お子さまの困りごとや課題に向き合うとき、優先順位を何からつけたらいいの?【LITALICO発達特性検査 監修者・井上雅彦先生インタビュー】
子育ての悩み、何から手をつけたらいいか分からないとき
LITALICO発達特性検査を受検される方は、おそらくなんらかの課題や悩みがあって利用されると思います。以前、検査結果にはその具体的な解決のヒントが紹介されているとお話ししました。
今回は、実際にレポートを読んだ際に、何から取り組むかをテーマにお話しできればと思います。
お子さまの課題や困りごとがいくつかある場合、どれから取り組んでいいのか迷いますよね。あるいは頑張ってあれこれ試してみたけれども、なかなか効果が見えにくく、疲弊するという方もいるのではないでしょうか。
取り組むべき課題の優先順位のつけ方や、どのような対応方法を選び何から試すのか、家庭で考えて選択していくのはなかなか難しいことだと思います。
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検査結果レポートを、お子さまについての「辞書」だと考えて
家庭で取り組む際にLITALICO発達特性検査をヒントにしていただけるといいなと思っているのですが、その理由の一つが検査結果のレポートにあります。
LITALICO発達特性検査のレポートの量は、検査対象のお子さまによって変わります。
困りや特性が強い傾向のある場合や、複数の分類の特性があるお子さまの場合には、それだけ検査結果も多く出力されることになります。
PDFにした場合、40ページくらいの方から、多い方で100ページを超える方もいらっしゃると思います。これは、一般の心理検査に比べると、検査結果のレポートの量としてはかなり多いでしょう。LITALICO発達特性検査のレポートは詳しい内容が広い分類にわたって出力されますし、解決法もできるだけ多くの選択肢が持てるように複数提示されるようになっています。
この量を受け取るとびっくりするかもしれないですね。ちょっと多いな、読むのが大変だな、と思われる方もいるかもしれません。
せっかく検査を受けたのだから、しっかり読みこんで、対応方法を試さないといけないと考える方にとっては、量が多いとプレッシャーに感じるかもしれないですね。
検査結果レポートの量が多いと感じる場合は、辞書のように気になるところを調べ、いくつか載っている選択肢から必要そうなところを選ぶというイメージで使うといいと思います。
「お子さまのサポート辞典」、あるいは「優先順位をつけるためのヒント集」というイメージです。
私は、結果が出ても、すぐにすべてを読まなくてもいいのではないかと思います。逆に、検査を受けたときにさっと目を通して終わりではなくて、手元に置いてずっと使ってほしいとも思っています。対応方法もいっぺんに取りかからなくても大丈夫です。そう考えていただくと、ボリュームが多かったとしても、そんなにプレッシャーにならないのではないでしょうか。
何から始めればいいか分からない場合の優先順位
量が多くて何から始めればいいのか迷う場合の具体的なアドバイスもお伝えします。
課題が多い際には、取捨選択をして優先順位をつけていくことが大事なのですが、どうしても「一番苦手なことや、一番目立っている課題から」と考えがちですね。でも私は、どちらかというと、ちょっと困っていて、ちょっとやり方を変えられそうなことが、まず試してみるにはちょうどいいと思います。
一番困っていることや苦手なことって、なかなかすぐには変えられなかったり、お子さまにとっても負担が大きいことでもありますよね。
苦手なものよりは比較的得意なものから取り組むと、うまくいきやすいですし、成功体験になります。また周りの人もどうしたらできるようになるか、共通理解をしていけるといいですね。そのためにも、手をつけやすい課題がおすすめです。大きな目標に取り組む場合、課題を分解して小さな目標にしていくといいと思います。
うまくいかなかったとしても、それは失敗ではなくて、どうしてうまくいかなかったか、より適切な方法はないか改善点を考えるための材料になります。周りの方と話し合ったり、相談して別の方法を試すための出発点として使っていただくのもいいですね。
どれが試しやすいか悩むなというときや、やはり今一番困っていることから取り組みたいという場合には、ぜひ、専門家に相談して一緒に取り組むといいと思います。
年齢や発達段階によっても変わる優先順位の考え方
もう一つのポイントとして、その子の発達段階や環境などによって、取り組む優先順位や手段を選んでいくといいなと思っています。特に、スキルの獲得と環境調整について、この観点が大事になってきます。詳しく説明しましょう。サポートの方法として、大きく挙げられるのがは本人がスキルを獲得できるように促していくという考え方と、周りを本人に合わせていく環境調整です。
両方大事な考え方なのですが、「どちらをより重視すべきか」とよく聞かれます。時々誤解をされることもあるので、あえてお話しすると、これは特性のあるお子さまにとって、苦手とどう向き合うかという話にもつながると思うのです。
苦手を克服するために訓練する・我慢する、あるいは苦手なところはすべて環境調整で補うというふうに両極端に捉えて考えると、なかなかうまくいきません。スキルトレーニングだけでは解決できず、無理や疲弊につながる可能性があったり、環境調整だけではお子さま本人にとって本来獲得すべきスキルが身につかなかったりするからです。
スキルトレーニングと環境調整、どちらか一方だけではなく、そのときの発達段階や環境に応じた方法を選択したり、両方をミックスしていくことがポイントになります。
もしかしたら、保護者の方だけで、まずどちらからやってみるか決めたり、ちょうどいい落としどころを見つけるのは意外と難しいかもしれませんね。やってみてうまくいかない場合や、対応方法の選択に葛藤した場合、LITALICO発達特性検査のレポートを支援者や専門家に見せることで相談もしやすくなります。
年齢が低いお子さまの場合、発達段階の途中としてスキルを獲得するということがまだまだ必要な場合もあります。また、発達段階を飛ばしていきなり難しいことに取り組むのも、無理があるということもあります。そのときにちょうどいい、「ちょっと頑張ればできそう」に取り組んで、スキルを獲得していくということが重要になってきます。
逆に、年齢が上がってくると、頑張って苦手なスキルを獲得することよりも、周りや本人が自分の特性を理解して、うまく付き合っていく方法を身につけるというほうが大切な場面も出てきます。例えば、うまくいかない場合に別の方法に切り替えたり、周りに助けを求めることができるスキルをつけていくという方法です。
LITALICO発達特性検査で紹介されるサポートの方法や、困りごとの事例は、3歳から高校生の年代まで、それぞれの年齢に応じた内容で出し分けられます。なので、同じ特性であってもお子さまの年齢によってレポートの文章や内容が変わるのです。
その理由の一つが、発達段階や環境などに応じた対応方法を選んでいくという、先ほどお伝えした観点にこだわっているからです。
幼稚園で現れる困りと高校での困りは当然違うし、その解決法やサポートも変わりますよね。ですので、同じ特性や困りごとであっても、年齢に応じた適当な例示やサポートの内容を提示できる仕組みにしています。
例えば、不注意の特性があるお子さまに向けての「分かりやすい手がかりを活用する」というサポートについてを例に挙げてご紹介します。分かりやすい手がかりを用いることで、指示や課題を理解しやすくなるという方法なのですが、その年齢に応じて、よく挙げられる悩みや課題を例示として提示し、その対応方法を紹介しています。
未就学のお子さまの場合は、口頭でのコミュニケーションでの困りごとに対し、「話し始めるときは名前を呼び、注意を引きつけてから話す」という方法が示されます。
中学生の場合は、授業での場面を想定した事例で、「『黄色の文字は重要単語だよ』『下線部は間違いやすいから要確認だよ』など強調して注意を促す」という方法が紹介されています。
ほかにも未就学のお子さまの場合、具体的にボタンをとめる練習方法を挙げていたり、その年齢でのスキル獲得でよくある課題を多く取り上げています。また、サポートの方法も、手助けの量が多めだったり、発達段階に応じて無理のないようなやり方を提示しています。
年齢が上がってくると、本人が自力でできることを目指した対応方法も多くなります。あるいはどうしても難しい場合は人に助けを求めたり、道具を変えてみたり、合理的配慮を求めたりといったスキルや方法を多めに紹介したりといった工夫がされています。
受検されたときのお子さまの年齢で検査結果が出るので、1回の受検ではおそらく保護者の方は気づかないとは思うのですが、もし今後、成長につれて再受検されると、同じ困りごとや特性であっても、レポートで提示される内容が変わる場合があるかもしれませんね。
このように、お子さまの発達段階やライフステージに合わせて、スキルやサポート方法を変えていくという視点もヒントにしていただけるといいと思います。
「これならできそう」を見つけて試す
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今回は優先順位についてお話ししましたが、LITALICO発達特性検査のいいところは、レポートの段階ですでに優先順位がつけやすくなっていると言うことが挙げられます。質問に回答することで情報がお子さまに合うように絞られること、その中から選択肢が選べるということです。
複数の選択肢が記載されている意味としては、実際には、お子さまにとってどれが合うか、どれが取り組みやすいかは試してみないと分からないということがあります。また、それぞれのご家庭でその子や状況に合うように、さらにチューニングしていく必要はあると思います。それでも、家庭でまずやってみる場合、十分ヒントになるのではないでしょうか?
受検された方には、検査結果を手元に置いていただいて、時間のあるときにパラパラ見ていただければと思います。きっと「これならできそうかも」「ちょっと試してみようかな」「支援者の方に共有すると役に立ちそう」というところが見つかるのではないかと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。