【専門家コラム】医療×NPO×地域のあいだに立ち、診察室の"限界"を超える。LINEで24時間相談、現役小児科医が挑む「地域の居場所」づくり
小児科医としての原点 ――「からだ・こころ・くらし」を診る
小児科を選んだ一番の理由は、臓器別の専門ではなく、子どもたちの「からだ」「こころ」「くらし」のすべてを一体として診る“総合医”である点にあります。
新生児から思春期まで、子どもは発達段階によって症状の表れ方も、困りごとも、必要なサポートも大きく変わります。医学的な知識だけでは、子どもを支えることはできません。家庭の状況、学校生活、友人関係――その子の“くらし全体”を理解してこそ、本当の意味での治療につながります。
学生時代には精神科に進むことも迷いましたが、最終的には「身体も心も生活も、全部ひっくるめて診る」という小児科のスタンスに惹かれ、この道を選びました。
神経発達や子どものこころを専門とし、医療的ケアが必要なお子さんや、そのきょうだい、ご家族を支えるNPO法人「うりずん」の活動にも関わっています。
地域医療の現場で見えた“孤立”
自治医科大学を卒業した私は、修学資金返済のために早い段階で地域医療に携わりました。初期研修後すぐに地域の小児医療の現場に入ったことで、「医療の手前」にある課題の大きさに気づくようになりました。
たとえば、喘息で入退院を繰り返すお子さんがいました。治療だけではなかなか良くならず、お話を丁寧に聞く中で「家ではなんとなく落ち着けない」と感じている様子がありました。一方で、その保護者の方は本当に懸命に子育てをされていました。ご自身が幼少期からさまざまな苦労を経験されており、「どう接したらいいのか自信がない」と迷いながらも、毎日を一生懸命に支えておられました。
子育ては、生活の忙しさと常に隣り合わせです。きょうだいの世話や家事、介護、仕事などが重なると、定期受診が難しくなったり、受診したい気持ちはあっても心の余裕がなくなったりすることがあります。また、「こんなことで受診していいのだろうか」「叱られてしまわないだろうか」と、ためらいが生まれるのはごく自然なことです。
子育ての大変さが続くと、保護者の方が心身の不調を抱えることもあります。
お子さんも保護者の変化にとても敏感で、「おなかが痛い」「学校に行きたくない」というかたちで気持ちを表すことがあります。
どの家庭にも、誰にでも、生活が「少し大変になる時期」は訪れます。丁寧に診察をしていくと、子どもの症状の“根っこ”が見えてくることがあります。
しかし、その根っこにある課題を、診察室だけで解決することは非常に難しい。医療にできることは全体のほんの一部です。診察室で気づいたことを地域にどう戻すか、どこに橋渡しできるのか――そこに限界を感じる場面も多くありました。
この「医療の限界」と「地域の孤立」が、後にNPOを立ち上げる大きな原動力となりました。
NPO「そらいろコアラ」が生まれたきっかけ
診察室で、「私、虐待しています」と涙ながらに話してくれた保護者の方がいました。
その方には周囲に頼れる人が少なく、妊娠期から健診・予防接種を通して一緒に見守ってきました。苦しい気持ちを正直に打ち明けてくださったことは、「信頼関係を少しずつ築いていけば、SOSを出してもらえる」という強い確信につながりました。
一方で、誰にも妊娠を打ち明けられずに、自宅で出産し、医療につながった時点では助けることができない命とも出会いました。
「声にならないSOSをどうすればつかめるのか」――その問いが私の中で大きくなっていきました。
そこで2020年、「地域のSOSをキャッチし、安全な居場所につなぐ仕組みをつくりたい」という思いから、NPO法人「そらいろコアラ」を設立しました。
私たちの軸は明確です。医療の気づきを支援につなぎ、“孤立の連鎖を断ち切る”こと。
匿名で24時間相談できる「コアLINE」
行政や支援につながる前の段階で悩んでいる方は、「こんなこと相談していいのだろうか」と遠慮してしまったり、相談先そのものが見つけにくかったりします。
そこで、誰でも匿名で24時間相談できるLINE窓口「コアLINE」を立ち上げました。妊娠の不安、育児のしんどさ、パートナーとの関係、経済的な困りごと、外国ルーツの方の孤立、発達に関する悩み――一見小さく見える相談の背景に、大きな「生きづらさ」が潜んでいることもあります。
どこかに安心できる「居場所」があることの力
栃木県内で、こどもと保護者が安心して立ち寄れる居場所「そらいろポケット」を2つの拠点で運営しています。
ここでは、お茶を飲みながらゆっくり話したり、こどもたちが自然に遊んだり、相談相手や居場所が少ない親子が自分のペースで過ごしたりしています。
医療×NPO×地域のあいだに立つということ
医療の現場では、「もっと早くつながっていれば」と感じる場面は少なくありません。一方、NPOの現場では、制度につながる前の“グレーゾーン”で悩む方に多く出会います。
発達特性のあるお子さんの保護者の中には、「相談したら迷惑では?」「診断されるのが怖い」と一人で抱え込み、なかなか一歩を踏み出せない方もいます。
そんなとき、居場所にふらっと来て「実は……」とこぼしてくださる。
医療の専門性と、地域のNPOとしての柔らかい関わり――その両方があるからこそできる支援があります。
私はこれからも、その“あいだ”に立ち続けたいと思っています。
「子育ては誰にも習わない」
だからこそ、上手にできなくて当たり前。そんなときに“ちょっと助けて”と言える場所があることが、子育てやこどもたちの健やかな育ちを支えるのだと思います。
最後に――今後のコラムに向けて
今回は、私自身の歩みと「そらいろコアラ」の活動について紹介しました。
今後のコラムでは、
- 相談事例や、一人で抱えないための工夫、居場所づくりの実践
- ケアをする人をケアすること
- 家庭・園・学校・療育(発達支援)・医療をつなぎ、切れ目のない支援をつくるために地域でできること
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。このコラムが、少しでも皆さまの「安心」や「ヒント」につながれば幸いです。
https://npo-sorairokoala.jimdofree.com/
そらいろコアラ
※クリックすると、発達ナビのWebサイトから『そらいろコアラ』Webサイトに遷移します
https://npo-sorairokoala.jimdofree.com/%E5%A6%8A%E5%A8%A0-%E8%82%B2%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E5%9B%B0%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%96%B9%E3%81%B8-1/%E7%84%A1%E6%96%99line%E7%9B%B8%E8%AB%87%E7%AA%93%E5%8F%A3/
コアLINE
※クリックすると、発達ナビのWebサイトから『コアLINE』Webサイトに遷移します
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。