3歳自閉症息子、入園式では床に寝て、脱走を繰り返す日々ーー年長さんからの「クレーム」が成長のきっかけに…?
自閉スペクトラム症と診断された、プレ幼稚園でのスバル
スバルは3歳まで言葉がほとんど出なかったものの、一対一なら話が通じ、人が好きで興味があることには集中して座っていられるので、プレ幼稚園に入るまでは「言葉が遅い以外に困りごとはない」と思っていました。
プレ幼稚園では、先生がクラス全体に呼びかけた「お片づけの時間だよ」などの指示が通らなかったり、私が膝の上でホールドしていないと絵本の時間に歩き回ってしまったりと集団生活の中でのスバルの様子を始めて知ることとなりました。クラスメイトたちが入園から3ヶ月ほどで母子分離通園になっていく中、スバルと私は居残りで母子同伴通園を続けていました。
そんな中、プレ幼稚園から「発達検査を受けて診断書を提出してください」と言われたのです。そして、自閉スペクトラム症と診断され、診断書を提出すると同時に退園を言い渡されました。その後、新たに幼稚園探しをはじめた結果、信頼できる幼稚園に出合い、無事に年少からその幼稚園に入園することができました。
幼稚園入園式でのスバル
幼稚園の入園面接でスバルのありのままをさらけ出して入園が認められたとはいえ、できることなら入園式くらいは問題なく目立たず無事に終わって欲しいと思うのが親心。いや親心というよりは私が目立ちたくないだけです。
それは仕方ない。人間だもの。
入園した幼稚園ではプレクラスには通っていなかったものの、先生のご厚意で入園前からお遊戯室や園庭で行われるイベントに呼んでもらっていました。
入園式は何度も来たことがあるお遊戯室で行われたので、スバルは比較的落ち着いて座っていることができました。
椅子から立ち上がりそうになったことも何度かありましたが、私が穏やかな母の顔をしながらゴリラのパワーでスバルの腰を掴んでいたので、誰にもバレずにやり過ごしました。
スバルは大声を出すタイプじゃなかったので静かな攻防戦はセーフにカウント。
ホッとしたのもつかの間、各クラスに移動して担任の先生のお話を聞く時間にスバルが床に寝転がったので肝が冷えました。椅子じゃなくて床に座っていた子が1人、泣きながら保護者に抱っこされていた子が2人いたので私の中ではギリギリセーフで目立っていないにカウントしました。
嘘です。完全に「スバルはこんな子!」という自己紹介をその場にいた全員にすることになりました。
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脱走し車を眺める…幼稚園入園後のスバル
入園直後のスバルの連絡帳には毎日「今日も廊下の窓から駐車場の車を見ていました」と書かれていました。休憩時間の話ではありません。クラスで過ごす時間中に脱走しているのです。駐車場が見える窓は教室を出てすぐの場所なので、担任の先生が見守ったり別の先生がつき添ったりしてくださいました。
先生は「慣れてきたら落ち着くと思いますよ」と言っていたし、私もそう思いました。スバルは初めての場所ではさんざん探検したり隅々までチェックしてからやっと落ち着くのです。
家で「教室から勝手に出てはいけないよ。椅子に座って話を聞くんだよ」と言って聞かせるときには「うん」と真剣な目でうなずくのですが、翌日そのやりとりが反映されていることはありませんでした。
年長のお姉さんとの出会い
入園からしばらく経った頃、幼稚園にスバルをお迎えに行くと年長の女の子2人組に話しかけられました。「あの、この子のママですか?」「この子毎日年長の教室に来るんですけど」どうやら自分のクラスを抜け出して年長の部屋まで足を運んでいるらしいのです。
落ち着くどころか行動範囲を伸ばしとるやないかい!
それから毎日、お迎えの時間になると年長の女の子2人組が話しかけてきました。
「お遊戯室で勝手に手を繋いで年長の列に並んでいた」「工作の時間にやってきて隣で粘土をこねていた」など連絡帳にも書かれていない、やりたい放題を暴露されるスバル。
なるほど……お迎えの時間に毎日話しかけて来るこの2人組のことを、スバルはかまってくれる仲良しのお姉さんだと思っているのね。
残念!これ、クレームですから!!
ある日いつものようにクレームを聞き「うちの子がご迷惑をおかけし……」と頭を下げているときにふと「まだまだ勉強中ですので、この子のことをよろしくお願いします」と一言加えました。
ただの思いつきでしたが、女の子たちは「しかたないな」「私たちが面倒見てあげる」と表情を変え、友好ムードになりました。
その日からお姉さんは強い味方になりました。
イベントで並ぶべき時間にウロウロしていたら一緒に並んでくれ、教室から脱走していたら連れ帰り、ブランコの交代のタイミングを厳しく教え、幼稚園でのルールや社会でのマナーを叩き込んでくれたのです。
すぐに変化が現れたわけではありませんでしたが、年少の6月のある日からピタッと歩き回らなくなり、座るべき時間に座り、話を聞くべき時間に話を聞くようになりました。
話は聞いているだけで右から左へ抜けてしまっているみたいでしたが、それでもスバルの中で点と点が繋がるような何かがあったのだと思います。先生たちが毎日スバルと向き合ってくださったことはもちろん、年長のお姉さんたちの影響はかなりあると思います。
それをきっかけにスバルは集団生活のコツをつかんだようで、少しずつクラスへ馴染んでいきました。
スバル一人と向き合うとたくさんの困りごとがあるのですが、3歳になったばかりの子どもと4歳の子どもが一緒に活動する「年少クラス」という空間では個人個人の成長の差が激しく、スバルの困りごとは飛び抜けて目立つものではなくなりました。
入園当初は完全に集団からはみ出た存在でしたが、年少の終わりには「ちょっと変わったクラスメイト」くらいの存在になりました。
集団の中で楽しく活動に参加する様子は1年前の入園当初には考えられない光景でした。
年中になり、周りの子どもたちの成長に置いていかれる形でスバルの困りごとが目立つようになりますが、それはまた別の機会に……。
年長のお姉さんとの思い出
放課後の園庭でスバルにブランコの漕ぎ方を叩き込んだのもお姉さん。
年少の終わりころまでできなかった両足ジャンプをときにはスパルタで教えたのもお姉さん。
滑舌が悪くて単語で話すスバルの言葉が聞き取れず「この子何言ってるか分からない」と私に耳打ちしつつも根気強く遊んでくれたお姉さん。
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お姉さんたちの卒園とともにご縁は切れてしまいましたが、スバルの年少時の成長にかなりの影響を与えてくれたお姉さんたちには感謝しかありません。
「スバルもこんな素敵な年長さんになれますように」と思ったのを覚えていますが、スバルはスバルらしく独自ルートの素敵な年長さんになったので、それはそれで。
執筆/星あかり
(監修:新美先生より)
幼稚園でのお姉さんとの出会いのエピソードを聞かせてくださりありがとうございます。
親から離れて園での生活が始まり、保護者としても気が気じゃない入園当初の日々、最初は「クレーム」!?から始まりながらも、お姉さん心をくすぐったのか面倒を見てくれて、さまざまな影響を与えてくれたってなんだか素敵ですね。
きっとお姉さんにとっても楽しい日々だったと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。