感覚統合って何?運動が苦手、不器用、感覚過敏な自閉症息子には必要?子どもの「遊び」にヒントあり?/作業療法士に聞く
感覚統合とは…何をしたらいいの?
ゆきみ(以下、ーー):自閉スペクトラム症がある長男けんとは、
・身体を動かすのが苦手
・手先がとても不器用
・感覚過敏だと思われる場面が多く見られる
ことから、年少の頃から月に1度、作業療法へ行っていました。そのときに作業療法士さんに「感覚統合をしていったほうがよさそう」と言われました。感覚統合ができる施設があるのか……などと調べてみたり、本を読んでみたりしましたが、具体例が多すぎてどれを選んでいいのか分かりません。
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本で読んだ中からいくつかチョイスして、家で「カゴにボールを投げ入れて、何点!」みたいなゲームをやってみたりしますが、「これで合ってるのかな?」と不安になることも。
どうやれば、感覚を統合できるのでしょうか?そもそも、感覚統合って何なのでしょうか?
感覚統合の捉え方…作業療法士野田先生からの回答は
野田先生:感覚統合とは「感覚統合療法」という作業療法の手法で使われる用語で、複数の感覚を整理したりまとめたりする脳の機能のことです。感覚統合療法は発達に関する困りごとがあるお子さんを支援するためのアプローチで、その特定の困りごとや、発達の特性に対して行います。感覚の困りがあるからといって、必ず感覚統合療法をするべき、というわけではありません。
人は外から入ってくるさまざまな刺激を、皮膚や筋肉などから感じ、感覚をまとめあげて身体を動かしたり、世界と関わったりしていきます。
そのバランスがとれていなかったり、処理の仕方に偏りがあったりすると、「身体をうまく動かせない」「ざわざわする場所が苦手」「人より光を眩しく感じてしまう」「腕の曲がり具合が上手くつかめないのでダンスのまねができない」などの困りが生じます。
上手く統合できていない感覚に対してのアプローチ方法として編み出されたのが感覚統合療法ですが、感覚や運動にまつわる全ての困りごとを解決するわけではありません。合っているお子さんに、合ったやり方をすると効果が出るものだと思ってください。
実は感覚統合療法以外にもさまざまなアプローチの方法があるので、「感覚統合」というものに必要以上にとらわれる必要はありません。
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例えば……身体の感覚がつかめない、姿勢が崩れても気づかない、というような場合、身体の感覚に気づきやすい活動をしていきます。この場合一つの方法として、狭いトンネルをくぐる遊びをすると、頭が当たらないように気をつけることにより、トンネルの大きさと自分の身体の大きさの関係をつかむというアプローチになります。
一つひとつの困りに適した対応にはいろいろな進め方がありますが、感覚統合療法は一つの候補になるかもしれません。
そういう捉え方ができるといいかなと思います。
いろいろな角度からアプローチ
ーー「感覚統合」というワードにとらわれすぎず、一つひとつの困りごとに、いろいろな角度からアプローチしていくのがいいということですか?
うちの息子は身体を動かすのが苦手で、縄跳びを上手に飛ぶことができません。これに対して、どのようなアプローチ方法があるのでしょうか?
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野田先生:「トップダウンアプローチ」と「ボトムアップアプローチ」というのがあります。トップダウンアプローチでは、「縄を素早く回す」というように具体的なスキルに焦点を当てて練習をします。
ボトムアップアプローチは、筋力をつける、身体の感覚をつかむ能力を育てるなど、特定の運動ではなくさまざまな動きや訓練を通して運動に関わる機能を育むものです。
感覚統合療法は、遊びの中でいろいろな身体の使い方を学んでいくものなので「ボトムアップアプローチ」にあたります。
年齢やスキルの習熟度にもよりますが、「縄跳びができるようになる」ためには、どちらのアプローチも大事です。
ーー学生時代、私はバスケットボール部だったのですが、部活でやっていた「シュート練習」と「筋トレ」どちらも大事みたいな感じですか?
野田先生:そうです!そのような「スキル獲得の練習」と「筋トレ」の違いだと思ってください。ボトムアップ・トップダウンのどちらのアプローチが適切かは、お子さまの状態や年齢によって異なります。
専門的な分析が必要な場合は、作業療法士などの専門家にたずねてみてくださいね。
~対談を終えて~
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野田先生からのお話しで「感覚統合しなきゃ!」と、抱えていた不安がとても和らぎました。「大人にとっての筋トレ」=「子どもがたくさんの種類の遊びをすること」なのかな?と思いました。「感覚統合」という言葉にとらわれず、たくさん遊ぼうと思います!
公園の端にある石の上をバランスを取って遊び歩くのも、新聞紙を丸めてチャンバラして遊ぶのも、風船が床に落ちないように上に叩きあげて遊ぶのも……、子どもが行う小さい遊びの一つひとつが、身体や感覚をつくり上げていくんだなぁと。
その際に、一つの遊びをやるというより、いろいろな種類の遊びをすること、身体を動かすさまざまな経験をすること、というのを頭の片隅に入れていくとよさそうですね。それらの中に、もしかしたら感覚統合療法が入っているのかもしれません。
とはいえ小学生になり、縄跳び、ドッジボールなど、特定のスキルが必要な場面も多くなってきました。焦らずゆっくりと、トップダウンアプローチもやっていこうかと思います。
執筆/ゆきみ
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。