを使えば対面なしでもお買い物はできます。けれど、他人と接して買い物をする経験もたくさんしておくことが必要だと思うので、ゆい個人のものを買うとき、私はなるべく本人に一人でレジに行かせるようにしています。
ゆいが初めて「CDを買いたい」と言い出したのは、小学6年生の秋でした。少し前から某グループのファンになり楽曲を聞いていてCDが欲しくなったようです。サブスクやダウンロードで音楽を楽しめる時代ですが、やっぱり推しができるとデータだけでなくモノそのものが欲しくなるというもの。ゆいもお姉さんになったものだと感じつつCDショップに向かいました。
ショップでお目当てのCDを見つけたあと、私は「一人で買っておいで。これも人生経験だよ」と提案しました。ゆいはちょっと戸惑ってからレジの列に並びました。私は少し離れたところから見守っていました。
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あと少しで自分の番。でもレジの列から離れてしまい…
でも、あと少しで自分の番というところでゆいはレジの列から離れてしまいました。「やっぱり買うのをやめる」というのです。並んでいる間にかなり緊張してしまったようで、どっと疲れたように見えました。
「いやいや、本当は欲しいんだよね?レジでやり取りするのがつらいだけだよね」と確認で聞いてみたのですが、ゆいはもう諦めたように「別にいらない。
欲しくない」とつぶやいていました。
これまでも、ゆいが一人で買い物をした経験はありました。たまに雑貨屋で小物を買ったりコンビニでジュースを買ったりしていたのですが、そのときのレジを担当していた方は女性や優しそうなおじいさんだったので、大丈夫だったのかもしれません。このお店のレジの方は若い男性だったのでちょっと難易度が高かったようです。
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本当にそれでいいの?娘に本心を聞いてみると
ゆいの中で、「知らない人と接するストレスに比べたら欲しいものなど諦められる…」という考え方になっていることを知り、私は本当にそれでいいのかゆいに確認しました。
そうするとゆいが「やっぱりCDは買いたいけど、一人がきつい。買い物についてきてほしい」と言ったので、私はゆいの隣について再度列に並びなおしました。私が横にいるだけで、商品を渡してお金を払うことができました。
今回は何とか買い物ができましたが、これだけ疲れてしまうのは大変だろうなと感じました。
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最近は無人レジやネット販売が増えてきて、ゆいにとっては暮らしやすくなりいいことだなと思っています。でも、やはり他人と接する回数は生活していく上でゼロにはできません。他人と接する練習は本人にとってはつらいものになるかもしれないのですが、本人の生活のしやすさを優先するだけでなく、生きていくために社会に合うように慣れさせる必要もあり、バランスが難しいところだなと感じています。
執筆/吉田いらこ
(監修:鈴木先生より)
ASDのあるお子さんで場面緘黙が併存することはよくあります。ASDのある方はもともと対人コミュニケーションが苦手なため、思っていることがうまく伝えられないことが多いのです。しかも、今回のケースでは知的発達症(知的障害)も伴っているため語彙も少なく、失敗をしたくないというプライドも重なり、さらにレジが若い男性という点でもハードルが高かったのではないでしょうか。学校でもよくあることですが、厳しそうな表情の先生に苦手意識を感じ登校渋りになってしまうことや、反対に優しく話を聞いてくれて笑顔の多い先生ならばスムーズに行けることもあるのです。
最近では会話を必要としないセルフレジやネット販売サービスも普及し、ASDのある方には過ごしやすい世の中になってきました。しかし、人間関係の基本は会って相手の表情を見ながら話すことです。スモールステップで慣らしていくのがいいでしょう。