発達凸凹長女「やる気がない、ふざけている」と叱責された学生生活。真面目なのになぜ?大人になって発覚した理由とは
吹奏楽部の顧問から強く叱責されてしまう
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わが家は母である私・ワッシーナを筆頭に、家族のほぼ全員が個性いろいろな発達凸凹タイプです。それぞれの特性をキャラクター化しており、動物の顔をしています。
中学生になった長女ニャーイは、音楽が好きだったこともあり、友人に誘われて吹奏楽部に入部しました。
ニャーイはフルートを担当することになり、熱心に部活の練習に通ううちに、だんだん上達してきました。そのうち、フルートのパートでリーダーとしての役割を担うようになりました。
ところが、せっかく実力が認められてリーダーになったのに、ニャーイ自身はだんだんと暗くなって落ち込んでいくのです。
私は気になってしまい、部活で何があったのかを、本人からじっくり聞き取ることにしました。
すると、ニャーイは部活の顧問から「やればできるのに、ちゃんとやろうとしない」「やる気がない、ふざけている」と強い叱責を受けていると言うのです。
私はとても驚きました。家庭の中でのニャーイは家事の手伝いもきちんとこなすし、家庭学習も毎日しているし、性格も素直で真面目です。こんな彼女が、好きな音楽に真面目に取り組まないなんてありえないと思ったからです。
きっと顧問の誤解だろうと感じましたが、よく考えると小学校時代の担任からも「やればできる子なのに、きちんとやろうとしない」というふうに学習態度をよく注意されていました。
この学習問題の時、私はニャーイの性格からして悪ふざけをして勉強していないとは考えられなかったし、成績は標準くらいあったので「まぁ、そのうち良くなっていくだろう」と楽観的に考えていました。
この部活の問題もどこかで繋がっているかもしれないと感じていましたが、どう考えてもよく分かりません。
この誤解をどう解決すべきか思い悩み、夫ラクマに相談しました。すると彼は少し憤慨して「それは絶対に誤解だから、顧問の先生に会いに行ってくる」と言うのです。
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部活の顧問と話し合い誤解を解く
ラクマはめったに着ないスーツに袖を通し、ネクタイを締めてニャーイの通う中学校を訪ね、部活の顧問と面談をしました。改めてニャーイの部活での態度を確認すると、顧問の発言はニャーイ本人が話した内容通りでした。
「楽譜は読めるし、演奏もうまい。なのに、譜面通り、きちんと演奏しない」ということでした。
ラクマは、ニャーイの幼少期から現在まで、いかに真面目で素直な性格であるか、家庭学習や家の手伝いもちゃんとする子かを説明しました。
顧問が「やればできるのに、ちゃんとやろうとしない」と言う原因はよく分からないけれど、決して悪ふざけや怠けがあるわけではないことを力説したそうです。
ラクマの熱意が伝わったようで、その後は顧問からニャーイに強い叱責はなくなりました。
でもニャーイに対する根本的な問題が解決したわけではないので、私はずっと心に留めていました。
16年後、「やればできるのに、ちゃんとやろうとしない」問題の根っこに気づく
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ニャーイの部活トラブルから16年後のことです。長女ニャーイは30歳になっていました。
その頃のわが家は、夫ラクマ以外の家族全員が発達凸凹の当事者であることが分かっていたので、各地で体験発表や当事者支援活動を行なっていました。
そこへ、家族ぐるみでお世話になっているある方から夫ラクマへ、催しの運営の依頼がありました。
「学校の視力検査では発見できないような、読字の問題解決について書いた本の著者と知り合いになった。地元に招聘して地域貢献のイベントを行いたい。運営を手伝って欲しい。ラクマ家の活動と近いかもしれない」という内容でした。
ラクマは依頼を快諾し、その講演は地元で3回開催されました。
チェックを受けて問題の核心を知る
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その講演で紹介された、物の見え方に関する簡易チェックを家族全員で受けてみたところ、講師から「長女ニャーイさんと次男ウッシーヤさんには、読字の問題があるようです」と言われました(この講師は医師ではなく、診断を受けたわけではありません。あくまで当時の体験をもとに書いています)。
今思えば、「ディスレクシア」に近い症状があったのだと分かります。
なかでもニャーイは症状が重いらしく、講師から「縦書きの文字はかなり読みづらいはず。パソコンで変換して横書きにして読むと読みやすいと思います」とアドバイスされました。
また当事者の疑似体験ができるコーナーで、私は講師から「ニャーイさんの見え方が疑似体験できるメガネをかけてみてください」と言われ試してみました。
すると、メガネをかけたとたんに目が回りました。
手元にある本を読もうとすると、本の中央の綴じ目にある余白部分と、紙面の文字がいくつも重なって暴れて見えるので、とても読めたものではありませんでした。
私は心の底から驚きました。ニャーイに「こんなに読みづらくて、よくやってこれたね」と声をかけました。
すると彼女は「生まれつきだから、変だとか苦しいとか思ったことがない」との返事でした。
ニャーイが学校で「能力があるのに勉強をしない」「演奏がうまいはずなのに怠けている」という誤解を受けた原因は、文字や楽譜がうまく読めていないことだったのでは……と気づきました。
また、ニャーイは高校からオールイングリッシュで学ぶインターナショナルスクールに進学し、そこで学力の目覚ましい進歩を遂げたのですが、それももしかすると、縦書きの日本語よりも横書きの英語での学習が本人に合っていたからなのかもしれません。
ニャーイは今、英語と絵と音楽を仕事にしています。早い段階で、自分に合った環境に身を置き、自分の特性や得意な部分に気がついたからこそ、実現したことではないかと思っています。
執筆/ラクマ/ワッシーナ/ニャーイ
(監修:森先生より)
「ディスレクシア」は、学習障害のひとつで、文字の読み書きが困難である状態を示します。文字の一つひとつが分かっていても、単語として認識しづらかったり、うまく文章として認識できないので、時間がかかったり間違えてしまうのです。「音韻処理」といって、「文字を見てその読みを頭の中でスムーズに処理する」という機能に困難があるのではないかと言われています。
一度文章や楽譜の内容を理解して覚えてしまえばその後はスムーズに読めることが多いのではないでしょうか。本人は真面目に努力しているのに、周囲からは「本当はできるのに、わざと間違えているのでは?」と誤解されてしまうこともあり、とってもつらいですよね。「ディスレクシアではないか?」と思ったら、単語や文の切れ目に補助線やスペースを入れたり、色をつけて単語のまとまりを分かりやすくしたり、音読をしてあげて理解を手伝ったりと、いろいろな方法を試してみましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。