発語のない自閉症息子、意思疎通の方法は?クレーンが目立った幼少期、小学生になった今は
息子の意思表示の方法は主にジェスチャー&クレーン
自閉スペクトラム症のある子どもによく見られる行動の一つに、「クレーン現象」というものがあります。クレーン現象とは、子どもが何かをしたい時に、自分ではなく大人の手を使って、物を指したり、物を取ったりして、意思表示や欲求を満たそうとする行動です。乳幼児期の息子の意思表示の方法は、主にこのクレーン現象だったと記憶しています。
しかし、息子のクレーン現象は今もゼロではありませんが、徐々に減っていきました。そして現在は、クレーン現象の代わりに場面に応じたジェスチャーが、息子の主な意思表示の方法となっています。
私たち家族は言葉で息子に気持ちや指示などを伝えますが、息子はさまざまなジェスチャーで、それに応えてくれているのです。
息子の気持ちを伝えるジェスチャー、どんなものがある?
では、息子はどのようなジェスチャーで意思を伝えているのでしょうか?息子が使う主なジェスチャー(しぐさ)は、次のようなものです。
「いってきます」「ごめんなさい」「ありがとう」「こんにちは」など、息子が最も多くの場面で行うしぐさです。
親である私もお辞儀や会釈をすることが多いからか、息子もそれを見て自然と身についたようです。
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「それください」「ごめんなさい(より深い反省をこめて)」などの意味で使います。
お辞儀をより丁寧にした印象です。
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「ちょうだい(『それください』よりもフランクな印象)」の意味でよく使います。
ほかにも、「いってきます」「ありがとう」などポジティブな気持ちを表す時に使うしぐさです。
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「いってきます」「さようなら」など、単純な別れのあいさつの時に使います。
息子のテンションによって、片手だけ挙げたり、両手を挙げたり、小さく挙げたり、手をピンと伸ばして高く挙げたりします。
久しぶりに会った大好きな相手に応える時、もしくは大好きな食べ物を早く食べたい時などに使います。
手を何度も激しくたたいてあふれる気持ちを表しているようです。
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ジェスチャーは自由度の高いコミュニケーション方法
息子のジェスチャーは、マカトンサインや手話のように、「このジェスチャーはこの意味」という明確なルールがあるわけではありません。中には療育で教わったマカトンサインが元になって派生したものもありますが、完璧な形ではなく、意味もその通りではないのです。しかも、同じジェスチャーに複数の意味があります。
そうなると、「受け取る側はどんな意味か判別できないのではないか?」と思うかもしれません。しかし、意外とそこは困りません。
想像してみてください。例えばお辞儀や手を合わせるしぐさ、手を振る(手を挙げる)しぐさなどは、定型発達の大人でもよく使うものだと思います。
でも、そのしぐさに含める意味は、必ずしも一つに決まっているわけではないはずです。
同時に、そのしぐさをされた相手も、そのシチュエーションとあわせて意味を判断しているのではないでしょうか。
「このシーンでこの動作をしたなら『ありがとう』なんだろうな」「言葉はなかったけど『さようなら』と伝えたいんだろうな」という具合に。
ですから、息子がこのくらい幅の広い意味のジェスチャーをしていても、シチュエーションとあわせてなんとなく判断できるものなのです。
特にお辞儀などは、会釈も含めると「こんにちは」「すみません」「ありがとう」「いってきます」などさまざまな意味合いで使うもの。ジェスチャーはそれくらい自由度の高いものなのだと、改めて息子を見て思いました。
意思疎通ができるようになったのは、発語がなくても言葉の理解力が上がったから
ジェスチャーはこのように便利なものですが、息子がここまで場面にあわせて表現できるようになったのは、ある程度大きくなってからです。また、息子の成長は三歩進んで二歩下がるというような非常にゆっくりとしたものだったため、ある年齢になって急にできるようになったというわけでもありません。
ジェスチャーで意思を伝えるためには、まず相手の言っている言葉の意味をある程度理解できないといけないので、息子の中で言葉や物事の概念の理解が少しずつ深まっていった結果なのかな……と思います。
息子は発語はほとんどありませんが、着実に言葉の理解は進んでいると感じています。複雑な指示の理解は難しくても、簡単な指示は通りますし、特に、興味があること、好きなことについては知っている語彙(ごい)も増えてきたと感じる場面が多くなってきました。息子は、私がなんとなく「お菓子食べる?」「ラムネあるよ」などと言うと、急いで走ってきたり振り向いたりと、普段では考えられないくらい俊敏な反応を見せます。
分かりやすい「発語」という部分に注目してしまいがちですが、コミュニケーションにおいて大切なことは、相手が言っている言葉を理解し、自分の気持ちを表現して相手に伝えようとすることだと思います。
成長とともに、コミュニケーションの能力も伸びてきた息子。これからも言葉の理解をもっともっと積み上げ、いつか言葉を使って自分の意思を上手に伝えられるようになったらいいなと思います。
執筆/べっこうあめアマミ
(監修:新美先生より)
重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症がある息子さんの、コミュニケーションについて具体的に教えて下さりありがとうございます。
発語がなくても、ジェスチャーで意思表出し、それを受け取ってもらえる関係性はとても素敵ですね。特に自閉スペクトラム症がある方は、音声による発語がなくても、ジェスチャーや絵カードなどを用いることで、意思表出ができる方も多いです。音声による発語にこだわらず、さまざまな形式で、表出の種類が増えて、意思疎通ができるようになることはとても大切ですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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