ギフテッドって何?特徴や教育方法について解説します
ギフテッドとは
「ギフテッド」とは、英語のgiftedの単語に由来しています。これは、「天賦の才を持つ人々」という意味で、同世代の子どもよりも先天的に高い能力を持っている人のことを表しています。
ギフテッドの人は、特定の学問や芸術性、創造性、言語能力などにおいて高い能力を持っています。ギフテッドの人が持つ能力を最大限発揮させるためには、通常の学校教育にあわせて、そのほかの個人の特性に配慮した支援、特別な教育が必要になると考えられます。
ギフテッドの人の一部には、発達障害や学習障害がある人もいるほか、感受性の高さなどからくるストレスに大きな悩みを抱える人もいます。ギフテッドだからといってひとくくりにするのではなく個人にあった支援や教育を検討していく必要があります。
なお、ギフテッドは医学的な診断名ではありません。また、日本において正式な定義もありません。
ギフテッドと聞いたとき、漠然と「天才」と思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。ギフテッドの人に多く見られる特徴として、幼少期から並外れた集中力や記憶力の高さをもっていたり、反復練習をほとんどしなくても運動技能や知識などを習得できることなどがあげられます。
社会性や情緒の発達の遅れ
ギフテッドの子どもの中には、ある特定の分野において突出した才能を示す一方で、社会性や情緒の発達に遅れを示す場合があります。そのため、同年代の集団になじめなかったり、強いこだわりを持つことで周囲とのコミュニケーションが取りづらくなるといった困りごとが生じることがあります。
特性ゆえの生きづらさ
ギフテッドの子どもは、特定の分野の才能が秀でている半面、そのほかの分野の苦手さが目立ったり、それがつらいと感じてしまう場合もあります。周囲から理解を得られにくいことも、本人の辛さの一因となります。
このように、高い能力に恵まれる一方で独特な特性ゆえの生きづらさを抱えやすい側面もあり、うつ状態にも陥りやすいことが指摘されています。
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001338441936000
参考:林睦「ギフテッドの概念と日本における教育の可能性」
過度激動
ギフテッドの特徴の一つに「過度激動」という概念があります。
これは、ポーランドの精神科医で心理学者であったドンブロフスキ(1902-1980)が提唱した概念で、日常の刺激を非常に強く感じることを指します。ギフテッドの高い能力とも関わる”刺激への反応の高さ”に起因し、感覚的な刺激や精神的な刺激に過剰に反応することです。
例えば、味覚や嗅覚、触覚や聴覚といった感覚が過敏で不快感が強かったり、喜怒哀楽などについても人一倍感じてしまったりすることがあります。
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001338441936000
参考:林睦「ギフテッドの概念と日本における教育の可能性」
ギフテッドの診断基準はある?
ギフテッドは医学的疾患名ではなく、医学的診断基準もありません。
ギフテッド教育が発展しているアメリカにおいては1972年に米国議会に提出された「マーランド報告」により「知性、創造性、芸術性、リーダーシップまたは特定の学問分野で高い達成能力を持ち、その能力を発揮させるために通常の学校教育以上の活動や支援を必要としている子ども」と定義づけられていましたが、そのあとは州によって変更が加えられていったため、アメリカ国内においてもギフテッドの定義は州によって異なります。
また、ギフテッドを知能指数(IQ)から判断する方法などもあるとされますが、現在ではIQのみでは測ることができない芸術性や創造性といった領域における高い能力についても含められており、ギフテッドを一概に判断することは難しいとされています。
サヴァン症候群とは?ギフテッドとの違いについて
ギフテッドと似ている概念として「サヴァン症候群」があります。いずれも医学的な診断基準はなく、現在の日本では正式な定義はありません。
サヴァン症候群は、知的障害や自閉スペクトラム症といった発達障害などがある人が、ある特定の分野において特異的な能力を有する場合を示す概念です。
ギフテッドは特異的に高い能力を持つ人々を指す用語で、発達特性の有無については前提としない点が異なります。
サヴァン症候群の例としては、「重度の知的障害があり、日常生活に常に支援を必要とする一方で、地図を暗記したり、見たものを写真のように覚えたりする」「読み書き障害があるが、一度聞いた音楽は完璧に演奏できる」などが挙げられます。
またギフテッドは、どちらかと言えば教育用語として用いられる概念とされています。
ギフテッドの教育について
日本においては令和3年から文部科学省によって「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 」とするギフテッドの学習支援についての検討が行われています。
精神面や社会面に難しさを抱える子どもへの対応
ギフテッドの子どもは、ある部分は非常に得意とする一方で、大きな苦手分野を併せ持つといった、領域によって発達の程度が異なるケースもあります。これは学習面においての凸凹だけでなく、日常生活においてもいえます。例えば、言葉や認知能力が非常に発達している一方で、精神面や社会面に難しさを抱える場合なども見られます。
ギフテッドの子どもは、同年代の子どもたちへの溶け込みにくさなどがある場合も少なくなく、学校で理解を得られなかったり不登校になったりすることもあるとされています。
日本においてもギフテッドの子どもにおける不登校の対応などについても検討がなされています。
個別最適な学び・協働的な学び
文部科学省は、学校におけるギフテッド教育の概要として、特異な才能のある児童生徒も含め、「個別最適な学び」を通してそれぞれの資質や能力を育てていき、「協働的な学び」という観点も大切にしながら子ども同士がお互いの違いを認め、学び合いながら相乗効果を生み出す教育が必要だとしています。
ギフテッドの子どもは、同年代の子どもよりも物事の理解が数段早いために、すでに理解したことを繰り返すことを極端に嫌う傾向があるともされています。
そのため、計算や漢字などのドリルの繰り返しを嫌がったり、すでに分かっている内容について丁寧に記述することをつらく感じたりすることがあります。
周囲の大人は、ギフテッドの子どものさまざまな性質について知り、一人ひとり異なる困りごとについて目を向け、理解していくことが大切です。
さらに、ギフテッド教育においては通常の学校教育以外にも、能力を伸ばしていくにあたって大学や民間団体などが担う役割が大きいともいわれています。
ギフテッドについてまとめ
ギフテッドの子どもは、高い理解力から本人の困りごとが周囲から見えづらいこともあり、学業成績に反映されない本人の訴えが、些細な問題として見過ごされてしまうことがあります。
ギフテッドの子どもは驚異的に高い能力を示す側面から「何も困っていない、何でもできる」と誤解されることもあります。一方でこだわりの強さや完璧主義・理想主義からくる自分自身への失望感や抑うつなど、さまざまな困りごとを抱えている場合があります。
そうした子どもの困りごとにも焦点を当て、学校教育にあわせて民間団体なども活用しながら、一人ひとりに合わせた対応をしていくことが大切だといえます。また、本人の持つ苦手な分野や領域をサポートしていく周囲の理解や協力が重要です。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01512.html
文部科学省 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001338441936000
林睦「ギフテッドの概念と日本における教育の可能性」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050287462775939584
日高茂暢「知的ギフテッドの子どもの持つ特別な教育的ニーズの理解」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050288469016634752
村山拓「米国におけるギフテッド教育に関する特性把握と対応をめぐる議論の特徴」
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。