療育手帳にデメリットはあるの?「息子は障害者なんだ」と涙したけれど…手帳を取得して変わったこと
「手帳は持っていますか?」何のことか分からずポカーン…初めて知った療育手帳の存在
私が初めて療育手帳の存在を知ったのは、息子が3歳のときでした。引っ越し先の発達支援センターに、療育を受けたいと相談しに行ったところ、相談支援員の先生から、サラッと「手帳は持っていますか?」と聞かれたのです。
先生は、何てことない質問の1つとして聞いただけのようでしたが、当時の私が「手帳」という言葉で連想するのは「スケジュール帳」。あまりピンとこず、ポカーンとしてしまったのを覚えています。
息子は1歳半から発達相談に行っており、2歳から療育にも通っていたため、引っ越し前の自治体でも発達支援センターには何度も足を運んでいました。しかし、引っ越す前の自治体では、どこにも私に療育手帳の存在を知らせてくれる人はいなかったのです。
このように対応に差があったのは、息子の年齢が幼かったこと、自治体ごとの方針の違いなど、理由はいろいろあったのだろうと思います。しかし私はその日、療育手帳にまつわる多くの福祉関係の情報を、一気に知ることができたのです。
引っ越し先の自治体の発達支援センターの相談支援員さんからは、「息子さんくらいの発達の遅れだと、療育手帳がとれないことはないと思う」とはっきり言われたのを覚えています。そのくらい、息子の発達は遅れていました。
しかし、すぐに療育手帳の取得を決めることもできず、とりあえず保留の状態で数ヶ月を過ごしました。
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療育手帳って何?取得するメリットは?
療育手帳は、3種類ある障害者手帳の中の1つです。
障害者手帳は、
・身体の機能に一定以上の障害がある人が取得できる「身体障害者手帳」
・知的障害のある人が取得できる「療育手帳」(名称は自治体によって違うことがあります)
・一定の精神障害の状態にある人が取得できる「精神障害者保健福祉手帳」(発達障害も対象になります)
の3種類あります。
息子が取得を検討していたのはこのうちの「療育手帳」でした。
療育手帳制度は自治体ごとに運用しているので、取得の流れや等級の判定基準、名称、受けられる支援など、地域差が大きいです。しかし、いずれにしろ、取得しているとさまざまな福祉サービスを受けられることに変わりはありません。
療育手帳を持っているかどうかで線引きされてしまうので、同じくらいの困りごとを抱えていても、持っているかどうかで受けられる支援に大きな差が出てしまうのです。
そのため、療育手帳を取得するメリットは大いにあると思います。
療育手帳のデメリットとは?
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では、逆に療育手帳を取得するデメリットはないのでしょうか?
実は、私は息子が療育手帳を取得することになかなか踏ん切りがつかず、「療育手帳の情報を得たい」と言いながら、デメリットを探しにいっていたような時期がありました。しかし、どんなに探しても、療育手帳を取得することにこれといったデメリットはなかったのです。
しいて言えば、「息子の障害を認めること」。これに尽きると思います。
療育手帳を持っていることは自分から言わなければ誰にも知られませんし、使わなければ提示を求められることもありません。しかし、公的に「障害者」だと証明されることに違いはないのです。
ですから、手帳の取得に躊躇してしまうのは、主に気持ちの問題かと思います。
息子に障害の診断が出たときが、手帳取得のきっかけになった
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すぐには息子の療育手帳の取得に動き出せなかった私ですが、その年の12月、息子が4歳になったとき、きっかけになる出来事がありました。息子が、発達検査で医師から正式に、「知的障害を伴う自閉スペクトラム症」と診断されたのです。
息子が1歳の終わりころから通っていた病院の主治医の診断でしたし、私も薄々、「何もないわけではないだろう」とは思っていました。しかし、まだどこかで「障害」という言葉を受け入れられない自分がいたのです。それが、白黒はっきりしてしまいました。
当時はものすごく落ち込み、将来への不安で頭がいっぱいになりました。
しかし、ちょうどときを同じくして、私には同じ療育に通う、息子と同じような障害がある子どもを育てるママ友ができたのです。
同じ立場にある仲間と過ごす時間の中で、自然と気持ちも和らいでいきました。さらにママ友同士で話す中で、私が躊躇していた療育手帳も、意外とみんな持っているんだということも知りました。このように、私はタイミングよく人に恵まれて、幸運だったと思います。ショックが大きかった障害の診断も、「息子に知的障害があることは変わらない事実なのだから、息子のためにできるだけのことをしよう」と切り替えられるようになりました。そして、療育手帳の取得に向けて、前向きに検討しだしたのです。
療育手帳が手元に届いた日、突きつけられた現実に涙「息子は障害者なんだ」
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息子に障害の診断が出てから約4ヶ月後の4月、ようやく私と息子は療育手帳の判定を受けに、児童相談所に行きました。療育手帳は、18歳未満の子どもの場合は児童相談所で発達検査や診断などを受け、取得の可否や障害等級の判定がなされます。私も児童相談所に予約を取り、指定された日に息子と一緒に出かけました。
息子はその日の時点で「中等度知的障害」を示す等級で、療育手帳の交付の判定を受けました。息子に知的障害があることは、すでに知っていたことです。そのため、私もその日はそこまで落ち込まずに帰ったのですが、その後、意外な感情の起伏がありました。
療育手帳はその場でもらえるわけではなく、判定を受けてしばらくしてから自宅に届きます。児童相談所に行ってしばらくたったある日、わが家にも息子の療育手帳が届きました。すると、初めて息子の顔写真が載った実物の療育手帳を見たとき、私の目からふいに涙がこぼれたのです。頭では分かっていても、実際に手にすると、「息子は障害者なんだ」という現実を突きつけられたようで、複雑な気持ちを抑えきれなくなってしまったのを覚えています。
手帳の取得に後悔はゼロ!息子と私たち家族を助ける後ろ盾のような存在
息子は今8歳になりました。
特別支援学校に通う小学3年生です。
障害の診断が出て、療育手帳の取得を決め、手元に届いた療育手帳に涙した日はもはや4年前。今の私たち家族の生活にとって、息子の療育手帳はなくてはならない存在です。療育手帳によって受けられる福祉サービスで、息子も私たち家族も、安定した生活を送ることができています。
療育手帳の取得に迷ったこともありましたが、今の私がはっきり言えるのは、「療育手帳の取得に後悔はゼロ!」だということです。もし、少しでも手帳に興味がある方がいたら、まずは自治体の障害福祉課や、発達支援センターなどに問い合わせてみてください。このコラムが、誰かの困りごとを少しでも減らす後押しになったらうれしく思います。
執筆/べっこうあめアマミ
(監修:藤井先生より)
療育手帳は、療育などの児童発達支援を受けている方の全てが取得しているわけでもないので、ご存知ない方も多くいらっしゃいます。
べっこうあめアマミさんが、療育手帳について書いてくださったことで、取得に迷われている方や、知らずに福祉サービスが受けられないと困っている方にとって、後押しになったと思います。ありがとうございます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。