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【取材レポ】特別支援学校の卒業は学びの終わりじゃない。「18歳の壁」に挑む「夢育て農園」

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「学校を卒業しても、成長は続く」ー保護者の不安に応えるユニバーサル農園がオープン


特別支援学校の高等部を卒業する18歳。多くの子どもたちにとって社会へ出る大きな転機ですが、同時に「18歳の壁」と呼ばれる課題があると言われています。

「学校を卒業したら、新しいことを学ぶ機会がなくなってしまうのではないか」
「この子らしく、楽しみながら成長し続けるためにはどうすればいいのか」

そんな教育と就労訓練の間にある隔たり、保護者の不安に対し、一つの答えを提示する場所が東京・世田谷に誕生しました。それが、NPO法人ユメソダテと株式会社夢育て(東京都世田谷区、代表:前川哲弥、以下ユメソダテ)が2026年3月1日(日)にオープンしたユニバーサル農園「夢育て農園ちとから」です。

【取材レポ】特別支援学校の卒業は学びの終わりじゃない。「18歳の壁」に挑む「夢育て農園」

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知的障害のある人の多くは、18歳で特別支援学校高等部を卒業すると、就労継続支援事業所(A型・B型)や生活介護事業所などに通うのが一般的な進路です。そこでは作業や生活支援が中心となり、新しいことを学び、自分の能力を伸ばしていく機会は、学校在籍中に比べると限られがちです。

「“成人した知的障害のある人は、成人期以降になると成長がみられにくい”という、専門家を含め社会全体において長く存在してきた固定観念がありました。ですが近年、科学的な見地からこの常識は覆りつつあります。
脳科学の分野では、脳は年齢を重ねても可塑性を持ち、適切な刺激や環境さえあれば何歳になっても学びや成長が促されることが示されています」(NPO法人 ユメソダテ 代表 前川哲弥さん)

「夢育て農園」は、こうした客観的な科学的知見に基づき、成人後も「成長を実感できる環境」を現場で設計し、実践と検証を重ねてきました。さらに、社会状況も変化しています。2026年7月には、法定障害者雇用率が現行の2.5%から2.7%へ引き上げられ、企業における障害者雇用の規模はさらに拡大します。入社後に職場へ定着し、その人らしく活躍できる「成人後の育成のあり方」に、社会的な注目が集まっています。

科学的アプローチ×農業。独自のプログラム「夢育て1.0」とは


「18歳の壁」に対する具体的な取り組みとして、ユメソダテが中心に据えているのが、独自の教育プログラム「夢育て1.0」です。これは農作業を含めた4つの要素を体系的に組み合わせた構成になっています。

  • 体操(姿勢・呼吸・身体操作):エクササイズを通じて、身体機能を高め、学びのための基盤をつくる
  • 座学(数・言葉・図形などの認知課題):各教材を使い、空間認知や比較・分類力などの認知能力を高める
  • 対話(夢語り):夢を書き込む「ゆめノート(NPO 法人ちびっと)」に書いた夢をみんなの前で語り、自分の夢を進化させる
  • 農作業:畑での農作業を通じ、学んだことを具体的に体験することで、抽象的な概念を身体的に学習する

この取り組みによる利用者の方の変化について、ユメソダテでは認知テスト等を用いて客観的に数値の変化を把握し、学会等で継続的に発表を行っています。これまでに査読論文1本、職業リハビリテーション研究実践発表会での報告8本という実績があります。


また、国や社会からも評価されており、農林水産省・厚生労働省・法務省・文部科学省の4省が主催する「ノウフクアワード(チャレンジ賞)」の受賞(2024年2月)や、国の「農福連携等推進ビジョン(改訂版)」への位置づけ(2024年6月)にもつながりました。

企業も注目する「夢育てアライアンス」


ユメソダテの取り組みは、福祉の枠を超えて企業にも広がりを見せています。2024年10月には、この理念に共感する福祉事業所や農家などと連携するプラットフォーム「夢育てアライアンス」が立ち上がりました。

2025年10月には、企業として初めて株式会社ファミリーマートが「夢育て1.0」を導入。同社では、障害のある社員の成長の機会と自立を支援することを目的として、このユメソダテのメソッドを取り入れています。

「知的障害のある子どもや大人たちは、ゆっくりですが確実に成長していきます。だからこそ、18歳で学びを止めずに、機会をつくり続けていくことが必要です。私たちの現場で培ってきたノウハウは公開しています。
保護者の方がご家庭で実践いただいたり事業所などを運営されている方が活用していただいたりすることで、成長の循環を拡げられればと考えています。また、ファミリーマートさんのように企業として一緒に取り組んでいくなど、さまざまな関わりの形があります。これからも多様な方々に応援していただきながら、共にユニバーサルな農園を育てていきたいと考えています」(NPO法人 ユメソダテ 代表 前川哲弥さん)

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「人を育てる畑」2つのコース


「夢育て農園ちとから」をはじめとするユメソダテの農園では、年齢や目的に応じたコースを設けています。

1.人を育てる畑 少年少女コース【日曜日 午前1時間半/入学随時】
畑に自力(または家族、支援者同伴)で通える知的障害や発達が気になる小中高校生を中心に募集しています。

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2.人を育てる畑コース 青年コース【木曜日 13:30~16:00/入学随時】
畑に自力(または家族、支援者同伴)で通える知的障害のある10代、20代の就労移行支援事業所、B型事業所に通っている方を中心に募集しています。

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障害のある人が農作業をスムーズにできるようにするためは、栽培のための整備と準備の作業が大切であり、夢育て農園の運営は地域の方々の協力によって成り立っています。現在も、農作業や活動をサポートするボランティアを広く募集しています。

誰もが学び合える「認知の学校」の実現へ


「夢育て農園ちとから」を新たな拠点として、ユメソダテは新たな一歩を踏み出します。
今後、地域と共に支える担い手を広げながら、「夢育てアライアンス」を200団体規模へ、そして提携企業を50社へと拡大することで、年間100人を受け入れられる体制の構築を目指しています。

さらに、知的障害のある方から発達・精神に障害のある方、高齢者や子ども、そしてビジネスパーソンへと対象を広げた「認知の学校」への発展を見据えています。その実現に向けて1,000人規模の指導人材を育成し、地域に根差した「持続可能な学びのモデル」を全国へ広げていく計画です。

取材を終えて


自身も知的障害のあるご長男を育てながら、「特別支援学校の卒業を、学びの終わりにしたくない」という強い思いを原動力に活動する前川哲弥さん。大学院で自ら研究を行いながら、最新の知見と地道な実践によって知的・発達障害のある人の特別支援教育や就労支援に取り組んでいます。

前川さんは、「障害のある方にも『成長の軸』があります。仕事での成長は醍醐味であり、誰もがあきらめずに生きられる社会は良い社会です」と語ります。そして「この取り組みが地域に浸透し、日本中に広がっていけば、わが国はより豊かになるのではないか」と先を見据えています。
オープンデーに集まった多くの人たちの笑顔から、前川さんの思いに共感し、成長をあきらめない社会を目指す人々の輪は、これからさらに大きくなっていくと感じました。

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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。
程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

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