「優秀な怠け者」と言われた発達凸凹長女。不注意で入選作品焼失、スケジュール管理ができず運転免許取得に10年…問題解決のためにした4つの工夫
成績は良いのに提出が遅いため、教授から優秀な怠け者と注意される
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わが家は母である私・ワッシーナを筆頭に、家族のほぼ全員が個性いろいろな発達凸凹タイプです。それぞれの特性をキャラクター化しており、動物の顔をしています。
マイペースな長女ニャーイは、高校卒業後に渡米し、フロリダ州の大学で美術を専攻しました。
油絵で個展を開くことを目標にして、デッサンや油絵の学びを続けていました。
ニャーイは幼い時から好きなことに没頭すると時間の感覚がなくなります。彼女はアメリカの大学でも日本と同じような、おっとりとしたペースで過ごしていたようです。
学内で絵を描いていて、ふと気がつくと締め切り当日かつ、時間がギリギリのことが多かったようです。
提出する時は、だいたい指導教授の研究室まで猛ダッシュして届けていました。
絵の作品を受け取った教授は「いつも時間ギリギリなのに、なんで出来が良いんだ?」と不思議がりました。作品の出来の良さがかえって仇となり、「君は優秀な怠け者だな」と誤解されてしまいました。
つまり大学でもニャーイは、能力はあるのに怠けているというふうな見られ方をされてしまったのです。
学内コンペで入選した作品を自分の不注意で燃やされてしまう
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ニャーイはめきめき画力をつけていき、大学内の作品コンペで入選を果たしました。数百人いる全学年から選ばれた2人のうちの1人だったそうです。とても名誉なことですが、残念ながらその作品は、今はもう見ることができません。
ニャーイの通うフロリダの大学では、夏期休暇中は学園の校舎をイベントなどに貸し出すため、学生の私物はすべて持ち帰ることという学内ルールがありました。もし学内に忘れ物をしたら、すべて例外なくゴミとして燃やされるというものです。
ニャーイは、この学内ルールをすっかり忘れて、自分のロッカーにこれまで描きためた作品をすべて置いて帰国してしまったのです。
長い夏期休暇が終わり、新学期になって登校したニャーイは、コインロッカーにあるはずの私物や作品がすべて消えているのに驚き、さんざん探し回ったあとに、ゴミ焼却炉で燃やされたことを知ったのでした。
2回も期限切れし、自動車の運転免許取得にのべ10年かかってしまう
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ニャーイはアメリカで自動車の運転免許取得にもチャレンジしました。
アメリカは日本より運転免許が取りやすいと言われていたので、自転車に乗れなかったニャーイでもなんとかなるのでは、と私は気楽に考えていました。
ところが、私の楽観的な予想は外れ、ニャーイはアメリカ滞在中に運転免許が取れませんでした。
外国人であるニャーイのために、免許取得を手伝おうとしてくれた人たちがいたそうなのですが、彼らが怒って帰ってしまう事態が続出したからのようです。でも、本人からの説明ではなぜうまくいかないかという理由がよく分かりませんでした。
その後、帰国したニャーイは地元で自動車教習所に通いましたが、なんと免許取得にのべ10年もかかってしまいました。
2回の講習期限切れののち、3回目にやっと取得できました。
技能テストや試験ではパスできるのですが、有効期限内に受講したり受験したりするスケジュール管理が恐ろしいほど不器用だったのです。
特性に気づき工夫の習慣化で問題解決へ向かう
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学生時代のニャーイをふりかえると実行機能がうまく働いていないことがよく分かります。やるべきことは分かっていても、締め切りから逆算して予定を立てることや、日々の優先順位の立て方がうまく機能していないのです。
ニャーイ自身もその後、さまざまな工夫を行ううちに、次第にそのことをよく分かるようになってきて、現在は住まいの中で4つの工夫をしています。
①玄関先に貴重品入れを用意する
鍵や財布など、外出先でないと困る貴重品などの置き場を備えています。
②カレンダーに予定を記入
玄関先に月ごとのカレンダーを配置し、日々の空欄に予定を書き込んでいます。カレンダーを見た家族が予定に気づいて知らせる効果もあります。
③リマインダー係を決める
家族の中に声かけ係を作り、予定が近づいたら声かけをしてもらっています。
④毎週ふりかえりを行う
以上のことを定期的にチェックするために、毎週末に同じ人と同じ時間でふりかえりを行なっています。
これだけ周到な工夫をしても、忘れ物は消えません。
小さな忘れ物やトラブルはたびたび起こります。トラブルを楽しめる心の余裕が一番大切なのかもしれませんね。
執筆/ラクマ/ワッシーナ/ニャーイ
(監修:新美先生より)
娘さんの貴重な体験を聞かせてくださりありがとうございます。
ニャーイさん、高校卒業後米国留学されるような実力を持ちながら、持ち物やスケジュール管理などに致命的な困難さをあわせもつ凸凹の様子がとても分かりやすく伝わってきました。
予定管理や持ち物管理などは、子ども時代は大人のサポートやフォローが必要ですが、大人になるにつれて段階的に本人主体にしていく必要があります。
これについては、本人が自分の特性を自覚することで、初めて、何らかの工夫をしたり、周囲にサポートを求めるなどができるようになるので、その過渡期に自覚につながるようなまぁまぁのエピソードに直面することが良いきっかけになるかもしれません。ニャーイさんは、保護者のサポートが得にくい留学先での経験や、免許取得の道筋などを経て、自分の特性を乗りこなす工夫を身につけていったのでしょうか。具体的な工夫も詳しく教えて下さり、勉強になりました。ありがとうございました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。