夏休みも自閉症3歳息子は車以外興味なし!?「いろいろ経験させなきゃ」母は焦り…。6年経った今は
物心ついたころからミニカーを並べ続ける自閉症のある息子
スバルは物心ついたときからミニカーを並べていました。毎日毎日飽きもせず。ときには長く行列に、ときには色別に、自閉スペクトラム症の特性からか、本人にしか分からないこだわりで毎日リビングはミニカーで大渋滞でした。
寝る前には私がガサっと片づけて、翌朝になるとスバルがまたせっせと並べる、そんな毎日がまるで「賽の河原のようだ」と思ったこともありました。
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スバルが歩き出してから幼稚園に入園するまでの時期は「たくさんの経験をさせてあげなくては」と1日4時間くらい公園で過ごしていました。
午前2時間、午後2時間。行った公園は16ヶ所。自転車を購入するまでは地図を片手に徒歩で片道5Km以内の公園を制覇しようと張り切っていました。
自転車を手に入れてからは隣町の公園まで足を伸ばしました。
当時のスバルが一番お気に入りは、目の前を大きな道路が通っていて、絶えず車が走り続けているのが見える公園でした。
その公園は高いフェンスでぐるりと囲まれており、出入り口は道路とは反対側に1つあるだけなので、突然走り出して脱走する心配もなく私もお気に入りでした。
2番目にお気に入りなのは少し高い場所にある公園でした。その中で一番背の高い遊具に登ると、遠くにある高速道路を走る車の上半分ぐらいがかろうじて見えました。正直私にはひたすら流れていく車の屋根を見ても何が楽しいのかわかりませんでしたが、スバルはまるで「水平線を眺めがならいつか旅に出ることを夢見る少年」のような瞳で眺めていました。
遊具で遊んで、車を眺めて、どんぐりを並べて、車を眺めて、砂場でお山をつくって、車を眺めて…そんな毎日を過ごしていました。
暑い日も、寒い日も、雨の日も、風の日も。
雨の日はさすがに公園へは行かずレインコートを着て近所の道路を走る車を眺めるくらいでしたが。
幼稚園に入園して初めての夏休み
たった4ヶ月前まで、夏休みより長い期間を来る日も来る日も公園に出かけて過ごしていたというのに、初めての夏休みをどう過ごせば良いのか分からないという謎の問題に私は直面していました。
幼稚園に入園してからは幼稚園でしっかり体力を使い果たして帰ってくるので、毎日公園に行く必要がない生活に私の体が慣れてしまったのです。隣町の公園に自転車で?そんなクレイジーな。
道路の車を眺めて過ごす?つき合う自信なし。
灼熱の公園で4時間?もっと自分を大切にしようよ。
もう私はあのころのようには頑張れない…。
幼稚園年少、初めての夏休みの過ごし方
それでもときどきは私のできる範囲でいろいろなことを経験させてあげたいと思い、ベランダに小さいビニールプールを出してみました。
いつの間にか持ち込んだミニカーをプールの中に並べて楽しそうに長時間遊んでいました。
室内遊具があるショッピングセンターに出かけてみました。
遊具に腰掛けて窓から外を行き交う車を眺めていました。
興味の幅を広げようと大きな本屋に行きました。
大人向けの輸入車のカタログをじっくり読んでいました。
特別なことをしたつもりなのに、若干空回り気味の車!車!車!な夏休みでした。
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同年代の子どもと比べていた3歳のころ。小学4年生になった現在は…
あのころはいろいろなことに興味を持つ同年代のお友達と比べて「車以外のことにも触れさせなければ、興味を持たせなければ」と必死になっていました。でも、スバルにとっては一つのことを探究するのが一番楽しい時間の使い方なのです。
スバルは車の車種名からカタカナとアルファベットを学びました。車の雑誌から漢字を学び、輸入車の本から国旗に興味を持ち100以上の国と国旗を覚えました。
1つのことにしか興味がないようにみえて、そこをベースにじわりじわりと興味の枝葉を伸ばしていくタイプなのです。
あれから6年。小学4年生になったスバルは車マニアからバスマニアになりました。
休日はひたすらバスで移動するだけのバス旅を楽しみ、自宅ではノートにバスの路線図を書いたり、タブレットの地図や時刻表のアプリを使ったりして、特定のバスを追跡するバーチャルバス旅をして楽しんでいます。
今年はバス!バス!バス!な夏休みになるでしょう。
執筆/星あかり
(監修:初川先生より)
「初めての夏休み」をめぐるあかりさんの悩ましい気持ちのエピソードをありがとうございます。
つい数ヶ月前の入園前の時期は来る日も来る日も近所の公園で車にまつわる時間を過ごしていたのに、園で元気に体力を使って帰って来る生活に親として慣れてしまったこと、そして「夏休み」とくくられると「何かいい経験をさせてあげないと!」と気負ってしまうこと。特に後者については同じように感じる読者の方も多いと思います(私もその一人です笑)。
さまざま工夫しても、すべては車に通ずる夏休み。
スバルくんの興味関心の強さを改めて感じる時間になりましたね。幼稚園保育園、また小学校での時間では、多かれ少なかれ集団で過ごすことも多く、なかなか自分の好きなことをめいっぱいやることは叶わないものです。
今までのレパートリーにはない経験をすることももちろん大事ですが、本人の興味関心をどっぷりと取り組んでみる時間も長期休みならではかもしれないですね。
そして、車を通じてさまざま世界が広がっていったとのこと。これは本当に大切なことで、1つのことだけ追い求めているように見えつつも、そこを入り口に世界は広がります。
お子さんの興味関心を、例えば勉強に関係ないからとか、将来役立たないからといって、勝手に価値を下げてしまうのではなく、そこが入り口となって、そこから広い世界を見ることができるのだとぜひ捉えていただければと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。