「おもちゃを一列に並べる」「一緒に遊べない」自閉症娘。3歳半ごろから遊び方に変化がーー娘の中に広がるあたたかな世界に気づいたきっかけ
自閉スペクトラム症のある娘は「一緒に遊ぶこと」が難しい
娘のまゆみには自閉スペクトラム症と知的障害があります。幼児期の早いうちからおもちゃを横に並べる様子が見られ、それを邪魔されると怒るために一緒に遊びたくても手出しができませんでした。一緒に遊ぼうとして泣かれたことは一度や二度ではありません。
4歳半となった現在も人からのはたらきかけに応じて一緒に遊ぶことは困難ですが、それでもどうにか人との関わりを持ってほしい、社会性が芽生えてほしいと願い、おもちゃを通してまゆみと関わる方法を模索してきました。そんな中で気づいたことがあります。
親が遊ばせたいおもちゃとは違う、娘が遊んでくれるおもちゃを求めて
1歳半ごろ、積み木を積み上げられるようになったまゆみ。喜んだ私は毎日のように積み木遊びを促しました。私が積み木を二つ重ねて積むと、まゆみもその上に新たな積み木を追加してくれるのです。
積み木はまゆみが私のはたらきかけで遊んでくれる数少ないおもちゃの1つでした。
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ただ、積み木はどちらかといえば「私がまゆみに遊ばせたいと思っているおもちゃ」でした。家にはほかにもいろいろな種類のおもちゃがありましたが、まゆみはどれも最初だけ楽しんですぐに飽きてしまうらしく、集中して遊ぶという様子があまり見られませんでした。
まゆみは外遊びが大好きだったため、暇さえあれば外に連れ出していましたが、室内遊びとなるとそんな様子だったので、雨の日などはどうやって遊んだらいいのか私は困っていました。
まゆみの好きなものは何だろう?何ならもっと興味を持ってくれるんだろう?
おもちゃ売り場で好きなものを選ばせようと思っても、「ものを選ぶ」という行為が難しく、たくさんのおもちゃを尻目に売り場を走り回ってしまうまゆみ。私はまゆみが自分から遊んでくれるようなおもちゃを探していました。
まゆみが初めて強い興味を示したおもちゃは、3歳の誕生日にメインのプレゼントに添えて渡した幼児向けキャラクターのぬいぐるみ2体でした。夫にまゆみを頼み、一人で訪れたおもちゃ売り場でセット売りのワゴンセールになっていたためついでに購入したものです。
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メインだったおもちゃは早々に飽きられてしまったのですが、まゆみは家の中でその2体のぬいぐるみを小脇に抱えて移動するようになりました。明らかに今までのおもちゃとは反応が違い、大事にしているのが見て取れたのです。まゆみの前にはよく2体が横並びに座らされていました。
あるとき私は、「このぬいぐるみたちから遊びの幅を広げるチャンスなのでは!?」と、まゆみの見ていない隙に積み木で2体のぬいぐるみに合わせたテーブルとイスをつくりました。テーブルの上にはおままごとのケーキやご馳走を並べ、ぬいぐるみは向かい合わせにして着席。そのまま待っていると、ぬいぐるみたちの「お食事会」に気づいたまゆみがやってきてじっと見つめ…そして、うれしそうに声を上げて拍手したのです。
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興味が広がると娘の世界も広がって
結果的に、そのときのぬいぐるみたちの「お食事会」からおままごとに遊びの幅が広がったようで、いつの間にかまゆみが自分で積み木のテーブルセットを組むようになりました。親に遊ばされていた積み木が、まゆみ自身の手によって遊ばれるようになったのです。
今まで飾られるだけだったほかのぬいぐるみたちも引っ張り出されてテーブルを囲み、いつしか小さな「お食事会」は楽しい会話が聞こえてきそうな「パーティー」に変わっていました。
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そのうち、ブロック遊びのセットに付属していた小さなブロック人形も10体ほど加わり、まゆみのお茶会はどんどん賑やかになっていきました。今ではまゆみが一人で「アイスクリーム屋さん」という新たなおままごとの舞台をつくり出していて、遊びの発展の仕方に感動を覚えました。
困惑していた「一列に並べる」も違って見えるように。娘の遊びを観察していて気づくこと
まゆみを見ていて気づいたのは、一見して無意味に思えるような遊び方をしていても、「まゆみの中にはちゃんとストーリーがあるんだな」ということです。高い声や低い声を使い分けてお人形にセリフらしきものを言わせたり、同じ場面や配置を繰り返したりしていて、本人にしか分からない内容であっても何か表現したいものがあって遊んでいるのだと思いました。また、まゆみのつくる世界はとても平和で温かい雰囲気に包まれていることにも気づきました。
みんなでケーキを囲んでハッピーバースデーを歌うところ、大繁盛のアイスクリーム屋さんでそれぞれ好きなアイスを食べて大喜びしているところ、縦一列に列を組んでおうちに帰るところ…。
最初は困惑してしまっていた『横一列に並べてあるだけの光景』すら、今では仲良く横並びで手をつないでいるかのような、平和でハッピーなものを感じます。
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遊びの幅が広がりつつある今でも横一列に並べることは好きなようで、気づくと人形達がズラリと整列していたりしますが、「まゆみにはまゆみの理由があってこの子たちを並べているんだな」と、自然にそんな風に思えるようになりました。
以前、自閉スペクトラム症のある息子さんとの生活をつづったエッセイを読んだのですが、小さなフィギュアのヒーローも悪役もみんな仲良さげに並べられる様子が紹介されていたことを思い出しました。その男の子やまゆみの心に広がる世界は、平等で平和で純粋なものかもしれない、と感じました。
本人の世界を大切に
最初は横に並べるだけだった世界が、ふとしたきっかけで遊び方を学んで発展していき、やがてサイズの小さなものでも遊べるようになり、さらにごっこ遊びが多様化していく。
「自閉スペクトラム症のある子どもは、創造的な遊びが苦手」と以前読んだ本には書いてありましたが、好きなものを前にしたときに大人がとっかかりを示してあげれば、模倣から始まって徐々に世界を広げていける場合もあるのだと学びました。
以前は「人との関わりを持ってほしい」とまゆみの世界に首を突っ込んでいましたが、今はまゆみが描く世界の広がりを感じられることがとても尊いものに思え、邪魔しないように彼女のごっこ遊びを眺める程度になっています。
まゆみの場合は、2体のぬいぐるみからお人形やおままごとが好きになりましたが、どんなものが好きかはお子さんそれぞれに好みや個性があると思います。車や電車が好きな子もいるでしょうし、パズルや数字が好きな子もいるでしょう。
まゆみもこの先どんな風に好みが変わるか分かりません。ただ、どんなものであっても、わが子の好きなものや世界観を尊重して見守ろうと思いました。と、一人遊びは見守ることに決めたのですが、「応じる力を遊びの中で育むことができれば…」という願いは未だにあるため、もしそうした力を育む遊びなどがあれば知りたいと思っています。まゆみの世界は広がっているけれども、未だにものを介したやりとりは難しいなぁ、と娘を見ていて感じています…。
執筆/にれ
(監修:新美先生より)
お子さんとお母さんのとても素敵なエピソードを聞かせていただきありがとうございます。
遊び方が独特で、なかなか広がらないとき、親としてやきもきするかもしれません。にれさんはお子さんの遊び方をじっくり観察して、何に興味を持つのか、何を楽しそうにするのかを大事にされて、お子さんの興味にちょっとだけお邪魔する姿勢で関わりを持つことで、お子さんの遊びを広げて発展されていかれたのですね。またお子さんの興味の持ち方、世界観を尊重して見守るというにれさんの姿勢がとても素敵で素晴らしいと思いました。
大人がこれをやらせたいと思うことを押しつけるのではなく、子どもの興味あること、好きなことを、子どもの行動から見つけて、ほんの少しお手伝いして興味関心を広げていくというのは、まさにこういうタイプのお子さんの関わり方の基本形です。お子さんがどんなことを感じて考えているのかなということを観察して、お子さんの独自ワールドを尊重して子育てをすることは、お子さんにとって何より、心地よくストレスの少ない生活につながり、お子さんなりの好奇心を発揮していくことにつながると思います。