2024年春新設!南多摩支援学校(仮称)の特色は?職能開発科のカリキュラム、想定する卒業後の進路とは?ーー校長インタビュー
高まる特別支援学校のニーズ
編集部(以下、――)まずは特別支援学校の現状について教えてください。
濱辺清先生(以下濱辺先生):東京都には現在、58校の都立の特別支援学校があります。来春に開校する南多摩地区特別支援学校(仮称)は、59校目の学校ということですね。都の推計では、中学校に設置されている特別支援学級の生徒は、年々増えています。とくに情緒障害などの特別支援学級の生徒は急増しています。本校開設の背景にも、中学卒業後の進路としてさらなる学びの場が必要とされている、ということが挙げられます。
――南多摩地区特別支援学校(仮称)は、どんな学校ですか?
濱辺先生:本校は知的障害のあるお子さんのための高等部で、普通科と職能開発科の2つの科を併設します。普通科は、町田市(一部)、八王子市(一部)、多摩市(一部)のエリア内にお住まいの知的障害のあるお子さんなら、希望すればすべての方が入学できます。
もうひとつの職能開発科は、都内全域から募集し、調査書と適性検査、面接で選考を行います。
――職能開発科では、どのようなことを学ぶのですか?
濱辺先生:専門的な職業教育を受けられる東京都立の知的障害特別支援学校は、永福学園をはじめとして複数設置されており、本校は12校目です。他校の同様の科では、卒業生の就職率は約95%、卒業後3年の定着率も9割を超えます。本校でも卒業生全員の企業就労を目指したプログラムを準備しています。もちろん職業トレーニングだけでなく、国語や数学などの教科学習、部活動などの課外活動もしっかりありますよ!さまざまな活動を経験しながら、3年間で社会に出て働くスキルを身につけていきます。
仕事を学ぶための専門的な機材、環境も完備
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――これまでの職業訓練と違う特徴はありますか?
濱辺先生:職場に近い環境で実習ができるのは、大きな特徴です。あいさつや身だしなみ、報告・連絡・相談の習慣づくりなど、社会人としてのマナーやルールを学ぶだけでなく、OA機器の使い方、飲食業における衛生管理など、専門的なスキルの習得が期待できます。カフェさながらの実習室なども計画していて、在学中から実際の職場に近い雰囲気を感じながら学ぶことができますよ。
また、教員が教えるだけでなく、実際にお仕事されている方を講師として招き、授業をしていただく計画もあります。プロの技に触れることで、将来の具体的なイメージを持ちながら、緊張感をもって真剣に学んでいただけたらと考えています。
――卒業生の就職先としては、どのような仕事を想定されていますか?
濱辺先生:東京都の特別支援学校卒業生の就職先として最も多いのは事務系の職種で、3割強を占めます。東京都には、本社機能、総務機能を置く企業が多いことが関係しています。本校でも、事務系の仕事に必須のパソコン入力、印刷機器の活用法、社内メールの仕分けや郵便物の封入、発送作業などは3年間を通して、継続的に学んでいきます。
――就職先となる企業との連携は、どのように進められるのでしょうか?
濱辺先生:まずは教員が窓口となって関係性をつくっていきます。ただ、私のこれまでの経験から強く感じるのは、最終的に学校と企業との絆を強く結んでくれるのは、生徒同士の力だということです。卒業生が就職した企業に、翌年、在学生がインターンシップで実習に行く。
そこで先輩の働く姿を見て、実際に指導をしてもらう。卒業生が社会に出るにつれ、こうした輪がいくつもできます。学校を発展させていくのは、生徒の力、社会でひたむきに頑張る卒業生の力なのだと実感しています。
リアルな職業体験を積んで社会へ
――すばらしいですね!2024年入学の1期生もインターンシップの予定はありますか?
濱辺先生:現在の計画では、1年生では半日程度の職場見学で、食品、物流、事務、清掃など、さまざまな現場をまわろうと考えています。2年生からは5日~10日ほどの実習を年に2回ほど予定しています。学校で行った模擬実習を、実際の職場で応用実践していく。大きく成長する機会になるだろうと考えています。
――在学中から会社の雰囲気や働く人の様子を見ることができると、将来のイメージを持ちやすいですね。
濱辺先生:そうですね。職業経験はもちろん、行き帰りの通勤体験も、子どもたちにとっては学びです。例えば電車が事故で遅延したときは、どう対応したらいいか?咄嗟の場面への対応力は、机上の勉強だけではなかなか身につきません。うまくいかないことがあっても、高校生の実習ですから当たり前、気にすることはありません。失敗したり迷ったりしながら経験を積むことが、将来の糧になります。
一人ひとりに合った仕事、職場を見つけるために
――卒業後の就職先は、どのように選定していくのでしょうか?
濱辺先生:一番大切なのは、お子さん本人の希望です。ただ、「やりたい!」という気持ちだけでは、うまくいかないことがあるのも仕事ですね。普段の授業や実習、インターンシップでの様子などを総合的にアセスメントし、学校からも特性とマッチするような職種、職場を提案していきます。
――職場に定着し、長く働き続けるためには適性も大事ですね。心強いです!
濱辺先生:長く高等部の特別支援教育に関わってきて思うのは、当たり前のことですが、この年代のお子さんは「青年」で「高校生」なんです。障害の有無に関わらず、自分のアイデンティティがしっかり確立される時期です。障害があるからといって子ども扱いしたり、よかれと思うことでも周囲の人が上から押しつけるようなやり方では、反発して当然です。「この通りにやってください」というだけでは反発してやらない生徒も、「この方法でAをBの状態にすると、早くきれいにできます」と伝えると、理解が深まってスムーズにできるようになることも。一面だけで適性がない、特性に合わないと決めつけず、生徒たちのプライドと意思を尊重しながら育てていきたいですね。
豊かな高校生生活が人生の宝物に
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――部活動なども楽しみですね。
濱辺先生:初年度は人数の関係で、サッカー部、バレー部などの個別の部活を編成するのは難しいため、開校後3年くらいは運動部、文化部という大きなくくりを考えています。
運動部なら、シーズンごとに陸上やサッカー、バスケットなど、さまざまなスポーツを楽しみます。文化部でも絵画、調理、音楽演奏など、多様な活動を構想中です。部活動は、学年を超えた縦の学びができる機会でもあります。大事にしていきたいですね。
――職能開発科には、どんな生徒に入学してもらえたらと考えていますか?
濱辺先生:職能開発科は専門的な職業教育を行う科ではありますが、中学生では、将来の仕事像はまだ漠然としているかもしれません。高校卒業後は就職したいという気持ちがあれば、十分です。――現在、開校準備の真っ只中ですが、新しい取り組みがありましたら教えてください。
濱辺先生:校章デザインを、地域の高校生から公募しています。
地域との連携や同世代の子どもたちとのつながりも、共生社会を創るうえでの大事なポイントです。校章デザインの公募はおそらく都立学校でも初めての試み、私たちも楽しみにしています。
子どもの可能性を信じて
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――開校にあたっての思いをお聞かせください。
濱辺先生:本校のモットーは、信頼(Confidence)、協働(Collaboration)、挑戦(Challenge)の3つのCです。この3つのCをもとに、一人ひとりを大切にした学校をつくっていきたいと考えています。生徒はもちろん、保護者、教員、子どもを中心とした学校を取り囲むすべての人の声に耳を傾け、「この学校があってよかった!」と思ってもらえる場所にしていきたいですね。
――発達ナビは、障害や発達に特性があるお子さんの保護者の方が多く利用してくださっているサイトです。最後にそのような保護者のみなさまへのメッセージをお願いします!
濱辺先生:子育ての中では、苦労すること、不安なこと、大変なこともたくさんあると思います。同時に、お子さんの未来に期待し、応援するあふれるばかりの熱い思いもお持ちでしょう。これまでの教員生活で、私は保護者のみなさまの熱い思いに何度も触れ、育てていただいてきました。お子さんの未来を支えるのは、その熱い思いと、ときに客観的な視点から冷静に見守る視点だと思います。親の立場からみると、お子さんの苦手や不得意ばかりが目について、不安になることもあるかもしれません。でも、学校という環境に入ると、「苦手」「興味がない」と思っていたことにも意外な積極性で取り組めたり、面白さを発見できることもあります。お子さんの可能性を信じて、学校に任せるところは任せてください。手を取り合い、お子さんの未来をいっしょに考えていけたらと思います。
南多摩地区特別支援学校(仮称)開発準備担当校長
濱辺 清先生
大学卒業後、青鳥養護学校、永福学園等で教鞭をとり、長らく進路指導に携わる。
教育庁都立学校教育部特別支援教育課指導主事、教育庁指導部特別支援教育指導課指導主事、中部学校経営支援センター統括学校経営支援主事、教育庁指導部特別支援教育指導課統括指導主事を経て、現職。(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
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