【専門家コラム】グレーの中にいる、声にならないSOSを拾うために。小児科医が伝える「今日からできる3つのこと」
保護者の気持ちも、空の色も
私が共同代表理事を務めているNPO法人「そらいろコアラ」では、栃木県を拠点に、妊娠や育児に関する相談をLINEで受け付けています。
子どもの行動上の困りごと、親のストレス、家族関係、親子関係。園でのトラブル、言うことがきけない、やるべきことがどうしても進まない、分かっていてもイライラしてしまう、といった具体的な困りごとは、診断の有無にかかわらず、今この瞬間の生活を揺らします。
そんな中でも保護者の方々の気持ちは、多くが両価的でアンビバレントです。
「発達の問題や障害があったらどうしよう」「名前がついてしまうのが怖い」
そう感じる一方で、
「もし問題がなかったら、この子の困りごとは私の育て方のせい?」「何か理由があるなら理解できるのに」
両方の思いを、同時に抱えています。
「家では言うことを聞かないのに、園では問題ないと言われる」
そんな相談も少なくありません。
集団に適応ができているのはうれしい。でも、自分の関わり方が悪いのではと責めてしまう。
発達相談や検査に連れて行くことは、自分が楽になりたいからではないか。子どもの一生にラベルを貼ってしまうのではないか。
病院への受診や療育を第三者から勧められたり、家族間で意見が分かれたり、批判されたり。さまざまな葛藤を抱えながら、ようやく医療機関にたどり着くことがあります。診察室に親子が現れるまでに、これだけの迷いがあったことを想像しながら診療に向き合えたら、といつも思っています。
どこで生まれ、どんな家で育ち、どんな人と出会い、窓から見えていた空がどんな色をしていたとしても。どんな気持ちも持っていいこと。それは誰にも責められるべきではないこと。
ありのままで受け入れられていいのだということを、伝え続けたいと思います。
「声にならない」ということ
「そらいろコアラ」では、子どもと保護者が安心して立ち寄れる居場所「そらいろポケット」の運営も行っています。この、地域の居場所づくりの現場では、自分の困りごとやSOSが言語化できず、つながれないまま孤立している親子に出会います。
困っているのに説明できない。
困っていることに自分で気づけない。
周囲からは「大丈夫そう」に見えてしまう。医療現場では、「今すぐ診断という段階ではありません」「少し様子を見ましょう」と伝えられることがあります。
それは突き放しているわけではなく、発達の揺らぎを慎重に見ているからです。
けれど保護者には、
今も困っている。毎日疲れている。どう関わればいいか分からない。
という“現在進行形の苦しさ”があります。
この宙ぶらりんな時間に、孤立が生まれやすいと感じます。だからこそ必要なのは、
- 困りごとを具体的に言葉にすること
- 保護者が一人で抱え込まない環境をつくること
- 「困っている」と言っていい空気があること、言わなくても責められないこと
だと考えています。
診察室でできることは限られています。だからこそ、地域の居場所づくりを通して、なかなか声にならない困りごとやSOSを、どうにかして拾える仕組みがつくれないか模索しています。
すべてはグレー
白い絵の具に一滴でも黒が混ざれば、それはグレー。黒に一滴の白が入っても、やはりグレーです。
私もあなたも、すべてはグレーの中にいるのだと思います。私自身も、締め切りに原稿が間に合わず、言いたいことがまとまらず、誤字脱字の嵐。助けられてばかりです。それでも、自分はできると思えること、読んでくださる方がいると思えること、自分に価値があると信じられること。子どもたちにもそれが大切だと伝え続けたいです。
「グレーゾーン」という言葉は便利ですが、大切なのは白か黒かを決めることではありません。
“その子にとっての困りごと”を具体的に減らしていくこと。環境を少し整えるだけで楽になる子もいます。大人の理解が一つ増えるだけで安心できる子もいます。
今日からできる3つのこと
もし今、「名前や色を持たない苦しさ」のあいだにいると感じている方がいれば、
- 1.困りごとを具体的に書き出してみる(いつ・どこで・何が起きるか)
- 2.「できないこと」だけでなく、「うまくいく条件」を探してみる
- 3.話せる場所をひとつ持とうとすること
それだけでも、孤立は少しやわらぎます。どれか1つでもかまいません。
“ちょっと助けて”と言える場所があること。それが、子どもと家族の未来を支える土台になると、私は信じています。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
地域での切れ目のない支援については、また別の機会に書いていけたらと思っています。
私のコラムが、皆さまの安心やヒントにつながれば幸いです。
https://npo-sorairokoala.jimdofree.com/
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コアLINE
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。