発達障害のある子どもへの避難生活での配慮、車中泊、福祉避難所など知っておきたいポイント【専門家監修】
避難生活で発達障害のある子どもがおかれる環境
発達障害のある子どもの中には、慣れない環境や集団での行動に苦手さがあるなど、避難所生活が難しい子どももいます。また、感覚過敏や偏食などがあり、特別な配慮や対応が必要になる場合もあります。しかし避難するにあたって、障害のある子どもに対する配慮が難しい場合や周囲の理解が十分得られないなどの理由で、避難所生活をあきらめて車中生活を送る選択をすることもあるようです。
避難所での配慮、知っておきたいポイント
避難所での生活は、食べ物やトイレ、他人との距離感などが普段と大きく異なります。どんな子どもにとっても大変な状況であることは間違いありませんが、とりわけ発達障害のある子どもにとっては大きなストレスがかかる環境です。
「走り回る」、「大声を出す」といった行動も、その子の不安の表れであることが少なくありません。限られたスペースのなか、少しでも不安やストレスを軽減するには、どのような配慮をすれば良いのでしょうか。
以下では、発達障害のある子どもの避難所での配慮のポイントをご紹介します。
発達障害は、見た目からは分かりにくい障害ですが、他人との関わりや集団生活で困りごとを抱えることも少なくありません。また、困っていても言葉で説明することが難しいこともあります。
避難所を運営する方は、ご高齢の方や、病気や身体障害などのある方への配慮と同じく、発達障害によって特別な配慮が必要な子どもがいないかを、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
人が多く、にぎやかな所が苦手な子どももいます。そこで、パーテーションや仕切りを設置し、視界的にさえぎられる場所を作りましょう。
パニックになった時に落ち着ける場所としても活用できます。
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/041/04_pdf.pdf
参考:東京都 『東京防災』もしもマニュアル_生活 p.212
特定の食べ物しか食べられない子どもやアレルギーのある子どもの場合、避難所で支給する食べ物の確認が必要です。避難所を運営する方は、食べ物への配慮が必要な子どもがいないか事前に確認すると良いでしょう。
今後、避難所に食料を送られる場合は、食材や成分のリストを添えるといったことも心がけましょう。
また、どんな食べ物か分からないときは不安が大きくなり、食べられないことがあります。パンは袋から出して、飲み物はコップに注いで、実物が見える状態で渡すことで安心して食べられることもあります。
発達障害のある子どもの中には、長時間立って並ぶことや、順番を守ることが難しい子どももいます。また、目を離すことができない子どももいます。保護者が子どもをつれて列に並んで物資を受け取ることが難しい場合などは、直接手渡しをすることをおすすめします。
また、発達障害のある子どものなかには、指示の内容が理解できない、困っていることが伝えられない、人とコミュニケーションをとるのが困難な子どももいます。
そのような手助けが必要な子どもに対しては、一斉のアナウンスだけでなく個別に声掛けをしましょう。
トイレやお風呂に強いこだわりがあり、みんなと同じ環境での排便や入浴が難しい子どももいます。避難所を運営する方は、簡易式トイレや洋式便座を用意する、入浴の際は付き添いの人がつくなど安心してトイレやお風呂に行けるように配慮すると良いでしょう。
それでも、トイレに行けないという子どものために大人用のおむつを避難所で用意しておくこともおすすめです。
発達障害の特性があること、配慮やサポートが必要であることが分かりにくく、周囲の人に誤解されてしまう可能性があるかもしれません。どんな配慮や理解が必要か、周りに知らせるかどうかなどをお子さん本人や保護者の方と相談した上で、周囲の人に理解を広げることも大切です。
LITALICO発達ナビでは、災害時に避難所等で過ごす、発達が気になる子どもの保護者の方や周囲の方々へ向け、避難所などでサポートが必要な子どもの存在を知らせる「ヘルプマーク」を作成し、以下のリンクに設置しました(東京都申請済)。避難所での掲示などにぜひ、プリントしてご活用ください。
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お絵かき道具、本、音楽プレイヤー、ゲームなど子どもが楽しめるものを用意できれば、不安やパニックを緩和しやすくなります。
物資や電気・インターネットの通信環境が限られている状況では難しいことはありますが、身近なもので気をまぎらわせる方法がないか、お子さんとも相談してみましょう。水が不足しがちであったり、トイレの状況などにより水分摂取を控えることが多い避難生活では脱水症の危険性が高まります。
■症状
めまい、立ちくらみ、手足のしびれ、筋肉のこむら返り、気分が悪い、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、いつもと様子が違う。
(重度:返事がおかしい、意識消失、けいれん、からだが熱い)
■水分補給
こまめな水分補給などの調節は通常でも忘れやすいことなので、のどが渇いていなくても意識的にこまめに水分・塩分・経口補水液の補給を促してください。
発達障害がある場合は、体温調節が苦手であったり、触覚などの過敏性などから防寒をしたがらないことがあります。また、感覚鈍磨がある子どもは体調不良や痛みに気づきにくいといわれています。お子さんによっては、体調不良をうまく伝えられないこともあります。健康状態をこまめに観察し、毛布の使用、衣類の重ね着、床に直接座るのではなくマットや畳を敷いた上に座るなど、寒さ対策をしましょう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001enhj-att/2r9852000001enj7.pdf
避難所生活を過ごされる方々の 健康管理に関するガイドライン | 厚生労働省
感染症への注意も必要です。「手洗い」「マスクの着用を含む咳エチケット」で感染症対策をしましょう。
手洗いの際は、爪や指の間、手首もしっかり洗うことが大切です。流水で手を洗うことができない場合は、アルコールを含んだ手指消毒液を使用しましょう。
咳やくしゃみをする際にウィルスなどの飛沫を防ぐため、マスクは隙間がないように着用しましょう。マスクがない場合は、ティッシュや二の腕で口と鼻をおおいましょう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00346.html
災害時における避難所での感染症対策|厚生労働省
避難中のがれきや木片などでけがや切り傷がある場合、小さな傷であってもそこから感染症が広がる可能性があります。土砂災害の場合、破傷風の感染に注意が必要です。
以下のリンクでは症状や注意点、対処法などが記載されているのでぜひ、参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/110411_hashouhuu.pdf
破傷風についてのお知らせ | 厚生労働省
一般避難所が難しい方のための「福祉避難所」、「広域避難」「災害派遣福祉チーム」について
障害などのさまざまな理由で一般避難所での避難生活が難しい方のために、「福祉避難所」が市区町村ごとに設置されています。ここでは、専門的なスタッフや物資・備品による支援を受けることができます。
利用対象者は以下の通りに定められており、障害のある子どもも対象に含まれます。
内閣府令で定める基準は、次の通り(災害対策基本法施行規則第1条の9)。
・ 高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この条 において「要配慮者」という。)の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること。
・ 災害が発生した場合において要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること。
・ 災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること。
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_hukushi_guideline.pdf
石川県輪島市では2024年1月8日から福祉避難所での受け入れを開始、石川県珠洲市では福祉避難所7ヶ所開設予定ですが2024年1月11日時点で開設できていない状況となっています。
水や電気などのライフラインが復旧していない地域の避難所では、非常に厳しい状況が続いています。現在、被害が比較的小さかった地域の宿泊施設やビニールハウスなどを活用した広域避難がすすめられています。
また、高齢者、障害のある人、乳幼児への必要な行われないことが心配されており、全国では災害派遣福祉チームの派遣をすすめています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209718.html
災害時における福祉支援体制の整備等|厚生労働省
【専門家による解説】
福祉避難所は、障害のある方だけでなく、高齢者や乳幼児などさまざまな配慮の必要な方が利用されます。慣れない環境の中で大きな声を出してしまったり、うろうろしてしまうお子さんもいれば、それらの刺激に反応してしまう感覚過敏のあるお子さんもいます。福祉避難所の運営にあたっては、それぞれのニーズを聞き取り、利用者同士の相互理解に加えて、部屋や居住スペースの配置などの工夫が大切になります。発達障害のある子どもの場合には、日中の居場所(避難所以外も含めて)や余暇も含めた活動の設定、視覚的な支援が必要になります。
学校や施設などの日中活動の場を一日も早く復旧させていくことが大事になってきますが、復旧が長引くにつれて日中支援のニーズは高まると思います。過去の災害時には若くて元気のある方の中には福祉避難所での活動をスケジュール化してゴミ集めやお弁当配りなどの役割を担っていた方もおられました。
日中支援はお子さんの保護者の方だけでは難しいことも多く、保護者の方が日中活動されるためにも、運営者は外部からの支援者の手を借りれるよう声をあげていただき、連携できるとよいと思います。また、保護者の方が孤立しないように、親の会やネットワークなどを活用して互いの居場所や状況を共有しあったり、励ましあったり、地域の避難所情報を把握しあったりできるよう、地域の団体の運営する情報サイトなどをすすめていただければと思います。
お子さんや保護者の方、現場の支援者の方の不安やご苦労は言葉にはできないほどかと思います。そのような中大変かと思いますが、必要な支援についてはぜひ声をあげていただければと思います。
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車中泊をする場合の注意点
車中泊をすることになった場合は、配給リストから漏れたりする可能性があります。また、車中泊をしている家族の中には、配給の受け取りに行きたくても、子どもを置いて行けない、連れて行けないといった状況におちいる方々もいます。
避難所を運営される方は、そういったご家族が近隣にいないかコミュニケーションをとり、直接配給するなどの配慮をご検討ください。
多くの人がいる避難所や車中などにいる方は、思うように体か動かせなかったり一定の姿勢を強いられたりすることが多い状況です。軽いストレッチやマッサージを心がけましょう。以下のリンクに実践可能な予防策が載っています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212521_00001.html
エコノミークラス症候群の予防のために|厚生労働省
適切な配慮で避難生活を乗り切りましょう
発達障害のある子どもが避難生活を乗り切るためには適切な配慮が必要になります。避難所を運営される方や外部から支援に入られる方が、ここでご紹介した配慮のポイントをご参考にしていただければ幸いです。
以下のリンクでご紹介しているマニュアルもご参照ください。
みなさんのご無事と1日も早い復旧をお祈りしております。
http://www.rehab.go.jp/ddis/disaster/disaster_essence/
災害時 発達障害児・者支援エッセンス|国立障害者リハビリテーションセンター研究所
https://www.mhlw.go.jp/stf/shougai_r6notojishin.html
避難所等における障害児者への配慮事項等について(令和6年能登半島地震について)|厚生労働省
【質問募集】発達が気になる子どもの避難や防災
障害や発達特性のあるお子さんや保護者の方も慣れない生活の中不安な思いを抱えていたり、報道を目にして不安になっているお子さんもいらっしゃるかもしれません。
この度、発達ナビでは避難や防災に関する質問を募集します。
避難生活でのお困りごとや防災に関する疑問など、お寄せいただいたご質問からピックアップし鳥取大学 大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生にご回答いただき、記事での公開を予定しております。
複数質問のある方は、何度ご回答いただいても問題ありません。以下、フォームよりご応募ください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
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