1歳で自閉症は分かる?特徴や症状、チェックリストも【小児科医監修】
自閉スペクトラム症(ASD)とは?
ASD(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションや対人関係の構築が難しい、また常同的・反復的行動が多くみられる、乳幼児期に出現する精神発達の障害です。普段と違うことを嫌がる、大きな音や光などへの感覚の過敏さがあるなど、「強いこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」という特性もあり、知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。
症状の程度はそれぞれの人によって差があるため、スペクトラム(spectrum:範囲や連続体など幅を持った分布の意味)として診断されるようになりました。
https://doi.org/10.15064/jjpm.57.1_19
参考:傳田 健三著「自閉スペクトラム症 (ASD) の特性理解」『心身医学』57 巻 (2017) 1 号 P.19-26
ASD(自閉スペクトラム症)は生まれつきの脳障害で、脳内の情報処理の仕方に障害があるといわれていますが、その原因はまだ分かっていません。
この時期の成長や発達には大きな個人差がありますが、1歳でASD(自閉スペクトラム症)であると診断される指標として、
・共同注意場面において「指さし」や「(他者の)指さし方向に顔を向ける」行動が出にくい
・「他者の顔を見てほほえむ」などの社会的行動が出にくい
・定型発達の1歳児にみられる「関心の共有」に興味を持ちにくい
などがあげられます。次章以降で詳しく紹介します。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202002286301231949
参考:横山佳奈、吉田翔子、永田雅子著「自閉スペクトラム症児への早期介入における現状と展望」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要 心理発達科学(Web) 』66巻 (2020) P.7-16
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/07/dl/s0730-6a1.pdf
参考:自閉症Q&A|厚生労働省
1歳児の発達の目安って?
定型発達児における、1歳頃の発達の目安としては、
・歩き始め、手を使い、言葉を話すようになる
・身近な人や身の回りの物に自発的に働きかけていく
・歩く、押す、つまむ、めくるなど、さまざまな運動機能の発達や新しい行動の獲得により、環境に働きかける意欲を一層高める
・物をやり取りしたり、取り合ったりする
・おもちゃ等を実物に見立てるなどの象徴機能が発達し、人や物との関わりが強まる
・大人の言葉を理解するようになり、自分の意思を親しい大人に伝えたいという欲求が高まる
・指さし、身振り、片言などを盛んに使うようになり、二語文を話し始める
などがあげられます。
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12895174/www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/hoiku04/pdf/hoiku04b_0001.pdf
参考:保育所保育指針解説書 |厚生労働省
ASD(自閉スペクトラム症)の特性は1歳児でも表れる?--違和感や発達の遅れ、気になるサイン
1歳児は言葉の表出がまだまだ乏しいため、日常の中で気になる行動を見逃さないことが大切です。
1歳頃に表れる、気になる発達の遅れやサインとは、どのようなものがあるのでしょうか。
1歳児の気になる発達の遅れ、1歳児に表れやすいASD(自閉スペクトラム症)の特性として、
・目が合いにくい、呼ばれても反応しない
・社会性、言葉の発達(喋るのが遅い)などが表れやすい傾向
・睡眠の問題(寝つきが悪い、途中で目が覚める、夜泣き)
・人見知りがなさすぎる、あるいは人見知りが強すぎる、場所見知りが強い
などがあげられます。
子どもにASD(自閉スペクトラム症)があるかどうかの診断において、厚生労働省は1歳6ヶ月児健診でM-CHATという質問紙を使用した「スクリーニング検査」を推奨しています。対人(対象物)関係や行動面(こだわりや常同行動など)、日常生活における反応や行動を、保護者から聞き取ります。
・ほかの子どもに興味がありますか?
・何かに興味を持った時、指をさして伝えようとしますか?
・あなたのすることをまねしますか?(バイバイや拍手など)
・名前を呼ぶと、反応しますか?
など、実に20項目にわたり、将来において社会性の重要な基盤となる「非言語の対人コミュニケーション行動」を確認します。
成長は個人差が大きいこともあり、M-CHATでASD(自閉スペクトラム症)の可能性が高いとされた1歳児のすべてがASD(自閉スペクトラム症)と診断されるわけではありません。また、基本的にM-CHATは保健師などがチェックするものであり、保護者自身がチェックするものではありません。
https://mchatscreen.com/wp-content/uploads/2021/08/M-CHAT-R_F_Japanese.pdf
参考:「改訂乳幼児期自閉症チェックリスト修正版」M-CHAT-R_F_Japanese.pdf(mchatscreen.com)
1歳児に表れることの多いASD(自閉スペクトラム症)の特性による症状
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※成長の個人差は大きいので、すべてに当てはまる、あるいは当てはまる項目が多いからといって「ASD(自閉スペクトラム症)である」というわけではありません。
どこに相談や受診をすればいい?保護者ができることとは?
1歳児は成長の個人差がとても大きく、発達の振れ幅が多い時期ですが、育てづらさがあったり、「この子に合ったよりよい関わり方を知りたい」と思ったら、まずは自治体の保健師さん・保健センターに相談しましょう。それ以外にも保健所や療育センターなどでも相談できます。
http://www.rehab.go.jp/application/files/4715/8226/5891/1.pdf
参考:「1歳を迎えるお子さんをもつ保護者の方へ」|国立障害者リハビリテーションセンター
子どもの発達について不安に思った場合は日常の様子をメモするなど、記録に残しておくことも大切です。保護者が見たこと、感じたことは何より重要な資料であり、それが早期発見、早期療育にもつながります。
ただし、1歳児は成長・発達の個人差が一番大きい時期ともいえます。過度に心配したり気にしすぎたりせず、様子を見ながらおおらかな気持ちで接することも大切です。
(監修:新美先生より)
1歳頃のお子さんを育てるうえで、「1歳の子どもはこうであるべき」「1歳の子どものしつけはこうするべき」ということにとらわれ過ぎる必要はありません。うちの子はこういうことに興味があるんだな、こういうことをしていると楽しそうだな、こういう場面で困っているな、こういうシチュエーションは不安になるんだな・不快なんだなというお子さんの興味や苦手を探して、好きなこと興味ある活動を増やして、不快を減らして安心を増やすという方向性で関わっていけば間違いはないかなと思います。
その中で、睡眠がとれない、癇癪が強すぎるなど、親子が生活しづらい困りごとがある場合は、相談機関に早めに相談するのもよいと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。
程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。