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【星槎大学大学院教授 阿部利彦】「分からない」が言えない子をどう支える?真の自立につながる「援助を求める力」の育み方

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「分からないと言えない」「困っているのに助けを求められない」。これって「やる気」の問題?


「分からないと言えない」「困っているのに助けを求められない」。こうした姿を前に、「本人のやる気」や「甘え」の問題だと感じてしまうことはないでしょうか。しかし、自分一人で抱え込み、孤立してしまうことは、本当の意味での「自立」ではありません。

本記事では、星槎大学大学院の阿部利彦先生が、自立に向けた重要なスキルである「援助を求める力(援助要請スキル)」について解説します。なぜ助けを求めることが難しいのか、そして周囲がそのSOSをどう受け止めるべきなのか。お子さんや自分自身が、よりしなやかに生きていくためのヒントを一緒に考えていきましょう。

人に助けを求めること


「人に助けを求めること」の大切さと難しさを感じたのは、私がはじめて支援の現場に出た、今から30年ほど前のことです。当時、私は障害者職業センターで生活支援パートナー(ジョブコーチ)の仕事をしていて、その時担当した方々それぞれに「人に助けを求めること」の難しさを抱えていました。
たとえば仕事に必要な道具がない時に近くの人に「貸して下さい」ということ、物品をどこに置けばいいか分らない時に誰かにたずねること、機械の操作をわすれてしまって「もう一度教えて下さい」ということ、どれも仕事をする上で必要なことですが、その方たちにとってはとても難しいことだったのです。

中には「分からないこと」を上司や同僚に聞くことができず、自己判断で器械を操作し、あやうく就労予定先に損害を与えてしまう、というようなこともありました。そもそも、自分が「分からないこと」が「分かる」ということはとても重要です。何が「分かっていないか」が「分からない」と確かめることも質問することもできません。

当時、障害者職業センターでは、障害のある方々が就労に向かう前の段階として、ソーシャルスキルトレーニングをしていました。そこでもいわゆる「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)の重要性とロールプレイを実施していましたが、トレーニングの場でできたことが、職場ではできない、般化されない、ということも知りました。トレーニングで学習したことを、別の場所で活用する、応用する、ということはとても難しいことなのです。さらに、職場ではずっと同じ仕事をするわけではありません。
そうすると新しい仕事に慣れるまでに、分からないこと、確認しなければならないこと、やりなおさなければならないこと、があります。それを一人で抱え込むのではなく、人に聞くことができる力は必要なのです。

その経験から、就労・自立にとって重要なスキルは「援助を求めるスキル」である、と考えるようになりました。

しばらくして私は、教育相談の仕事につくことになりました。そこで知ったのは、相談にたどりつくまでに、何度も葛藤し、悩み、苦しんできた保護者の方々の思いです。「誰かにわが子の不登校や発達について相談する」というのはとても大変なことです。保護者にとって心理的な相談をする場所というのは非日常であり、敷居がとても高いのです。多くの保護者は自身で自分の子育てをくやみ、責任を強く感じています。
そのことを誰かに自己開示する、というのは容易なことではありません。

「誰かに相談する」ということは、先生方にとっても大変なことです。自分のクラスのお子さんの対応が難しい場合、周囲からも「教師の指導力不足」とみられる可能性が高いからです。今はスクールカウンセラーや特別支援教育コーディネーター、巡回相談員などに相談する、ということも可能になってきてはいますが、それでも多くの先生は自分をせめてしまうでしょう。

私は「困っているので一緒に考えて欲しい」「教えて欲しい」「助けて欲しい」と言うことができない立場の人たちを、「援助を求めることができない」と捉えているのではありません。人に助けてもらうことを「甘え」と捉えることは正しくないということ、人に助けてもらう人は「弱い人」ではないということ、そして自立とは「誰の助けも借りずに一人で生きていくこと」という考えは正しくない、ということを皆さんと考えていきたいと思います。
誰の力も借りずに生きていくことは「自立」ではなく「孤立」ではないかと思うのです。

「援助を求める力」とは


「援助を求める力」を援助要請スキルともいいます。
この「援助を求める力」の必要性についてお話しすると、「なんでも自分でやろうとしないで、すぐ人に頼ろうとするようになるのではないか」と言われることがありますが、それは誤解です。

援助要請には、3つの種類があると言われています。皆さんが心配されているのは「援助要請過剰型」と言われるもので、自分で解決しようとせず、何でも人にやらせようとする、というような援助要請の形です。もう一つは、先ほど就労の場面でもお話しした、誰にも援助を求めないという「援助要請回避型」と言われるものがあります。

この記事でお伝えしたい「援助要請」のタイプとは、「援助要請自立型」と言われる「困難を抱えても自身での問題解決を試み、どうしても解決が困難な場合に援助を要請する傾向」(永井,2013)のことです。私は援助を求める力とは「問題を解決するために、適切な相手の力を借りながら、最終的には自力解決するための技術」(阿部,2025)と捉えています。

スキルというと、その子(人)個人の能力とつい考えがちですが、その「援助を求める力」を発揮するためには、周囲の人たちの「援助を受けとめる力」が必要となります。したがって、環境とのマッチングで検討していく必要があるのです。

またそういう「困った」「一緒に考えてほしい」と「援助を求めた」時に、周囲の人たちが「援助要請」をしっかりと受けとめてくれたという体験が重要となります。

子どもたちの「助けを求めてよかった」体験の蓄積が不可欠なのです。

https://doi.org/10.5926/jjep.61.44
参考文献:永井智「援助要請スタイル尺度の作成—縦断調査による実際の援助要請行動との関連から—」教育心理学研究,2013年61巻1号 p. 44-55

https://www.chuohoki.co.jp/site/g/g82430282/?srsltid=AfmBOooWnaoBwZ2iMRn5XgWY1QDgeadbErXx-1BvM7vlWcigclSMuL51
参考文献:『援助を求める力』を大切にする支援(阿部利彦編著/中央法規出版社,2025)

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